木材由来のナノ繊維からプラスチック様材料の形成に成功

木材由来のナノ繊維からプラスチック様材料の形成に成功

2026-5-16自然科学系
産業科学研究所助教石岡 瞬

研究成果のポイント

  • 熱可塑(かそ)性を持たない、木材由来のナノ繊維であるセルロースナノファイバー(CNF)から、新奇なプラスチック様材料の形成に成功
  • CNFはその優れた特性にもかかわらず、プラスチックや金属では可能な「加熱による成形」ができず、加工の可能性を狭めることが課題となっている
  • CNF表面を負電荷に改質し、イオン液体の正電荷イオンとペアを形成させることで、ナノ粒子同士の界面を選択的に熱可塑化する手法を開発
  • 本成果により、CNFの集合体から、強度や熱寸法安定性に優れた部材をより高い自由で成形可能になり、将来的には車のフレームや建材といった構造用途や放熱用途への展開が期待される

概要

大阪大学産業科学研究所の石岡瞬助教、東京大学大学院農学生命科学研究科の齋藤継之教授、および同大学大学院工学系研究科、第一工業製薬、海洋研究開発機構からなる研究グループは、熱可塑性を持たない木材由来のナノ繊維であるCNFから、成形自由度の高いプラスチック様材料を形成する手法を開発しました。

CNFは、高強度、低熱膨張性、高熱伝導性などの優れた特性を有し、密に集合(会合)させると、これらの特性を併有した高性能材料を形成できます。しかし、CNF会合体に熱を加えても、そのナノ粒子構造を維持させたまま軟化させることができない(熱可塑性を持たない)ため、従来は自由度の高い成形加工が困難でした。そこで本研究では、CNF表面を負電荷に改質し、解離性が高く、低融点の塩を形成しやすいイオン液体の正電荷イオン(カチオン)とでペアを形成させました(図1A)。このCNFを昇温すると、CNF同士の界面でイオンの位置交換を伴う運動(自己拡散)が誘起され、CNF会合体が熱可塑化されます(図1B)。

これによりCNFの会合体からなる粉体やシートを、様々な形状の部材へとより高い自由度で成形可能となり、プラスチック代替材や構造部材や、放熱部材としての応用を促進することが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌 『Science Advances』(オンライン)に、5月16日(土)午前3時(日本時間)に掲載されました。

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図1. CNFを用いて開発した、ナノ粒子会合体の熱成形戦略。
(A) CNF表面へのイオン液体カチオンの導入。 (B) CNF会合体の熱可塑化機構。

研究の背景

CNFは、優れた機械特性および熱特性を有しており、これらを密に会合させると高性能材料(ナノ粒子会合体)を形成できます。プラスチックや金属などの汎用材料は熱可塑性を有し、所定の形状へ熱成形できますが、CNF会合体を、そのナノ粒子構造を維持したまま熱可塑化することはできません。よって、一般にCNF会合体はCNFの分散液を乾燥させることにより成形され、得られる材料は薄膜やフィラメント(細長い繊維)となります。このような理由から、CNF会合体には、大断面積や複雑形状が必要な場面で活用することが難しいという課題がありました。

研究の内容

本研究では、木材由来のサステナブルなナノ粒子であるCNFの会合体を熱成形する手法を開発しました。CNFは、木材の細胞壁を解きほぐして得られる直径2〜3 nm(ナノメートル、ナノは1メートルの10億分の1)の結晶性ナノ繊維で、優れた機械特性や熱特性を有しますが、熱可塑性はありません。本研究グループは、このCNFの表面が負電荷(アニオン性)を持つように改質し、熱可塑性の構造を持つ正電荷を持つイオン(カチオン)とペアを形成させることで、CNF会合体中のCNF同士の界面のみを選択的に熱可塑化させることを試みました。予備検討で様々なカチオンの導入を行ったところ、イオン液体と呼ばれる低融点の塩を形成しやすく、高い解離性を有するカチオンの導入が、CNF会合体の熱可塑化に効果的であることがわかりました(図1A)。このようにして得られたCNFの会合体中では、高温でカチオンの位置交換を伴う運動(自己拡散)が誘起され、CNF界面が効果的に熱可塑化します(図1B)。これにより、CNFからなる粉体やシートから、多様な形状の構造体を熱成形可能となることを実証しました(図2A、B)。

また、本研究の熱可塑性CNF会合体は、常温の状態で多くのプラスチックやガラスよりも高強度かつ、熱膨張係数はそれらの中間に位置するという特性を有します。この特性は、熱可塑性CNF会合体中で、個々のCNFが結晶構造を保持したまま、カチオンがCNF表面に局在化した独自の構造を有することに由来すると考えています。

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図2. 熱成形性の実証。 CNF会合体からなる (A) 粉体および (B) シートを熱成形して得た、様々な形状の部材。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本手法は、酸化グラフェンの会合体にも適用可能であり(図3)、多様な組成や形状のナノ粒子の会合体の熱成形が可能となることが示唆されます。今後、本研究をさらに発展させ、ナノ粒子会合体の拡張性と成形性を拡充することで、ナノ粒子会合体が有する優れた特性の活用範囲が広がり、プラスチックでも金属でもない、新たな熱可塑性材料の実用化に繋がると期待されます。

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図3. 酸化グラフェン会合体の熱成形。 会合体からなるフレークの熱プレスにより形成した、一体成形シート。

特記事項

本研究成果は、2026年5月16日(土)午前3時(日本時間)に、米国科学誌 『Science Advances』 (オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Thermoforming nanoparticle aggregates via interfacial ionic self-diffusion”
著者名: Shun Ishioka*, Yuki Hiromatsu, Jiaxin Peng, Taizo Kabe, Takaaki Kasuga, Kazuho Daicho, Yohsuke Goi, Noriyuki Isobe, Tetsuo Yamaguchi, Shuji Fujisawa, Hirotaka Koga, Tadahisa Iwata, Junichiro Shiomi, Masaya Nogi, Tsuguyuki Saito*(*責任著者)
DOI:10.1126/sciadv.aeb3281

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST「植物細胞壁のナノ分解と再会合の精密制御」(JPMJCR22L3)、同 先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)「極限アスペクト比(EXAR)ナノ材料の学際的研究」(JPMJAP2310)、日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業(科研費) 若手研究(JP25K21403、JP25K18274)、JSPS 科研費 基盤研究(B)(JP22H03786、JP23K26963)、JSPS 科研費 挑戦的研究(萌芽)(JP22K19885)、朝日ウッドテック財団 研究助成給付事業 研究Ⅱ(24-Ⅱ-05)、池谷科学技術振興財団 単年度研究助成(0371007-A)の一環として行われ、文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラ(申請番号: JPMXP25UT0204)、Spring-8 BL40B2および BL40XUビームライン(申請番号: 2023A1134、2024B1293)の協力を得て行われました。

参考URL

石岡瞬助教 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/e368c788df18cdb2.html

自然材料機能化研究分野(能木研究室)
https://www.sanken.osaka-u.ac.jp/organization/sec/sec01.html

齋藤継之教授 研究者紹介
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/profile/prof-saito_tsuguyuki

製紙科学研究室
https://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう

用語説明

解離性

塩がイオンへと分離する性質

イオン液体

広義には、融点100 ℃以下の塩を指す。本研究では、臭化物イオンなどの単原子アニオンともイオン液体を形成可能なカチオンを、イオン液体のカチオンと定義した

自己拡散

濃度勾配なしに、イオンなどが位置の入れ替えを行う現象

酸化グラフェン

黒鉛(炭素の同素体の一種)を酸化させて得られるシート状ナノ粒子