太陽電池効率化の鍵! 吸熱型一重項励起子分裂を 分子―量子ドット界面で実現

太陽電池効率化の鍵! 吸熱型一重項励起子分裂を 分子―量子ドット界面で実現

2026-5-19自然科学系
産業科学研究所教授坂本 雅典

研究成果のポイント

  • 太陽電池の変換効率を高める「一重項励起子分裂(SF)」について、特定の分子と量子ドットの電子軌道が混ざり合うことで、界面の新しい中間(ハイブリッド)状態が形成されることを見出した。
  • この界面中間状態を利用することで、従来は起こりにくいとされてきた吸熱型SFを高効率に進行させられることを示した。
  • 次世代太陽電池をはじめとする高効率光エネルギー変換材料の開発への展開が期待される。

概要

大阪大学産業科学研究所の坂本雅典教授、慶應義塾大学の酒井隼人講師、羽曾部卓教授、Samsung Displayの金賢得Vice President of Technology、Tampere University のRamsha Khan博士研究員(研究当時)、京都大学のZhang Jie博士研究員(研究当時)、鈴木克明助教、I-Ya Chang博士研究員(研究当時)、梶弘典教授らの研究グループは、分子と量子ドットの電子軌道が相互に混成することで、これまで起こすことが難しいと考えられてきた吸熱型の一重項励起子分裂(singlet exciton fission:SF)が高効率に進行することを明らかにしました。

太陽電池の変換効率を大きく高めうる現象として、1つの光子から2つの励起子を生み出す一重項励起子分裂(SF)が注目されています。なかでも、エネルギーを必要とする吸熱型SFは、より幅広い材料系で光エネルギーを2つの励起状態へ分配できる可能性がある一方で、一般的に効率が低く、その高効率化が大きな課題でした。
本研究では、特定の分子と量子ドットを組み合わせた界面で生じる軌道混成(ハイブリダイゼーション)により、SFを駆動する中間(ハイブリッド)状態が形成されることを見出しました。さらに、この界面中間状態を利用することで、従来は起こりにくいとされてきた吸熱型SFを高効率に進行させられることを示しました。
本成果は、分子結晶内の分子配列や分子間相互作用に強く依存していた従来の設計から一歩進み、「界面の電子状態設計」によって吸熱型SFを促進するという新しい設計指針を提示するものです。次世代太陽電池をはじめとする高効率光エネルギー変換材料の開発への展開が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌 『Nature Photonics』 に、5月4日18時(日本時間)に公開されました。

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図1. 軌道混成を利用した吸熱SFの模式図

研究の背景

太陽電池の効率を大きく高める候補として、1つの光(光子)から2つのエネルギーの粒(励起子)を生み出す「一重項励起子分裂(SF)」という現象が注目されています。これは、従来の太陽電池の効率には理論的な上限がある中で、その壁を越える手がかりになり得るからです。

しかしSFには、分裂が起こるために“追加のエネルギー”が必要になる「吸熱型」と呼ばれるタイプがあり、分裂を効率よく進めるのが難しいことが課題でした。シリコン太陽電池と相性のよい材料の多くが、この吸熱型に当てはまるため、吸熱型SFを高効率化できるかどうかは実用化の重要なポイントになります。

研究の内容

本研究では、SFを起こす分子(テトラセン)を、光の性質を調整しやすい超微粒子材料「量子ドット」の表面に組み合わせ、分裂の起こり方を詳しく調査しました。特殊な分光法を使って分子だけを狙って光を当て、時間変化を追いかけることで、これまで見えにくかった“量子ドット表面の分子で何が起きているか”を解析しました。さらに理論計算による検討も行い、実際に何が起こっているかを理論的に解明すると同時に、効率を左右する鍵を探りました。その結果、融合材料における吸熱型のSFの高効率化の鍵は、光を吸収した直後のごく初期の過程にあることを突き止めました。

分子と量子ドットの電子のエネルギー準位がうまく合う組み合わせでは、両者が強く相互作用して“中間的な状態”ができやすく、光励起で生じた分子の励起エネルギーがそこへ素早く移った後、2つの三重項励起子へと分配され、エネルギーの分裂がスムーズに進みます。一方、相互作用が弱い組み合わせでは、この中間状態ができにくく、その間にエネルギーが光や熱として逃げてしまい、効率が下がります。つまり、材料の組み合わせ方(エネルギー準位や電子の重なり具合)を設計することが、高効率化の鍵であることを示しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本成果は、分子の並び方(結晶中のパッキング)だけに依存せず、分子と量子ドットの“軌道混成”を設計して中間状態を作ることで、吸熱型SFを高効率化できるという新しい指針を提示するものです。この考え方は、適切なエネルギー準位の整合と軌道結合が得られる他の分子—量子ドットの組合せにも展開可能です。将来的には、分子—量子ドットの融合材料におけるSFで増えた励起子を太陽電池へ受け渡すことで、追加の電荷(電子・正孔)生成を促し、ショックレー・クアイサー限界を超える高効率太陽光変換技術につながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年5月4日18時(日本時間)に米国科学誌 『Nature Photonics』 (オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Molecular quantum-dot orbital hybridisation supports efficient endothermic singlet exciton fission”
著者名:Jie Zhang, Hayato Sakai, Katsuaki Suzuki, Ramsha Khan, Taku Hasobe, I-Ya Chang, Kim Hyeon-Deuk, Hironori Kaji, Masanori Sakamoto
DOI:https://www.nature.com/articles/s41566-026-01908-0

なお、本研究は、JST「創発的研究推進事業」の一環として行われました。

参考URL

坂本 雅典 教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/2985820aa923a6f9.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

一重項励起子分裂(SF)

Singlet Exciton Fission:SF。物質が光を吸収したときにできる「励起状態(エネルギーを持った状態)」を、1つから2つに“分裂”させる現象です。太陽電池では、光子1個から取り出せる電気の元(電荷のペア)は基本的に1組ですが、SFが起こる材料では、光でできた1つのエネルギーを2つに分けて使える可能性があります。そのため、同じ光を受けても取り出せるエネルギーを増やせるしくみとして注目されており、太陽電池の効率の理論上限を超えるための有望なアプローチの1つとされています。

量子ドット

Quantum Dot:QD。数ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)ほどの、とても小さな半導体の粒子です。大きさが原子・分子の世界に近いため、光の吸収や発光の性質が「粒のサイズ」で変わるという特徴があります。つまり、量子ドットの大きさや材料を調整することで、吸収する光の色や発光する色を狙って設計できます。また表面積が非常に大きく、分子を表面にたくさん結びつけられるため、分子と組み合わせた新しい機能材料(光エネルギー変換材料など)を作りやすいことも利点です。

軌道混成(ハイブリダイゼーション)

軌道混成(きどうこんせい)とは、分子や材料の中で電子が存在する「軌道(電子の居場所)」が、別の材料の軌道と強く重なり合って混ざり、新しい“共有された電子状態”が生まれることです。たとえば分子と量子ドットが近くで結びつくと、電子の広がりが互いに影響し合い、電子がどちらか一方だけでなく両方にまたがって存在できる状態になります。これは、反応や光エネルギー変換の効率を左右する重要な要素になります。

ショックレー・クアイサー限界

単一の半導体材料を使った太陽電池が、太陽光を電気に変換できる効率の理論上限のことです。名前は、この限界を1961年に理論的に示した物理学者 William Shockley と Hans-Joachim Queisser に由来します。