超小型・高効率な円偏光LEDが実現可能に!

超小型・高効率な円偏光LEDが実現可能に!

円偏光成分を抽出するナノ構造が高い効率と高い偏光度を両立

2026-3-19工学系
工学研究科准教授市川 修平

研究成果のポイント

  • 窒化インジウムガリウム(InGaN)系LEDの発光面に、特定の円偏光成分のみを抽出するナノ構造”メタサーフェス”を直接結合することで、高い円偏光度と高い外部量子効率を両立した超小型円偏光LEDが実現可能であることを見出した。
  • これまでの円偏光LEDは、「偏光度と効率のトレードオフ」や「デバイスの耐久性」などの解決すべき課題が山積しており、実用化には至っていなかった。
  • 本成果は、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)、3Dディスプレイ、量子情報通信、光セキュリティなど、次世代の光技術の基盤となる「超小型・高効率な円偏光源」の実現への貢献や、提案した材料の構成が、量産性・耐久性にも優れていることから、産業応用への展開が期待される。

概要

大阪大学大学院工学研究科の市川修平准教授、博士前期課程の田口遥平さん、小島一信教授、株式会社アルバックの戸田晋太郎氏らの研究グループは、窒化インジウムガリウム(InGaN)発光ダイオード(LED)に周期的なナノ構造“メタサーフェス”を直接結合することで、高効率かつ超小型の円偏光デバイスが実現可能であることを明らかにしました。

円偏光源は、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)、3Dディスプレイ、量子情報通信、光セキュリティなど、多岐にわたる応用が期待される次世代の光素子です。これまでの円偏光LEDは、「高い円偏光度と高い外部量子効率の両立が難しい」ことや、「デバイスの耐久性が低い」ことなど、実用化に向けて課題がありました。

今回、研究グループは、電気→光の変換効率が極めて高いInGaN系LEDの発光面に、ナノメートルサイズの構造体(ナノピラー)を人工的に周期配置したメタサーフェスを直接結合する、という新しい円偏光LEDのアプローチを提案しました。これにより、InGaN系LEDから出る無偏光の光のうち、特定の円偏光(右回りまたは左回り)成分だけを選択的に透過させることができ、高い外部量子効率と高い円偏光度を両立した円偏光LEDが実現可能になることがわかりました。

また、通常は無偏光から円偏光を得るためには、2段階の光学素子の組み合わせ(直線偏光子1/4波長板)が必要ですが、本方式ではナノピラー構造を最適に設計することにより1層のメタサーフェスを介すだけで円偏光が得られるため、高集積デバイスへの応用も期待できます。

本研究成果は、米国科学誌「Optics Letters」に、2026年2月26日(木)に公開されました。

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図1. InGaN系LEDの光出射面上に直接結合されたナノピラー(メタサーフェス)が、LEDの右回り円偏光成分だけを選択的に透過させている模擬図。

研究の背景

偏光を制御したデバイスは、新たな光応用の可能性を広げる素子として、映像・通信・計測・加工・光記録に至るまで幅広い分野への応用が期待されています。

なかでも円偏光は、信号を受け取る側の素子傾斜などでは偏光特性が変化しない、という大きな特長があるため、様々な次世代の光学応用に向けて高い注目を集めています。

これまでに提案されてきた単一素子として円偏光を発生できる円偏光LEDは、「高い円偏光度」と「高い発光効率(外部量子効率)」の両立が難しく、さらにデバイスの耐久性や量産性にも課題がありました。

研究の内容

研究グループでは、電気→光の変換効率が極めて高いInGaN系LEDの光出射面にメタサーフェスを直接積層した一体型デバイスを作製する、という新しいアプローチを提案・実証しました。メタサーフェスは、ナノメートルサイズの構造体(ナノピラー)を人工的に周期配置した表面構造であり、光の進み方やその性質(位相・偏光)を制御することができます。この技術を応用することで、LEDから射出される無偏光の光から、特定の円偏光(右回りまたは左回り)成分のみを選択的に透過させることが可能となり、最適なメタサーフェス構造の設計によって、高い量子効率と高い円偏光度の両立が原理上可能となることが明らかになりました。本研究において提案した構造では、円偏光度0.87、透過効率約35%(理論上限50%)を実現することができます。

