効率の良い希土類イオン発光中心の選択形成で 高輝度赤色発光を実現!

効率の良い希土類イオン発光中心の選択形成で 高輝度赤色発光を実現!

次世代マイクロLEDディスプレイに一歩前進

2026-5-11工学系
工学研究科准教授市川 修平

研究成果のポイント

  • 窒化ガリウム(GaN)に希土類元素のユウロピウム(Eu)を添加した赤色発光素子において、通常より傾けた結晶面である“半極性面”上に結晶成長を行うことで、酸素不純物を含んだ高効率なEu発光中心が自己選択的に形成され、従来比3.6倍以上の高輝度赤色発光が得られることを実証。
  • Eu添加GaN 赤色発光素子は、その極めて高い動作安定性から次世代のマイクロLEDディスプレイ用光源として注目される一方で、効率の低い発光中心も多く形成されるという課題を抱えていた。
  • 青・緑色の窒化インジウムガリウム(InGaN)系LEDとモノリシックに統合した素子を作製する本成果は、超高解像度かつ広色域・波長安定のフルカラーマイクロLEDディスプレイ実現に向けた重要な技術的進展。

概要

大阪大学大学院工学研究科の市川修平准教授、博士後期課程の竹尾敦志さんらの研究グループは、立命館大学総合科学技術研究機構の藤原康文教授と協力し、半極性(20^21) GaN上にEu添加GaN薄膜を成長することで、極めて発光効率の高いEu発光中心が優先的に形成されることを明らかにしました。

これにより、従来の極性(0001) GaNを用いた場合と比較して、赤色発光強度が3.6倍以上に増大することが実証されました。

これまでに、GaN系の赤色LEDの高出力化は、次世代マイクロLEDディスプレイ技術の鍵として考えられ、研究が盛んに行われてきました。なかでもEu添加GaNは、波長安定かつ狭線幅の赤色発光を呈すことから、その発光素子応用が精力的に進められてきました。一方で、さらなる高輝度化に向けては、発光効率の低いEu発光中心が意図せず多く形成されてしまうことが課題となっていました。

本研究グループは、結晶方位の異なる半極性(20 1) GaN上へ成長を行うことで、酸素不純物の取り込みを意図的に誘発し、効率の低いEuクラスターの形成を抑制しつつ、高効率なEu発光中心の濃度を従来比100倍以上にまで激的に増加させるメカニズムを解明しました。これにより、室温下での発光強度が従来比3.6倍以上に増大することが実証されました。

本成果は、赤色LEDの高出力化に加えて、同一半極性面基板上へのフルカラーLEDモノリシック集積への道筋を明確にするものであり、次世代マイクロLEDディスプレイ実現に向けた重要な技術進展です。

本研究成果は、米国科学誌「Applied Physics Letters」に、2026年3月19日(木)に公開されました。

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図1. 赤色発光を呈すEu添加GaNは、半極性面GaN上への成膜によりさらなる高輝度化が可能。

研究の背景

近年、超高精細な次世代マイクロLEDディスプレイの実現に向けて、既に実用化されている青・緑色LEDと同じ材料系であるGaN系半導体を用いた赤色LEDの開発が求められています。

青・緑色LEDを構成しているInGaN量子井戸を用いた赤色LEDも開発されていますが、電流注入時に生じる顕著な波長シフトが課題となっています。一方で、GaNに希土類元素のEuを添加したEu添加GaNは、Euの4f殻内遷移に基づく波長安定かつ狭線幅の赤色発光を示すため、これらの問題を克服できる有望な材料です。しかし、従来の極性(0001) GaN上に結晶を成長させた場合、発光効率の低いEu発光中心が意図せず多数形成されてしまうという課題がありました。

研究の内容

本研究グループは、GaNの結晶成長方位に着目し、半極性(20^21) GaN上に有機金属気相成長法を用いてEu添加GaN層を成長させました。藤原教授の協力のもと作製した試料に対して共鳴励起発光分光法(CEES)を用いた詳細な解析を行った結果、従来の結晶成長面では多く見られていた発光効率の低いEuクラスター(OMVPE1、OMVPE2)が消失していることが分かりました。代わりに、酸素原子の取り込みが促進されたことによって、極めて発光効率の高い発光中心である「OMVPE7」の濃度が100倍以上にまで劇的に増加することを見出しました。

