感染経験が「気づかぬ感染」への認知を高め、 マスク着用を促す

感染経験が「気づかぬ感染」への認知を高め、 マスク着用を促す

長期継続調査データで、感染前の違いをそろえて比較

2026-1-22社会科学系
感染症総合教育研究拠点教授村上 道夫

研究成果のポイント

  • 30回の追跡調査(2020年1月〜2024年3月)を用い、感染前の傾向が近い人同士を対応づけて(傾向スコアマッチング)、感染後のリスク認知や予防行動を比較。
  • COVID-19に感染した経験のある人は、感染していない人よりもマスク着用の割合が高いこと(感染群94.8%、非感染群87.4%)と感染後、特に「気づかないうちに影響を受けているかもしれない」という“未知性”のリスク認知が高まったことが判明し、感染経験→未知性リスク認知の上昇→マスク着用というつながり(媒介効果)が統計的に支持された。
  • 感染者の実感(例:気づかないうちに感染しうる)に基づく情報を、公衆衛生メッセージに活かすことが、未感染者の予防行動を後押しする可能性が示唆された。

概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点の村上道夫教授、三浦麻子教授(大阪大学大学院人間科学研究科、感染症総合教育研究拠点兼任)と同志社大学文化情報学部の山縣芽生助教(感染症総合教育研究拠点連携研究員)の研究グループは、国内の成人を対象とした30回にわたるパネル調査(2020年1月〜2024年3月)のデータを用いて、COVID-19の感染経験が、その後のリスク認知と予防行動(手指消毒・マスク着用)にどのような影響を与えるかを検討しました。

傾向スコアマッチングという統計手法を用いて、感染経験のある人とない人を、感染前のリスク認知・行動・属性が近くなるように対応付けたうえで、感染後のリスク認知や予防行動を比較しました。

その結果、COVID-19に感染した経験のある人は、感染していない人よりもマスク着用の割合が高く(感染群94.8%、非感染群87.4%)、また、「気づかぬ感染」への認知(未知性リスク認知の一項目)も高いことが示されました(感染群6.33、非感染群5.79;最小1-最大7)(図)。さらに、感染経験 →未知性リスク認知の上昇→ マスク着用、という媒介効果が統計的に支持されました。

この結果は、感染経験そのものを前提にするのではなく、感染者の実感(例:気づかないうちに感染しうる)に基づく情報を、公衆衛生メッセージに活かすことが、未感染者の予防行動を後押しする可能性を示唆します。

本研究成果は、2026年1月2日(金)に国際誌「Epidemiology & Infection」に掲載されました。

20260122_1_1.png

図. 感染した人と感染していない人の感染前後でのマスク着用率と「気づかぬ感染」のリスク認知

研究の背景

感染症対策では、手洗い・消毒、マスクなどの予防行動が重要です。一方で、人々がどの程度それを実行するかは、単に知識だけでなく、どれくらいリスクがあると感じるか(リスク認知)にも左右されます。

しかし、感染経験がその後の予防行動を増やすのか/減らすのかは一貫しておらず、また「リスクが高いと感じる人ほど感染を避けやすい」といった感染前の違い(逆因果)の影響も入り込みます。そこで本研究では、感染前の傾向が近い人同士を対応づけて比較することで、感染経験後の変化に焦点を当てました。

研究の内容

日本在住の18歳以上の市民を対象に、2020年1月から2024年3月まで、合計30回のオンラインアンケート調査を行いました。1回目の調査参加者は1,248人で、途中で参加者を追加しながら追跡しました。感染経験を尋ねる設問が導入された第11回(2021年1月)以降の参加者を分析対象とし、感染者が多かった18~23回目(2022年3月~2023年1月)と26~27回目(2023年7~9月)について、まず参加者を感染した人と感染していない人にグループ分けした上で、傾向スコアマッチングを用いて、感染前の傾向が近い人同士のペアを作りました。最終的に、135ペア(計270人)が得られました。

そして、感染前と感染後のリスク認知(恐ろしさリスク認知と未知性リスク認知)や予防行動(手指消毒とマスク着用)を比較しました。さらに、未知性リスク認知の一つである「気づかないうちに影響をうけているかもしれない」が、感染経験とマスク着用に及ぼす媒介効果を検討しました。

その結果、感染経験は、「抗体ができたからもう対策しなくてよい」というよりは、特に「気づかないうちに感染しうる」という実感を通じて、予防行動(マスク着用)を後押しする可能性が示唆されました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

公衆衛生メッセージにおいて、単に危険性を強調するだけでなく、感染経験者が抱きやすい“気づかぬ感染”の感覚を、未感染者にも伝わる形(体験談の要点、具体的場面)に翻訳することが、予防行動の維持に資する可能性があります。

ただし、感染後の行動変化は国や時期の影響も受けます。本研究でも、他国で「感染後にマスク着用が低下した」という報告との差異に触れており、社会規範や流行株の状況を踏まえた発信設計が重要です。

特記事項

本研究成果は、2026年1月2日(金)に国際誌「Epidemiology & Infection」に掲載されました。

タイトル:“The impact of COVID-19 infection experience on risk perception and preventive behaviour: a cohort study”
著者名:Michio Murakami, Mei Yamagata, and Asako Miura
DOI:https://doi.org/10.1017/S0950268825100940

本研究は、大阪大学大学院人間科学研究科ヒューマン・サイエンス・プロジェクト、日本財団・大阪大学 感染症対策プロジェクト、科研費挑戦的研究(萌芽)の一環として行われました。

参考URL

大阪大学感染症総合教育研究拠点 村上 道夫 教授
https://www.cider.osaka-u.ac.jp/researchers/michio-murakami/

同志社大学文化情報学部 山縣 芽生 助教
https://researchmap.jp/meiyamagata

大阪大学大学院人間科学研究科(感染症総合教育研究拠点兼任) 三浦 麻子 教授
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/9bdf67161c88e954.html

コロナ禍の日本の社会心理を 30回・4年以上追跡したデータセットを公開(2025年12月1日プレスリリース)
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20251201_4

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

傾向スコアマッチング

2つの群の属性が近い人同士を対応づける統計手法。本研究では、感染前のリスク認知・行動・属性などが近い人同士を対応づけた。

リスク認知

COVID-19の感染リスクについての感じ方。本研究では、恐ろしさリスク認知と未知性リスク認知をそれぞれ2項目で測定した。恐ろしさリスク認知は「死に至る可能性がある」「いつ起きるかわからない」、未知性リスク認知は「気づかないうちに影響をうけているかもしれない」「どんな影響があるかよくわからない」という質問についてどのように感じるかを尋ね、「1 = 全く感じない」から「7 = 非常に感じる」を選択させたときの回答結果を用いた。

媒介効果

ある原因が、結果に直接影響するのではなく、途中の要因を通じて影響すること。本研究では、「感染経験が直接マスク着用を増やす」のではなく、未知性リスク認知の一つである「気づかないうちに影響をうけているかもしれない」を通じて影響が生じるかを検討した。