
\印刷と、見分けがつかない/ 映像を“実物の変化”として知覚させる プロジェクションマッピング新技術
影なし投影技術で“投影らしさ”を抑えた映像表現を開拓
研究成果のポイント
- 手などで光を遮っても影の生じないプロジェクションマッピングにおいて、投影映像が実物そのものの色や質感の変化として知覚されうることが明らかに
- 多数のプロジェクタを高密度に配置し光を重ねることで影のないプロジェクションマッピング環境を構築し、印刷物の中に紛れ込んだ投影映像を特定する実験を実施
- その結果、印刷と投影の判断が著しく難しくなり、投影を実物の変化(色・模様・質感の変化)として知覚させることが可能に
- 工業デザイン支援、遠隔対話、医療現場での情報提示など、エンターテインメント用途を超えた分野への応用に期待
概要
大阪大学 大学院基礎工学研究科の岡本峻宙さん(研究当時:博士前期課程)、竹内正稀さん(博士後期課程)、岩井大輔 教授らの研究グループは、北海道大学 大学院情報科学研究院・プロメテックCGリサーチの澤山正貴 准教授と共同で、手などで光を遮っても影の生じないプロジェクションマッピングにおいて、投射された映像が実物そのものの色や質感として知覚されることを世界で初めて明らかにしました。
これまでプロジェクションマッピングは、建物や物体に映像を重ねる光の演出技術として広く知られてきました。一方でXRや質感科学の分野では、実物の色や模様、質感を変化させたかのように提示できる可能性が議論されてきました。しかし、一般的には投影結果は実物そのものの変化というよりも、「映像が重ねられている」として知覚されることが多いと考えられています。そのため、投影が実物そのものの変化として自然に知覚される実例はこれまで限られており、その成立条件も十分には整理されていませんでした。
今回、研究グループは、投射映像は観察者の身体によって容易に遮られる一方で、実物の色や質感は照明を遮っても失われないという性質の違いに着目し、プロジェクタを多数天井に設置し、多方向から光を重ねることで影のないプロジェクションマッピング環境を構築しました。その上で、文字が印刷された紙と、無地の紙に文字を投影したものを机の上に置き、投影された紙がどちらかを答えてもらう実験を行いました。その結果、影を抑制した条件では印刷と投影の判断が著しく難しくなり、映像が実物の変化として知覚されうることが示されました(図1)。
本成果は、実物と一体化する映像表現の実現に近づくものであり、工業デザインや遠隔対話、医療など、エンターテインメント用途を超えた幅広い分野への応用が期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に2026年5月に公開されました。また、それに先んじて、同年3月21日〜25日に韓国にて開催されるXRに関する国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR)」にて口頭発表され、本研究は同会議において Best Paper Award を受賞しました。
図1. 影なしプロジェクションマッピング(右)では、遮蔽があっても、投影された文字(中央緑色の”chocolate”)は残り続けます。このことが、投影結果を実物そのものの変化として知覚させる要因となることを見出しました。
研究の背景
これまでプロジェクションマッピングは、建物や物体の表面に映像を重ねることで空間演出を行う光の表現技術として広く普及してきました。特にエンターテインメントや広告分野においては、実物の形状を活かしながら視覚的効果を加える手法として発展してきました。
一方で、XRや質感科学の分野では、投影光の分布や強度を精密に制御することで、実物の色や模様、さらには質感そのものが変化したかのように知覚させられる可能性にも注目が集まってきました。単に映像を重ねるのではなく、実物の見た目の物理的特性が変化したかのように提示できるのではないかと期待されています。
しかし、一般的なプロジェクションマッピングにおいては、投影された結果は実物そのものの変化としてではなく、「映像が重ねられている」ものとして知覚されることが多いのが実情です。これは、投影光が観察者の身体や周囲の実物によって容易に遮られ、影が生じることや、光が特定方向から強く入射することなどが、投影であることを視覚的に示唆してしまうためと考えられます。そのため、投影が実物そのものの色や質感の変化として自然に受け取られた明確な実証例は限られており、そのような知覚を成立させるための具体的な条件も体系的には整理されていませんでした。
研究の内容
研究グループは、投射映像は観察者の身体によって容易に遮られる一方で、実物の色や質感は照明を遮っても失われないという性質の違いに着目しました。そこで、天井に25台のプロジェクタを5×5の格子状に配置し、同一の映像を多方向から重ねて投影するシステムを構築しました(図2)。この構成では、観察者が手などで光を遮った場合でも、遮られるのは特定方向からの光のみであり、他の方向からの光が対象物に到達し続けます。その結果、投影光が完全に遮断されることがなく、影が生じにくい、あるいは大幅に抑制されたプロジェクションマッピングが実現されます。
この環境のもとで、文字が印刷された複数枚の紙と、無地の紙に文字を投影したものを同時に机の上に配置し、実験参加者に「投影された文字が現れている紙」を特定してもらう課題を行いました(図3)。参加者は自由に机の周囲を移動し、自身の手で光を遮ることも許可された状態で判断を行いました。
その結果、影が抑制された25台の条件では、参加者が印刷を特定する割合が有意に低くなり、識別に要する時間も増加しました。さらに、プロジェクタの台数や配置密度を段階的に変更して比較したところ、17台以上の条件では識別率が概ね一定であることが確認され、映像が実物そのものの変化として知覚されるための具体的条件が整理されました。
図2. 天井に25台のプロジェクタを設置した影なしプロジェクションマッピングシステム
図3. 実験風景
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、プロジェクションマッピングは単なる光の演出技術にとどまらず、実物の見え方そのものを自然に変化させる空間表現技術へと発展することが期待されます。実物と違和感なく一体化する映像表現は、工業デザインにおける外観検討や試作の効率化、遠隔対話における共有実物の直感的な可視化、医療現場での情報提示など、エンターテインメント用途を超えた幅広い分野への応用が考えられます。将来的には、日常環境に溶け込み、実物と区別のつかない形で情報を提示する新しい空間拡張技術の基盤となることが期待されます。
特記事項
米国科学誌「IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics」に2026年5月に公開されました。また、それに先んじて、同年3月21日〜25日に韓国にて開催されるXRに関する国際会議「IEEE Conference on Virtual Reality and 3D User Interfaces (IEEE VR)」にて口頭発表され予定であり、本研究は同会議において Best Paper Award を受賞しました。
タイトル:“Shadowless Projection Mapping for Tabletop Workspaces with Synthetic Aperture Projector”
著者名:Takahiro Okamoto, Masaki Takeuchi, Masataka Sawayama, and Daisuke Iwai
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- プロジェクションマッピング
建物や物体の表面に映像を投影し、その形状や凹凸に合わせて映像を重ねることで視覚的効果を生み出す技術。対象物の立体形状を活かした空間演出が可能で、イベントや広告、展示などで広く活用されている。また、現実空間にデジタル情報を重ねるXRを実現する手法の一つとしても位置づけられており、装着型デバイスを用いずに空間体験を拡張できる点が特徴。
- XR
VR(バーチャルリアリティ)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などを含む総称で、現実空間とデジタル情報を融合する技術群を指す。
- 質感科学
実物の「光沢」「粗さ」「透明感」などの質感がどのように知覚されるのかを解明する学際的な研究分野。光学、視覚心理学、神経科学、情報科学などを横断し、物理的な特性と人間の知覚との関係を探った研究が進められている。近年では、プロジェクションマッピングのように実物の実物に直接光を投影する手法が、従来の2次元ディスプレイでは捉えきれなかった質感知覚の仕組みを明らかにする実験手段として重要な役割を果たしている。
