気体と液体を混ぜる回転ローターの エネルギー損失メカニズムを解明

気体と液体を混ぜる回転ローターの エネルギー損失メカニズムを解明

動力伝達装置、攪拌機などの効率向上に資する設計指針を提供

2025-12-17工学系
基礎工学研究科教授杉山 和靖

研究成果のポイント

  • 回転ローターによって気体と液体が混ざった流れを動かしている状態(気液二相流)において、エネルギー損失が最大化するメカニズムを、実験とスーパーコンピュータによる数値シミュレーションとの融合により解明
  • 損失最大化は、界面波の共振に関係し、ローターと気液界面の直接的な衝突に加え、ローター周囲に生じる特異な高圧・低圧領域の圧力変動が大きく影響していることを特定
  • 動力伝達装置、攪拌機などの産業機器におけるエネルギー損失の低減と最適な設計・運転に資する基礎的知見を提供し、産業機器のさらなる省エネ化や性能向上の実現に期待

概要

大阪大学大学院基礎工学研究科 河村真佑さん(博士後期課程)、杉山和靖教授(理化学研究所光量子工学研究センター 客員研究員兼任)、東京大学大学院工学系研究科 渡村友昭講師(理化学研究所光量子工学研究センター 客員研究員兼任)の研究グループは、動力伝達装置、冷却システム、化学攪拌機など、様々な産業分野で使われる「ローター駆動型気液二相流」におけるエネルギー損失メカニズムを詳細に解明しました。

本研究では、エネルギー損失が局所的なピークを示す現象(損失最大化)(図1)に焦点を当て、実験とスーパーコンピュータ「SQUID」「HOKUSAI BigWaterfall2」を活用した数値シミュレーションを組み合わせてその詳細を解析しました。

研究の結果、損失最大化をもたらすトルクの最大化は、ローターと液面の衝突(図2(a))だけでなく、一周期ごとに複数回発生するローター前後の圧力の偏り(図2(b))が顕著になることが原因であることを突き止めました。

さらに、液体の充填率が高いほど、この損失最大化の効果が弱まることが明らかになり、回転速度だけでなく液面高さも考慮することでエネルギー損失を効果的に低減可能であることが示されました。

これらの知見は、複雑な産業機器における流体抵抗や攪拌損失の理解を根本から深めるもので、産業機器のさらなる省エネ化や性能向上の実現が期待されます。

本研究成果は、混相流れに関する専門学術誌である「Multiphase Science and Technology」に、2025年12月14日付で公開されました。

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図1. 共振条件下における損失局所増大の測定結果と、数値計算を用いた力分布の可視化結果。

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図2. 数値計算を用いた詳細解析の結果。(a)液面の衝突によるトルク増大時。(b)圧力の偏りによるトルク増大時。

研究の背景

~複雑な流動と未解明の損失メカニズム~
動力伝達装置、冷却システム、化学攪拌機など、様々な産業分野で使われる回転体駆動型の気液二相流は、回転速度や液体の充填率によって流れが複雑に変化し、機器の性能や効率に大きく影響します。特に、動力伝達装置では流体による攪拌損失が総エネルギー損失の大部分を占めるため、そのメカニズムを解明し、損失を低減することは長年の課題です。回転体が流れを周期的に駆動すると、気液界面を大きく揺らすスロッシングが発生します。スロッシングが共振状態になるときの「時間変動」特性は、機械的故障リスクの観点から重要であるため、これまで詳しく調べられてきました。最近の研究により、共振条件下でトルクのような「時間平均量」がピークを示し、損失が最大化することが観測されました(図1)。しかし、時間平均量が最大化する仕組みは不明なままでした。

研究の内容

研究グループは、実験と数値シミュレーションを組み合わせることで、エネルギー損失の最大化のメカニズムを時空間的に詳細に解析し、その核心に迫りました。

● トルク増大の要因を特定: エネルギー損失の最大化は、トルクの増大に起因します。トルク増大は、気液界面波の固有振動数に対応して発生し、ローターと液面の直接的な衝突(図2(a))に加えて、ローター周囲に形成される圧力の偏り(図2(b))が主な要因であることを突き止めました。これは、ローター前方に流体が引き寄せられる効果と、ローター後方の不安定な流れが増大することで、トルクが増強されることを示しています。