さらに本研究では、高い透明性と高い屈折率を必要とするメタサーフェス材料として、LEDと同じ材料系である窒化ガリウム(GaN)を選定しました。これにより、既存のLED量産技術(半導体結晶成長、デバイスプロセス等)をそのままメタサーフェスの作製プロセスにも活用することが可能です。通常は無偏光から円偏光を得るための変換には、2つの光学素子の組み合わせ(直線偏光子+1/4波長板)が必要ですが、本研究では、ナノピラーの設計を最適化することで、1層のメタサーフェス構造を介すだけで円偏光が選択的に得られることを見出しました。これにより、デバイスの超小型化が可能になり、今後の高集積デバイスへの応用が期待できます。本研究の円偏光LEDは、動作環境に対して安定な無機半導体材料のみで構成されており、負荷がかかるような特殊な電流駆動条件も必要としないことから、高いデバイス耐久性も実現できます。

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図2. ナノピラー構造を周期的に配列したメタサーフェス構造の実例 (走査型電子顕微鏡での観察像)

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、AR(拡張現実)、3Dディスプレイ、量子情報通信、光セキュリティなど、次世代の光技術の基盤となる「超小型・高効率な円偏光源」の実現に大きく貢献します。超小型・高効率な円偏光LEDは、ウェアラブル端末や高精細ディスプレイの実現を加速するとともに、偏光多重通信やバイオセンシングなど、光の偏光状態を利用した新しい応用分野にも展開が期待されます。InGaNおよびGaNで構成された本デバイス構造は、既存のLED量産技術と親和性が高く、耐久性・信頼性にも優れており、将来的な大規模生産やコストダウンも見込まれます。

特記事項

本研究成果は、2026年2月26日(木)に米国科学誌「Optics Letters」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Circularly polarized (0001) InGaN-based LED integrated with GaN metasurface”
著者名:Yohei Taguchi, Yuki Murata, Kyohei Suzuki, Shintaro Toda, Hiroshi Tabata, Kazunobu Kojima, and Shuhei Ichikawa,
DOI: https://doi.org/10.1364/OL.587468

なお、本研究の一部は、JSPS科研費(No. 25K00063)、池谷科学技術振興財団(0361019-A)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR243V)の支援を受けて行われました。

参考URL

市川 修平准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/32d0649cfea01567.html

市川 修平准教授 研究ホームページ
https://sites.google.com/view/ichikawa-gr/home

小島研究室ホームページ
http://www.sfm.eei.eng.osaka-u.ac.jp/

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを

用語説明

窒化インジウムガリウム(InGaN)

窒化インジウムガリウムは、LEDや半導体レーザーなど、現代の省エネ・高輝度な光デバイスを根幹から支える半導体材料です。組成比を増減させることで、可視光全域(青~緑~赤色)にわたって発光色を調整することができます。電気→光の変換効率が80%を超える高効率LEDの作製が可能である一方で、広く普及している通常のInGaN系LEDは偏光していないことが知られています。

円偏光

光の電場が進行方向に対して円を描くように回転しながら進む状態の光を指します。右回りと左回りの二種類があり、状況に応じて自在に使い分けることで、3DディスプレイやAR/VR技術、量子通信などへの応用が期待されています。

メタサーフェス

光の波長以下のナノサイズの構造体を周期的に配置することで実現する人工的な固体表面です。光の進み方や性質(位相・偏光)を自在に制御でき、従来の光学素子よりも超薄型・小型化が可能です。

円偏光度

光を右回り円偏光成分と左回り円偏光成分に切り分けたときに、各成分の光強度の差を全体の光の強度で割った値を指します。偏光の度合いを表す指標であり、1に近いほど「純粋な右回り円偏光」、-1に近いほど「純粋な左回り円偏光」ということになります。

外部量子効率

LEDなどの発光デバイスにおいて、電源から供給された電流がどれだけ効率よく光として外部に出るかを示す指標です。数値が高いほど効率が良いデバイス、ということになります。

直線偏光子

光を入射したとき、「偏光軸」と呼ばれる特定の単一方向(直線方向)に沿って光電場が振動している成分のみを透過させる光学素子です。透過光は、円偏光と比較して「直線偏光」した光と表現されます。

1/4波長板

光の位相を1/4波長分(90度)ずらすことで、「直線偏光」を「円偏光」に、または「円偏光」を「直線偏光」に変換する光学素子です。