\電極なしで半導体薄膜の電気的特性を測定/ 光の反射係数の再定式化で半導体薄膜の性能を瞬時に評価

\電極なしで半導体薄膜の電気的特性を測定/ 光の反射係数の再定式化で半導体薄膜の性能を瞬時に評価

テラヘルツ波で次世代半導体デバイス開発を加速させる解析技術

2026-1-27工学系
基礎工学研究科准教授永井 正也

研究成果のポイント

  • 半導体薄膜を「電流が流れるシート」と見なすことで、半導体薄膜の電気的特性を光の反射係数から直接導出できる簡便な表式を発見。
  • 従来の方法では、電極を形成する工程が必要であり、材料の損傷や汚染のリスクがあったが、薄膜内の多重反射光を界面電流と考え、電磁気学の基本原理(電場と磁場の境界条件)に立ち戻ることで、容易かつ迅速な評価が可能に。
  • 非接触・非破壊で半導体薄膜の電気特性を容易に評価できる道を開き、次世代電子デバイス開発に資する重要な基盤技術となることに期待。

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科の大学院生・岡本章宏さん(博士前期課程)、永井正也准教授、芦田昌明教授らの研究グループは、日邦プレシジョン(株)との共同研究により、半導体薄膜の電気的特性を非接触・非破壊で評価できる新しい光学的解析モデルを世界で初めて提案しました。

このモデルは、光の反射を記述するフレネル係数を電磁気学の基本原理から再考し、波長よりも十分薄い薄膜内の多重反射光を界面電流として取り扱うことで、反射係数から導電薄膜の面伝導度を直接導き出す簡便な式を導いたものです。従来の方法では、電極を形成する工程が必要であり、材料の損傷や汚染のリスクがありましたが、この新しい手法は、従来必要だった複雑な数値計算や煩雑な解析を省き、薄膜の電気的特性を容易かつ迅速に抽出できるようになりました。実際にテラヘルツ波を用いてn型・p型GaAs薄膜試料の反射係数を評価しこのモデルを適用したところ、従来の接触型測定と一致する結果が得られ、その有効性が確認されました。

本成果は、非接触・非破壊で半導体薄膜の電気特性を評価できる解析上のボトルネックを解消するもので、次世代電子・フォトニクスデバイスの研究開発に大きく貢献する基盤技術となります。

本研究成果は、光学分野の国際的な学術誌 「Optics Letters」(旧米国光学会 Optica が出版)に、1月13日(火)に公開されました。

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図1. 提案するモデルの概念図。半導体薄膜中の多重反射光を「界面に流れる電流」と考えて反射係数を再定式化することで、テラヘルツ波の反射係数から電気的特性を簡単に評価できる。

研究の背景

シリコンの限界を超える次世代半導体(SiC、GaN、二次元材料など)は、EVインバーターや6G通信モジュール、量子ビット素子などの最先端デバイスへの応用が期待されています。これらの材料開発において、キャリア密度や移動度などの電気的特性を正確に評価することが不可欠です。しかし従来の電気測定は電極形成工程を伴うので、試料を損傷・汚染するリスクがありました。そのため、試料を傷つけずに非接触・非破壊で評価できる手法の確立が重要な課題となっています。

このような背景から、テラヘルツ時間領域エリプソメトリーが有力な光学的手法として注目されています。テラヘルツ波は半導体キャリアの応答周波数に近いため、光の反射における偏光変化からキャリア濃度や移動度などの電気的パラメーターを敏感に捉えることができます。さらに、試料に磁場を印加することでテラヘルツ波の偏光変化がキャリアの運動(ホール効果)の影響を受け、従来のホール測定と同等のキャリア情報を原理的には取得できます。

一方で、この手法を超薄膜や多層構造に適用する際には、光学の原理に基づいた多層膜モデルによる厳密な解析が必要となります。これは、光が異なる媒質の界面での反射・透過を記述するフレネル係数を用いて、薄膜内での光の多重反射を厳密に考慮する必要があるためです。結果として、膜厚や誘電率スペクトルなど多数のパラメーターを仮定した複雑な数値計算を伴います。この煩雑さによって、光学分野に精通していない研究者にとって解析が大きな障壁となっていました。

研究の内容

研究グループは、日邦プレシジョン株式会社(本社:山梨県韮崎市穂坂町宮久保734、社長:古屋俊彦)と共同で、電磁気学の基本原理に立ち返ることで半導体薄膜の電気的特性を光学スペクトルから評価できる、革新的な解析モデル「導電シート近似」を提案しました。

