光で「分解」を自在にオンオフできる 賢いプラスチックを開発

光で「分解」を自在にオンオフできる 賢いプラスチックを開発

丈夫さと分解性の両立を分子レベルで解明し、光によるQRコード描画にも成功

2026-3-25自然科学系
理学研究科教授髙島 義徳

研究成果のポイント

  • 光を当てると分解し、別の光を当てると分解が止まる“賢い素材”を開発。
  • 材料を「丈夫で長く使える」ようにすると分解しにくくなり、「分解しやすく」すると耐久性が落ちるという根本的な課題があったが、丈夫さと分解性を両立する仕組みを分子レベルで解明。
  • 材料内部に“動く分子の輪”のような構造(可動性架橋)を導入することで、光による制御で、酵素分解の進行を可逆的に切り替えることに成功。
  • この技術は、環境に配慮した次世代材料の開発につながるだけでなく、医療材料や情報記録材料など、さまざまな分野への応用に期待。

概要

大阪大学大学院理学研究科の大学院生・Zhou Xinさん(博士後期課程)、Liu Jiaxiong特任研究員(常勤)、山岡 賢司助教、髙島 義徳教授らの研究グループと大阪大学大学院工学研究科の菅原 章秀助教、宇山 浩教授らの研究グループ、さらに山形大学大学院有機材料システム研究科の松葉 豪教授らの研究グループは、光を当てるだけで分解の進み方を切り替えられる新しい高分子材料を開発しました(図1)。

プラスチックなどの高分子材料は、「丈夫で長持ちする」ことが求められる一方で、「不要になったら分解できる」ことも重要です。しかし、これらは丈夫にすると分解しにくくなり、分解しやすくすると弱くなってしまうため通常、両立が難しい性質でした。

今回開発した材料は、この課題を解決する新しい仕組みを持っています。それは、材料の内部に“動く分子の輪”のような構造を組み込こんだことです。この輪が高分子の鎖を包み込んだり、外れたりすることで、分解を進める酵素が近づきやすくなったり、逆に近づきにくくなったりします。

さらに、この分子の動きを光でコントロールできるようにしました。特定の波長の光を当てると分解が進み、別の波長の光を当てると分解が抑えられます。つまり、“分解のスイッチ”を光で操作できる材料を実現しました。

また、光を当てる場所を選べば、その部分だけ分解させることも可能です。実験では、材料の表面にQRコードを光で書き込み、酵素によって分解させることで、その模様を浮かび上がらせました。

この技術は、環境に配慮した次世代材料の開発につながるだけでなく、医療材料や情報記録材料など、さまざまな分野への応用が期待されます。

本研究は、「長く使える強さ」と「必要なときに分解できる機能」という、これまで両立が難しかった性質を同時に実現する、新しい材料設計の考え方を示す成果です。

本研究成果は、2026年3月25日に米国化学会誌 「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。

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図1. 光照射による酵素分解の制御と局所的な光照射によるパターン生成

研究の背景

近年、プラスチックごみ問題や温室効果ガス排出の増加を背景に、環境負荷の少ない生分解性材料への関心が高まっています。しかし、材料を「丈夫で長く使える」ようにすると分解しにくくなり、「分解しやすく」すると耐久性が落ちるという根本的な課題がありました。この“耐久性と分解性のトレードオフ”は、高分子材料設計における長年の難題です。

これまでにも光や熱などの外部刺激で材料の性質を変える研究は進められてきましたが、酵素による分解そのものを分子レベルで可逆的に制御する手法はほとんど確立されていませんでした。そこで本研究では、分子の動きを利用するという新しい視点から、この課題の解決に挑みました。

研究の内容

本研究では、生分解性ポリエステルに光応答性分子とシクロデキストリンを組み込んだ材料を設計しました(図1)。

一般に、生分解性材料は「丈夫にすると分解しにくくなり、分解しやすくすると耐久性が落ちる」という課題があります。本研究ではこのトレードオフに対し、材料内部に“動く分子の輪”のような構造(可動性架橋)を導入しました。

ドーナツ状分子(シクロデキストリン)が高分子鎖の上を移動することで、酵素が作用する部分を「露出」または「遮蔽(しゃへい)」できます。この分子の動きを光によって制御することで、酵素分解の進行を可逆的に切り替えることに成功しました(図1)。

実際の酵素分解試験では、紫外線Aによって分解が抑えられた状態では6日後も約57%が残存したのに対し、分解が促進された状態では同条件で完全に分解されました(図2a、2b)。さらに、光を局所的に照射することで材料表面の分解を空間的に制御でき、QRコード状の情報を浮かび上がらせることにも成功しました(図1右、図2c)。

本研究は、「長く使える強さ」と「必要なときに分解できる機能」を両立する新しい材料設計の考え方を示す成果です。

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図2.(a) 被覆状態・非被覆状態の高分子の化学構造
(b)光照射前後における被覆状態の変化に伴う酵素分解挙動の比較
(c)局所的な光照射によって酵素分解を空間的に制御したQRコード状パターニングの例

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究は、「使用中は丈夫で、必要なときに分解できる」というこれまで両立が難しかった材料設計を、分子レベルの仕組みから実現した点に大きな意義があります。光という外部刺激によって分解の進み方を後から制御できるため、製品の寿命設計や回収後の処理を柔軟に設計できる可能性があります。

また、分解を空間的に制御できることから、医療用材料や環境応答型材料、情報記録材料などへの応用も期待されます。従来は材料の組成を変えることでしか調整できなかった「耐久性と分解性」の関係を、分子の配置制御という新しい視点から再設計した点は、今後の高分子材料開発に新しい方向性を示すものです。

持続可能な資源循環社会の実現に向けて、本成果が次世代材料設計の基盤技術となることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年3月25日(水)午後11時(日本時間)に米国化学会誌 「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Light-Programmable Polyester Networks with Movable Cross-links for On-Demand Enzymatic Degradation”
著者名:Xin Zhou, Jiaxiong Liu, Kenji Yamaoka, Ryohei Ikura, Akihide Sugawara, Go Matsuba*, Hiroshi Uyama* and Yoshinori Takashima*
DOI: 10.1021/acsnano.5c19646

なお、本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CREST「デュアル分解制御技術を駆使した精密材料科学」(JPMJCR22L4)の一環として行われました。

参考URL

SDGsの目標

  • 12 つくる責任つかう責任
  • 14 海の豊かさを守ろう

用語説明

シクロデキストリン

ドーナツやバケツに例えられる形をした小さな分子で、中央に穴が開いている。その穴に別の分子を通したり、包み込んだりできる。

可動性架橋

ドーナツのような形をした分子(シクロデキストリン)が高分子の鎖を通してつながっているが、ドーナツ自体は鎖の上を自由に動くことができる結合のこと。通常の架橋とは異なり、架橋点が動くことで材料が伸びやすく、しなやかな性質を示す。

酵素分解

酵素の働きによって高分子材料の化学結合が切断され、材料が分解される現象。生分解性高分子材料では、分解速度や進行の制御が重要な課題となっている。