「メディア批判」は「はい/いいえ」で尋ねると過大に見える可能性

「メディア批判」は「はい/いいえ」で尋ねると過大に見える可能性

「マスコミは社会に有害?」への同意は、直接質問45.1%>リスト実験29.7%

2026-6-29社会科学系
人間科学研究科教授三浦 麻子

研究成果のポイント

  • 日本の成人を対象に、「マスコミは社会に有害だ」という意見への同意を、直接質問(はい/いいえで回答)する場合と、リスト実験(複数の文をまとめて示し、あてはまる数だけを回答)の場合とで比較したところ、直接質問では45.1%が同意した一方、リスト実験による推定値は29.7%となった
  • 社会的望ましさバイアスによって、メディア批判を言明しやすい社会的文脈では、否定的態度が直接質問で過大に表明される可能性がある(「望ましいと感じられる意見を強めに表明する」方向にもバイアスが働きうることを示した)
  • メディア批判・不信を調査する際、直接質問の結果をそのまま人々の態度の水準とみなすことには注意が必要

概要

大阪大学大学院人間科学研究科の三浦麻子教授は、日本におけるメディアへの否定的態度が、質問の仕方によってどのように異なるかを検討しました。

本研究では、日本の成人を対象とした2つのウェブ調査での実験において、「マスコミは社会に有害だ」という意見への同意を、通常の直接質問とリスト実験によって測定しました。その結果、直接質問では45.1%が同意したのに対し、リスト実験による推定値は29.7%でした。両者の差は15.4ポイントで、統計的にも有意でした。この傾向は2つの調査で一貫して確認されました。

これまで、調査回答における「社会的望ましさ」バイアスの研究では、偏見や差別的態度など、表明しにくい意見が過少に報告される問題が多く扱われてきました。しかし、社会的望ましさは、ある意見を表明することが周囲への同調や立場表明として受け取られる場合、その意見はむしろ過大に報告される可能性があります。今回の結果は、メディアへの否定的態度が常に「本当は思っていても言いにくい」ものとは限らないことを示しています。むしろ、メディア批判が社会的に言いやすい状況では、直接質問に対して否定的な回答をすること自体が「社会的に望ましい」反応となり、実際より高く報告される可能性があることが分かりました。

本研究成果は、国際学術誌 International Journal of Public Opinion Research に2026年6月24日に掲載されました。

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図1. 直接質問とリスト実験における「メディア批判」への同意率

研究の背景

世論調査では、回答者が自分の考えをそのまま答えるとは限りません。これまで社会的望ましさの研究では、偏見や差別的態度など、表明しにくい意見が過少に報告される問題が多く扱われてきました。

しかし、社会的望ましさは常に「否定的な意見を隠す」方向に働くとは限りません。ある意見を表明することが周囲への同調や立場表明として受け取られる場合、その意見はむしろ過大に報告される可能性があります。

近年、日本では「マスゴミ」という表現に象徴されるように、マスメディアを強く批判する言説がインターネット上で広く見られます。本研究では、このような文脈において、メディア批判が直接質問で高めに表明される可能性を検証しました。

研究の内容

本研究では、2つのウェブ調査に実験を組み込み、回答者をランダムに条件へ割り当てました。

直接質問条件では、「マスコミは社会に有害だと思いますか」と尋ね、「はい」または「いいえ」で回答してもらいました。

リスト実験条件では、複数の文を提示し、「あてはまるものがいくつあるか」だけを答えてもらいました。この方法では、回答者がどの文に同意したかは個別には分からないため、特定の意見を直接表明する心理的負担や、周囲に合わせて答えようとする影響を抑えやすくなります。

分析の結果、直接質問では45.1%が「マスコミは社会に有害だ」に同意しました。一方、リスト実験による推定値は29.7%でした。直接質問のほうが15.4ポイント高く、この傾向は2つの調査で一貫して見られました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、メディア批判やメディア不信を調査する際、直接質問の結果をそのまま人々の態度の水準とみなすことには注意が必要であることを示しています。

特に、批判的な意見を述べることが社会的に受け入れられやすい、あるいは周囲への同調を示す反応になりやすい文脈では、直接質問によって否定的態度が高めに測定される可能性があります。

この知見は、社会的望ましさバイアスが「望ましくない意見を隠す」方向だけでなく、「望ましいと感じられる意見を強めに表明する」方向にも働きうることを示すものです。

なお、本研究は、インターネット調査の回答者を対象としたものであり、日本社会全体の割合をそのまま示すものではありません。今後は、より幅広い対象者を含む調査や、メディア利用、反メディア言説への接触との関連を含めた検討が求められます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月24日(水)に国際科学誌「International Journal of Public Opinion Research」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:”When Negative Media Attitudes Are Overreported: Comparing Direct and List-Experiment Measures in Japan”
著者名:Asako Miura
DOI:https://doi.org/10.1093/ijpor/edag013

参考URL

三浦麻子教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9bdf67161c88e954.html

用語説明

直接質問

調査で、特定の意見や行動についてそのまま尋ねる方法です。本研究では、「マスコミは社会に有害だと思いますか」と直接尋ねました。分かりやすい一方で、回答者が社会的に望ましいと思う方向に答える影響を受けることがあります。

リスト実験

複数の文をまとめて示し、「あてはまるものがいくつあるか」だけを答えてもらう調査方法です。どの文に同意したかを個別に答える必要がないため、表明しにくい、または周囲の目を気にしやすい意見を推定するために使われます。

社会的望ましさ

回答者が、自分の本来の考えだけでなく、「こう答えたほうがよく見える」「周囲から受け入れられやすい」と感じる方向に回答する傾向を指します。一般には望ましくない意見を隠す方向で語られますが、本研究では、メディア批判が言いやすい文脈では否定的な回答を強める方向にも働きうることを示しています。