テラヘルツ電磁波の波長(約30 μm~3 mm)に比べて厚さが十分に小さい(特に1 μm以下)半導体薄膜は、あたかも「厚みゼロで電流が流れる界面」として近似的に扱えます。このとき、薄膜内で多重反射する光は界面電流として表現できます。電磁気学の境界条件──磁場の平行成分の不連続性がシート上に流れる界面電流に等しいという関係──に立ち返ると、一般的な光の反射係数(フレネル係数)では「界面電流がゼロ」という理想的な条件で成立するのに対し、本モデルではこの界面電流を複素反射係数に直接反映させることができます。

特に画期的なのは、磁場を印加した半導体薄膜に対する解析の簡略化です。ホール効果によって生じる電流は簡便に記述できるので、半導体薄膜の反射係数からホール測定で得られる情報も直接抽出できます。結果として従来の複雑な数値計算や多層膜モデルのフィッティング作業を大幅に簡略化できます。

そこで研究グループは、テラヘルツ時間領域エリプソメトリー装置を独自に改良し、試料に磁場を印加しながら高精度で測定可能なシステムを構築しました。この装置を用いてn型およびp型のGaAs(ガリウムヒ素)薄膜試料を測定し解析したところ、既存の接触型標準評価法の結果と完全に一致する結果が得られました。これにより、導電シート近似が信頼性の高い非接触評価を実現する実用的な解析ツールであることが実証されました。

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図2. 本モデルで解析したn型GaAs薄膜(0.3Tの磁場印加)の面伝導度。▲は既存の接触型標準評価法での結果。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究では、光学分野の基礎として教科書に記載されているフレネル係数を改めて見直すことで、電極を形成することなく、光のみを用いて半導体薄膜の反射応答から簡便に電気的特性を非接触・非破壊で評価できる手法を確立しました。非接触・非破壊で半導体薄膜の電気特性を評価できる解析上のボトルネックを解消したことで、材料開発の迅速化や測定の信頼性向上につながります。特に、二次元材料やトポロジカル絶縁体など、従来の方法では評価が難しかった先端機能材料に対して有効です。

特記事項

本研究成果は、2026年1月13日(火)に光学分野の国際的な学術誌 「Optics Letters」(旧米国光学会 Optica が出版)(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Modeling Terahertz Magneto-Optical Spectroscopic Ellipsometry with Conductive Sheet Approximation for Semiconductor Thin Films”
著者名:Akihiro Okamoto, Masaya Nagai, Masaaki Ashida, and Takashi Fujii
DOI:https://doi.org/10.1364/OL.583047

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(24K00558)、および博士課程教育リーディングプログラム「インタラクティブ物質科学・カデットプログラム」の支援を受けて行われました。

参考URL

大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 未来物質領域 芦田研究室
https://laser.mp.es.osaka-u.ac.jp/

永井正也准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8ff2456381ad5887.html

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう

用語説明

フレネル係数

1821年にフランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネルが定式化した、光が異なる媒質の境界面で反射・透過する際の振る舞いを記述する式。この式は、電磁気学の基本原理に基づき、界面での電場と磁場の連続性を仮定した、界面電流が存在しない理想条件のもとで導かれています。フレネル係数は、レンズ、薄膜、光学コーティングなどの設計に不可欠な基礎理論として、現代光学の幅広い分野で利用されています。

テラヘルツ波

周波数は0.1テラヘルツ(THz)から10 THz、波長は約3 mmから30 µmの範囲にある電波と光波(赤外線)の中間に位置する電磁波。かつては発生や検出が困難であったため「テラヘルツギャップ」と呼ばれていましたが、近年の技術開発により研究が加速しています。特に6G通信のテラヘルツ帯利用、非破壊検査、物質の分子識別、そして半導体の電気特性を非接触で評価する技術として、その応用展開に注目が集まっています。

テラヘルツ時間領域エリプソメトリー

光が物質表面で反射した際の偏光状態の変化を測定して光学定数を解析する分光エリプソメトリーに、超短光パルスレーザー技術を用いてテラヘルツ電場を実時間で測定する手法を組み合わせた高度な非接触・非破壊計測法。テラヘルツ波(0.1~10 THz)は、半導体のキャリア応答周波数に近いため、半導体の最も重要な電気的特性(キャリア密度や移動度)を高感度で評価できます。このTHz電磁波帯へのエリプソメトリーの適用は大阪大学が提唱した後、現時点では立命館大学や大阪大学レーザー科学研究所、広島大学で研究が行われています。

ホール効果

物質中のキャリア(電子や正孔)の極性、密度、移動度を測定するために利用される基本的な物理現象です。電流が流れている導体や半導体に、垂直な方向から磁場を印加すると、ローレンツ力によってキャリア(電荷)が曲げられ、進行方向に対して垂直な側面に集積します。 この電荷の偏りによって発生する電位差(ホール電圧)を測定することで、半導体の性能を決定づけるキャリア密度とキャリア移動度を評価できます。