また、高効率な発光中心が増加したことで、強励起条件下における発光効率の低下(効率ドループ)も顕著に抑制される良好な特性を示すことが確認されました。結果として、室温下での発光強度が従来比3.6倍以上に増大することが実証されました。

本成果は、結晶成長面を変えるだけで、高効率なEu発光中心が選択的に自己形成することを示しており、電流注入時にも波長シフトが起きない超波長安定なGaN系赤色LEDのさらなる高出力化につながる重要な結果と言えます。

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図2. 実作したEu添加GaNの赤色発光スペクトル。半極性面GaN上への結晶成長で光強度が3.6倍に増大した。

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図3. 従来はEuがクラスター化して効率の低いEu発光中心(OMVPE1,2)を形成。半極性面成長では、酸素不純物の取り込みが向上し、高効率なOMVPE7と呼ばれる発光中心が増加する。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、半極性面基板の活用が、高効率なEu発光中心を優先的に形成するうえで極めて有効な手法であることが示されました。青・緑色InGaN系LEDとも材料系が一致するため、波長シフトのない安定した高出力赤色LEDが実現可能となることで、同一の半極性面基板上へのモノリシックフルカラーLED集積への道筋が明確になりました。これにより、次世代ディスプレイの要となる超小型フルカラーマイクロLEDの実用化が大きく前進することが期待されます 。

特記事項

本研究成果は、2026年3月19日(木)に米国科学誌「Applied Physics Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Preferential formation of highly efficient Eu luminescent centers in Eu-doped GaN grown on semipolar (20^21) GaN”
著者名: Atsushi Takeo, Shuhei Ichikawa, Dolf Timmerman, Jun Tatebayashi, and Yasufumi Fujiwara
DOI: https://doi.org/10.1063/5.0308400

なお、本研究の一部は、JSPS科研費(No. 23H05449およびNo. 25K00063)、JST D-Global (Grant No. 24015395)の支援を受けて行われました。

参考URL

市川 修平准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/32d0649cfea01567.html

市川 修平准教授 研究ホームページ
https://sites.google.com/view/ichikawa-gr/home

藤原 康文教授 研究室ホームページ
https://fujiwara-lab.ritsumei.ac.jp/

「株式会社IntraPhoton」ホームページ(※藤原教授がCTOを務める立命館大学発スタートアップ企業)
https://intraphoton.com/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

窒化ガリウム(GaN)

窒化ガリウム系のLEDや半導体レーザーなど、現代の省エネ・高輝度な光デバイスを根幹から支える半導体材料です。とくに窒化インジウムガリウムは青色~緑色領域で高い発光効率を示すことで知られている一方で、赤色領域の高効率化には未だ課題がある現状です。

ユウロピウム(Eu)

希土類元素の一種であり、3価のEuイオンは、4f内殻遷移に伴う赤色発光(波長約620 nm)を示すことが知られています。GaN結晶中に添加することで、電流駆動可能な赤色LEDとしての応用が可能となります。

半極性面

GaN系半導体がとるウルツ鉱型結晶構造において、主軸の[0001]方向に対して、斜めの角度で交わる結晶面のことを指します。半極性面上のGaN成長時には、表面の結晶構造が異なることで、不純物取り込み様式が変化します。また、InGaN LEDにおいても、従来の極性面で課題となる内部電界を低減することができ、発光効率や波長安定性が向上することでも知られています。

モノリシック

フルカラーLEDのモノリシック集積とは、赤・緑・青(RGB)の3色のLEDを、単一の基板上に一体(モノリシック)として作り込む技術のこと指します。従来は、個別に製造した赤・緑・青のチップを一つずつ基板に並べる「ピック&プレイス」方式が一般的でした。これに対しモノリシック集積では、結晶成長とプロセス技術により、同一基板上にフルカラーLEDを一度に集積できるため、製造工程の大幅な効率化、デバイスの小型化・高精細化を可能にする次世代技術として注目されています。

共鳴励起発光分光法(CEES)

波長可変レーザーを用いて、周囲の局所的な原子配列(環境)がわずかに異なる複数のEu発光中心を個別に狙って励起し、それぞれの発光特性や濃度を精密に分離して評価する分光手法です。高効率な発光中心や低効率な発光中心の増減を評価することが可能になります。