
\サイネージが、照明になる/ 狙った場所だけ照らさない照明で 明るい空間でもくっきり映るプロジェクション
デジタルサイネージを照明に転用した新プロジェクションマッピング技術
研究成果のポイント
- デジタルサイネージを照明として再定義し、投影対象だけを照らさない光制御によって、明るい部屋でも鮮明なプロジェクションマッピングを実現
- これまでは鮮明でくっきりした投影のために空間を暗くする必要があり、既存手法は装置が大規模になるという課題があったが、薄型・コンパクトな構成で対象のみを照らさない照明を可能に
- 商業施設や展示空間、公共空間で照明を落とさずに楽しめる新しい空間演出や次世代ディスプレイ環境への応用に期待
概要
大阪大学 大学院基礎工学研究科 岩井大輔 教授、藤村航太郎さん(博士前期課程)、楠山弘基さん(博士後期課程)、竹内正稀さん(博士後期課程)らの研究グループは、表示装置として使われてきたデジタルサイネージを「照明」として活用するという発想の転換により、投影対象だけを照らさない光制御を実現し、明るい室内環境でも高コントラストなプロジェクションマッピングを可能にしました(図1、2)。周囲は自然に照らしながら投影面だけへの不要な光を抑えることで、従来は暗室でなければ難しかった鮮明でくっきりとした映像表示を、明るい環境下でも実現したのです。
これまでにも、プロジェクタ自体を照明として用い、投影対象を避けて周囲を照らす手法は提案されていました。しかし、それらは多数のプロジェクタを必要とするなど装置が大規模になりやすく、実用面での制約がありました。特に、薄型でコンパクトな構成のまま、対象物だけを照らさない照明を実現することは困難でした。
今回、研究グループは、サイネージと特殊なレンズ配列を組み合わせて光の方向を精密に制御することで、薄型・コンパクトな構成で投影対象だけを選択的に照らさない「ターゲット回避照明」を実現しました。周囲は自然に明るく保ちながら、プロジェクションマッピングの投影面に入射する環境光を抑制することで、従来は暗室化が必要だった高コントラストで鮮明な投影表示を明るい室内環境でも可能にしました。これにより、商業施設や展示空間、公共空間などで、部屋の明かりを落とさずに楽しめる新しいプロジェクション演出の実用化や空間演出技術、拡張現実体験の発展への貢献が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に2026年5月に公開されました。また、それに先んじて、同年3月21日〜25日に韓国にて開催されるXRに関する国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR)」にて口頭発表され、本研究は同会議において Honorable Mention Award を受賞しました。
図1. 投影対象だけを照らさない「ターゲット回避照明」で、明るい空間でも暗室時と同様に鮮明でくっきり映るプロジェクションマッピングを実現(左図)。(右図は比較用:暗室と一般的な照明下でのプロジェクションマッピング)
研究の背景
これまで、プロジェクションマッピングは周囲の照明の影響を強く受けるため、鮮明な映像を表示するには空間を暗くする必要があることが知られていました。近年では、プロジェクタ自体を照明として用い、投影対象を避けて周囲を照らす手法も提案されていましたが、多数のプロジェクタを必要とするなど装置が大規模になりやすいという課題がありました。また、照明としての自然さや影の見え方、消費電力、設置スペースなどの点でも実用化には制約があり、薄型でコンパクトな構成のまま、対象物だけを照らさない照明を実現することは困難でした。
研究の内容
研究グループでは、表示装置として使われてきたデジタルサイネージを照明として活用するという新しい発想により、投影対象だけを選択的に照らさない「ターゲット回避照明」を実現しました。これは、LEDサイネージと非周期に配置した特殊なレンズ配列を組み合わせ、光の進む方向を精密に制御することで可能となったものです。従来は表示用途に限られていたサイネージを、空間全体を照らす“光源”として再定義することで、周囲は明るく保ちながら投影面だけへの不要な光を抑えることに成功しました。
さらに、レンズの配置を最適化する独自手法により、光の干渉によって生じる暗いムラを抑制し、自然な照明環境を維持しながら高コントラストな映像表示を実現しました(図3)。これにより、明るい室内環境でも鮮明なプロジェクションマッピングが可能であることを実証しました。
図2. 提案システムはデジタルサイネージを天井に設置し、多数のレンズを敷き詰めたレンズ配列と組み合わせて構成。右下は映像投影前の「ターゲット回避照明」時の様子
図3. 従来の規則的なレンズ配列(左)ではターゲット以外にも暗所が生じるという課題があったが、提案するレンズ配置最適化でそのような輝度ムラを大幅に低減することに成功(右)
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、商業施設や展示空間、公共空間などにおいて、照明を落とさずに楽しめる新しいプロジェクション演出の実現が期待されます。店舗サイネージと空間照明を一体化した次世代ディスプレイ環境や、イベント・舞台演出、ミュージアム展示、建築空間デザインなどへの応用も考えられます。
さらに、既存のデジタルサイネージを単なる表示装置から「空間を制御する照明デバイス」へと拡張することで、都市空間や広告のあり方そのものを変える可能性もあります。本研究は、光の使い方を根本から見直す新しいアプローチとして、今後の空間演出技術や拡張現実体験の発展に貢献することが期待されます。
特記事項
米国科学誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に2026年5月に公開されました。また、それに先んじて、同年3月21日〜25日に韓国にて開催されるXRに関する国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR)」にて口頭発表され、本研究は同会議において Honorable Mention Award を受賞しました。
タイトル:“High-Contrast Projection Mapping under Light Field Illumination with LED Display and Aperiodic Lens Array”
著者名:Kotaro Fujimura, Hiroki Kusuyama, Masaki Takeuchi, and Daisuke Iwai
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- デジタルサイネージ
駅や商業施設、屋外広告などで用いられる大型の電子表示装置のこと。LEDパネルや液晶ディスプレイを用いて映像や情報を表示し、広告や案内、空間演出などに活用されている。通常は映像を映し出す表示装置として利用されるが、本研究ではこれを光源として活用している。
- プロジェクションマッピング
建物や物体の表面に映像を投影し、その形状や凹凸に合わせて映像を重ねることで視覚的効果を生み出す技術。対象物の立体形状を活かした空間演出が可能で、イベントや広告、展示などで広く活用されている。また、現実空間にデジタル情報を重ねるXRを実現する手法の一つとしても位置づけられており、装着型デバイスを用いずに空間体験を拡張できる点が特徴。
- XR
VR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などを含む総称で、現実空間とデジタル情報を融合する技術群を指す。
