
\進化中の姿を、作って確かめる/ 光で働く膜タンパク質の“祖先”を復元
祖先微生物型ロドプシンをよみがえらせ、光で働く機能の検証に成功
研究成果のポイント
- 光感知タンパク質ロドプシンの昔の姿(祖先)を予想し、実際に発現・精製したところ、光感知部位となるレチナールの結合と、光に応答する機能を確かめた。
- ロドプシンなどの膜タンパク質は、配列の“すき間(欠け・挿入)”が多いため、祖先の全体像を出すのが難しかったが、構造情報も使いながら“すき間”を扱う方法で、全長の祖先配列の作成が可能に。
- 本成果により、進化の途中で「どこがどう変わって今の性質になったか」を、実験で追える可能性が広がり、将来的には他の膜タンパク質への応用も期待される。
概要
大阪大学大学院理学研究科の石川春人講師、水谷泰久教授らの研究グループは、光感知タンパク質である微生物型ロドプシンを対象に、膜タンパク質の全長祖先配列を推定し、実際に大腸菌で発現・精製して性質を確認する枠組みを示しました。
膜タンパク質の祖先配列復元の推定では、膜外ループや末端領域に挿入・欠失(indel)が多く、祖先の全体を推定がすることが困難でした。本研究ではindelを明示的に扱う手順を組み込み、不自然に“伸びた祖先配列”を防ぎ、実在に近い全長祖先配列を得られることを示しました。
さらに、推定した祖先ロドプシン(Anc-SzR、Anc-HeR)を大腸菌で発現・精製し、レチナール結合を示す色と吸収スペクトルを確認しました。加えてAnc-SzRでは、全細胞pHアッセイにより光照射に伴う外液pH変化が観測され、現存するシゾロドプシン同様に光によって水素イオンを細胞内に輸送することがわかりました。
これらの結果から、推定祖先配列を“実験で検証可能な対象”として扱えることを示し(図1)、将来的には微生物型ロドプシンに限らず、医薬標的として重要な膜タンパク質に対しても、全長祖先配列復元と検証の枠組みが応用されることが期待されます。
本研究成果は、米国化学会誌 「ACS Omega」に6月8日(月)にオンライン公開(ASAP公開)されました。
図1. 祖先ロドプシン(Anc-SzR)を作っている大腸菌に光を照射すると、外側の溶液のpHが上昇しました。この結果は、祖先ロドプシンが光を吸収し、現存するシゾロドプシンと同様に、水素イオンを細胞内へ取り込む性質をもつことを支持しています。
研究の背景
祖先配列復元(ASR)は、現存タンパク質の配列と系統関係から過去に存在したタンパク質の配列を推定し、「進化の途中のタンパク質」を実験で再現するための方法です。近年、構造予測(AlphaFoldなど)も含め計算環境は大きく進歩していますが、膜タンパク質では膜外ループや末端領域に挿入欠失が多く、配列のアライメントやindel処理の不確かさが推定結果を大きく左右します。結果として膜貫通コアだけを切り出した解析や、膜外領域の手作業処理が多く“全長の祖先タンパク質”として実験検証する道筋が作りにくいという課題がありました。
研究の内容
研究グループは、微生物型ロドプシンの一種であるシゾロドプシン(SzR)とヘリオロドプシン(HeR)を対象に、構造情報を意識したアライメントと膜タンパク質向けの進化モデルを用いて祖先配列を推定しました。さらに、祖先配列復元で問題となりやすい挿入欠失(indel)について、アミノ酸状態の推定とgap(欠損)の祖先状態推定を組み合わせ、各祖先配列ごとに整合的な“全長祖先配列”へ整形する手順を組み込みました(図2)。
この手順により単純に推定を行った場合に生じやすい「祖先配列が不自然に長くなる」問題を抑え、得られた祖先配列は現存ロドプシンに近い長さ・予測構造を示しました。さらに、推定した祖先ロドプシン(Anc-SzR、Anc-HeR)を大腸菌で発現・精製し、レチナール結合に伴う色と吸収スペクトルを確認しました。加えて、Anc-SzRでは全細胞pHアッセイにより光照射に伴う外液pH変化を観測し、推定配列が“実験で扱える分子”であることを示しました。
図2. タンパク質の進化では、アミノ酸配列の一部が挿入されたり失われたりします。従来の計算ではこの「配列の出入り」を十分に扱えず、祖先タンパク質が実際より長く予測されることがありました。本研究では、この配列の出入りを考慮することで、より自然な長さと形をもつ祖先タンパク質を復元しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究は、膜タンパク質の祖先配列復元を「計算結果の提示」に留めず、実際に作って検証できるレベルへ落とし込むための具体的な道筋を示しました。膜タンパク質では膜外領域が“ノイズ”として扱われやすい一方で、実際には相互作用・安定性・機能に関わることが多く、全長での議論が重要です。本研究はindel処理を明示化し構造予測と合わせて信頼性を評価することで、膜外領域も含めた全長祖先の検証を可能にします。
将来的には微生物型ロドプシンに限らず、GPCRなど医薬標的として重要な膜タンパク質に対しても、全長祖先配列復元と検証の枠組みが応用されることが期待されます。また、本研究で用いた解析ワークフローと関連スクリプトは公開しており(https://github.com/harutois/ConsistASR)、他の研究者が再現・応用できる形で提供しています。
特記事項
本研究成果は、6月8日(月)に米国化学会誌「ACS Omega」(オンライン)に掲載されました。
タイトル: “Resurrecting Full-length Ancestral Schizorhodopsins and Heliorhodopsins with Structure-guided, Indel-aware Sequence Reconstruction”
著者: Haruto Ishikawa and Yasuhisa Mizutani
DOI:http://doi.org/10.1021/acsomega.6c03010
参考URL
用語説明
- 微生物型ロドプシン
レチナールを結合する7回膜貫通型タンパク質群。イオン輸送(ポンプ/チャネル)や光センサーなど多様な機能をもつ。
- 祖先配列復元
ASR:Ancestral Sequence Reconstruction。現存タンパク質の配列と系統樹から、過去に存在したタンパク質(祖先)の配列を推定する方法。
- 挿入・欠失
indel:insertion/deletion。進化の過程で配列中に生じる「挿入」や「欠損」。膜外ループや末端領域で起きやすく、アライメントの不確かさの原因になる。
- AlphaFold
タンパク質立体構造予測手法。本研究では祖先配列の構造的妥当性評価に用いた。
