
歯の健康状態が死亡率予測の鍵に!
高齢者19万人の歯科検診データから判明
研究成果のポイント
- 75歳以上の高齢者190,282人を対象に、歯科健診時の歯数および歯の状態と全死亡との関連を解析。
- 健全歯および処置歯が多いほど死亡率は低下し、未処置歯は死亡率を上昇させる。
- 健全歯+処置歯のみを歯数として数える方法が、全死亡率の予測精度において最も優れている。
概要
口腔の健康状態と死亡リスクには関連があることが知られており、日本では1989年より「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動が展開されています。しかし、歯の状態には健全歯、処置歯、未処置歯などさまざまな種類があり、どの状態の歯を歯数として数えることが死亡リスクの予測に最も有効かは明らかになっていません。
大阪公立大学大学院看護学研究科の大槻 奈緒子講師と、大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター保健管理部門の山本 陵平教授らの共同研究グループは、75歳以上の高齢者190,282人を対象に、歯科健診時の歯数および歯の状態と全死亡との関連を解析しました。その結果、健全歯および処置歯が多いほど死亡率が低下する一方で、虫歯等の未処置歯は死亡率を上昇させることが明らかになりました。さらに、健全歯+処置歯のみを歯数として数える方法が、健全歯のみ、あるいは健全歯+処置歯+未処置歯を数える方法と比較して、全死亡率の予測精度が最も高いことが示されました。
本研究成果は、2025年11月24日に国際学術誌「BMC Oral Health」にオンライン掲載されました。
研究の背景
人口の高齢化に伴い、世界的に口腔と全身の健康の関連が注目されています。これまでの研究で、歯数が少ないことと死亡率に関係があることが明らかになっています。日本では、1989年から8020運動が展開され、国民に歯数を残す大切さが広く普及しており世界に誇る成果が出ています。しかし歯数といっても、健康な歯(健全歯)や治療済みの歯(処置歯)、虫歯等の歯(未処置歯)と歯の状態はさまざまです。現在のところ、どの状態の歯を歯数として数えることが、死亡率の予測に最も有効かは明らかになっていません。
研究の内容
日本では、2018年から75歳以上の後期高齢者を対象に後期高齢者歯科健診事業が開始されています。本研究は、75歳以上の大阪府民の歯科健診データと医療データを活用した医療ビッグデータ分析事業であるOral Health Screening to Assess Keys of Aging well (OHSAKA) studyの一部として行われました。具体的には、2018〜2020年度に歯科健診を受診した75歳以上の高齢者190,282人を対象として、歯科健診受診時の歯数および歯の状態と、全死亡の関連を2022年3月まで追跡調査を行いました。
75歳以上の高齢者においては、基礎疾患や要介護認定の有無など、健康状態に個人差が特に存在します。そこで本研究では、背景要因を統計的に調整した上で、歯数および歯の状態と全死亡の関連性について生存時間解析を用いて検討しました。その結果、従来の研究と同様、歯科健診時の歯数が少なければ少ないほど、全死亡率が上昇することが示されました。例えば、歯数が0本の場合は、歯数21本以上に比べて男女ともに全死亡リスクは約1.7倍であることが明らかになりました。
さらに、「どのような歯数の数え方が死亡率の予測に有効であるか」を明らかにするため、Net Reclassification Improvement(NRI)を用いて、歯の種類と全死亡率との関連を検討しました。その結果、健全歯と処置歯が多ければ多いほど死亡率が低下する一方で、未処置歯は死亡率が上昇することが明らかとなりました。さらに、健全歯+処置歯を歯数として数える方法が、健全歯のみを数える方法や健全歯+処置歯+未処置歯を数える方法と比較して、全死亡率の予測精度が高いことが示されました。
期待される効果・今後の展開
本研究の新たな知見として、健全歯や処置歯は多ければ多いほど死亡率が低いですが、未処置歯がある人は、死亡率が上昇していることが明らかになりました。したがって、定期的な歯科健診を受け、治療が必要な歯は早期に治療を受けることが生命予後延伸には重要です。
また、全死亡率予測という観点においては、本研究結果を歯科診療の場でフィードバックしてもらうことで、早期治療や定期的な歯科メインテナンスを促す一助になり、国民の健康寿命の延伸にも貢献できるのではないかと考えています。
特記事項
【論文情報】
【発表雑誌】BMC Oral Health
【論 文 名】Assessing the effectivity of counting the number of teeth with their conditions to predict mortality: The OHSAKA study
【著 者】Naoko Otsuki, Ryohei Yamamoto, Tomoaki Mameno, Satoko Takeuchi, Maki Shinzawa, Ayumi Kono, and Kazunori Ikebe.
【掲載URL】https://doi.org/10.1186/s12903-025-07275-6
本研究は、JSPS科研費基盤研究B(24K02764)および大阪府後期高齢者医療広域連合受託研究(受託研究代表:大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センター 山本 陵平)の一部として実施しました。
用語説明
- 後期高齢者歯科健康診査
日本では高齢者の口腔状態の問題や口腔機能低下をスクリーニングし、精密検査、治療および地域の介護予防事業等につなげることで口腔機能の維持・向上、全身疾患の予防等を実現することを目的に、2018年度から後期高齢者を対象とした公的な歯科健診事業を開始した。高齢者を対象にした公的な歯科健診の実施は世界的にも珍しく、諸外国からの報告は2025年現在において見られない。