● 充填率依存性の解明:液体の充填率が高いほど、エネルギー損失の最大化の効果が弱まることを明らかにしました。これは、運転条件として回転速度だけでなく、液面高さも考慮に入れることで、エネルギー損失を効果的に低減できる可能性を示唆しています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で得られた知見は、以下のような価値を生み出すことが期待されます。

エネルギー効率の向上: エネルギー損失が最大化する共振状態のメカニズムを理解することで、その回転速度や液面高さを意図的に避けたり、ローターの形状を最適化したりすることが可能になります。これにより、機器全体の省エネ化を実現し、サステナブルな社会に貢献します。

高信頼性・長寿命化: トルクの非線形な増大は、機械部品に過度な負荷をかけ、故障や摩耗の原因となり得ます。損失メカニズムを解明することで、機械的故障のリスクを事前に評価し、より堅牢で長寿命な設計に繋げることができます。

新たな設計指針の提供: ローター周囲の圧力変動がエネルギー損失に大きく影響するという知見は、最小のエネルギーで最大の効果(攪拌、冷却など)を得るためのシステム構成の開発につながる、革新的な設計指針を与えます。

今後の研究により、この基礎的知見を産業応用へと展開し、産業機器のさらなる省エネ化や性能向上が実現されることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2025年12月14日、混相流れに関する専門学術誌である「Multiphase Science and Technology」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Mechanisms of torque maximization in gas-liquid two-phase flows driven by a pressure-loss-dominant rotor in a stationary cylindrical container”
著者名:Mayu Kawamura, Kazuyasu Sugiyama and Tomoaki Watamura
DOI: https://doi.org/10.1615/MultScienTechn.2025060620

なお、本研究の一部は、科学技術振興機構 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2138)、自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI)の助成を受けて行われました。数値シミュレーションの一部は、大阪大学 D3センター「SQUID」、理化学研究所 情報セキュリティ・システム部「HOKUSAI BigWaterfall2」を用いて実行しました。

参考URL

SDGsの目標

  • 07 エネルギーをみんなにそしてクリーンに
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 12 つくる責任つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を

用語説明

エネルギー損失

流体を用いる機械・装置の多くは、流体の持つエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー、圧力によるエネルギー)を仕事や動力の源として利用します。流れに摩擦が生じると、流体の持つエネルギーの一部は熱エネルギーに転換され、機械や装置の動作に利用できなくなります。流体の運動や力を工学的に応用する流体工学の分野では、このエネルギーの転換分をエネルギー損失と呼びます。

数値シミュレーション

現象の法則を表す数式をコンピュータで計算し、その現象をコンピュータ上で再現することです。

共振

物体が持つ揺れやすい振動数(固有振動数)と同じ振動数で外部から力を加えたときに、その物体の揺れが著しく大きくなる現象。流体が共振すると、その振動運動の振幅が時間とともに増大し、やがて極大値に達します。

「SQUID」

大阪大学D3センターが設置し、2021年5月から運用されている計算機。

「HOKUSAI BigWaterfall2」

理化学研究所 情報セキュリティ・システム部が設置し、2023年12月から運用されている計算機。

トルク

回転軸から力がはたらく点までの距離と、その点にかかる力との積で表される量です。流体中を回転するローターには、流体の抵抗や浮力によりトルクがはたらきます。ローターをより速く回転させると、ローターにはより大きなトルクが作用します。トルクに角速度(単位時間あたりに回転する角度、つまり回転の速さ)をかけたものは動力と呼ばれます。エネルギーの釣り合いから、ローターが回転し続けるとき、その動力の時間平均値は、単位時間あたりのエネルギー損失に等しくなります。これは、流体の持つエネルギーを失う分だけ、それを補うための動力が必要になることを表します。

攪拌損失

回転ローターや羽根車などで流体をかき混ぜる際に、流体の持つエネルギーの一部が熱エネルギーに転換されます。この転換分(エネルギー損失)を攪拌損失と呼びます。

スロッシング

容器内の液体が加振によって揺動する現象。