
\マクロだけではなかった/ ミクロオートファジーによっても ミトコンドリアが分解されることを解明
研究成果のポイント
- ミトコンドリアが「ミクロオートファジー」という仕組みで分解されることを解明。
- これまでミトコンドリアの分解は主に「マクロオートファジー」で行われると考えられており、ミクロオートファジーの役割は不明だった。
- 今回、Rab32タンパク質を指標にリソソーム様オルガネラの観察を行うことで、ミクロオートファジーによるミトコンドリア分解を明確に捉え、その存在と重要性を示すことに成功。
- ミクロオートファジーの生理的機能の理解が深まることで、将来的に免疫疾患の新たな治療戦略開発につながる可能性や、ミトコンドリアの機能異常が様々な疾患に関わっていることから、ミクロオートファジーの制御を介して、他の疾患の治療にも応用できる可能性に期待。
概要
大阪大学大学院歯学研究科のLu Shiou-Ling助教、大学院生のChen Siyuさん(博士課程)、野田 和也さん(博士課程)、野田 健司教授らの研究グループは、細胞内の損傷したミトコンドリアが、ミクロオートファジーという仕組みによって分解されることを世界で初めて明らかにしました。
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を担いますが、傷ついたミトコンドリアは適切に処理されなければ細胞に悪影響を及ぼします。これまで、ミトコンドリアは、マクロオートファジーにより分解されると考えられていました。
今回、研究グループは、免疫細胞の一種であるマクロファージ細胞に着目し、特別なタンパク質Rab32を指標として観察することにより、マクロファージ内においてリソソーム様オルガネラがミトコンドリアを直接取り込み分解するミクロオートファジーの仕組みを解明しました。さらに、ミクロオートファジーが阻害されたマクロファージでは免疫機能の活性化が低下することも確認され、ミクロオートファジーによるミトコンドリア分解はマクロファージの免疫応答において重要な役割を果たしていることが示唆されました。このことから、マクロオートファジーと対照的に、ほとんど研究が進んでいなかったミクロオートファジーの理解が進展するとともに免疫疾患の新たな治療戦略開発への貢献が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、8月30日(日本時間)に公開されました。
図1. ミトコンドリアがリソソーム様オルガネラにミクロオートファジーで取り込まれる瞬間の連続写真
研究の背景
オートファジーには、実は全く別の現象である2種類のオートファジーが存在し、そのうち、大隅良典博士がノーベル生理学医学賞を受賞され有名になり、よく研究が進んでいるのがマクロオートファジーと呼ばれるものです。
マクロオートファジーは、オートファゴソームと呼ばれる生体膜構造が進展しながら分解する対象を包み込み、細胞内のゴミ処理場とも例えられるリソソームと呼ばれる場所に運び込み、そこで分解を行う現象です。一般的に知られることが多くなってきたオートファジーは、ほとんどの場合、実際はこのマクロオートファジーを指しています。ミトコンドリアは細胞のエネルギー工場とも例えられ、エネルギー通貨、ATPを生成する一方、同時に破壊効果をもつ活性酸素を生み出すため、細胞に危険をもたらさないように適切なコントロールがされています。特に傷ついたミトコンドリアは、マクロオートファジーにより分解されることが知られていました。
図2. マクロオートファジーとミクロオートファジーの比較
研究の内容
研究グループでは、Rab32タンパク質に注目することにより、免疫細胞の一種マクロファージ細胞においてリソソーム様オルガネラについて観察を行いました。リソソームは、直径0.2ミクロン程度であり、ミトコンドリアに比べて小さいという特徴がありますが、リソソーム様オルガネラとは、リソソームに似た性質を持ちながら、その直径が2ミクロン以上というリソソームに比べて大きいという特徴があります。驚くべきことにマクロオートファジーができないよう改変したマクロファージ細胞においてもミトコンドリアがリソソーム様オルガネラに取り込まれることが分かりました。
リソソーム様オルガネラはミトコンドリアより大きく、その膜が陥入することでその内部へミトコンドリアを取り込みます。すなわち分解する場所がその対象を直接取り込む現象、ミクロオートファジーにより取り込まれていることが分かりました。
マクロファージ細胞は体内で病原菌と出会うと自身の免疫機能を活性化し殺菌作用を施します。この時、エネルギー生産を担う代謝経路が、ミトコンドリアに依存した経路から糖を分解することに依存した経路へ変わることが知られています。しかし、今回発見したミクロオートファジーを起こすことができないマクロファージ細胞では、免疫機能の活性化が弱まっていることを見出しました。このことからミクロオートファジーによるミトコンドリアの分解が免疫機能の活性化に重要であることが示唆されました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、マクロオートファジーの研究が生命科学に大きなインパクトを与えたのと同様に、ミクロオートファジーの生理的機能の理解が深まることで、将来的には免疫機能などの新たな治療戦略開発につながる可能性があります。また、ミトコンドリアの機能異常は様々な疾患に関わっているため、ミクロオートファジーの制御を介して、他の疾患の治療にも応用できる可能性があります。
特記事項
本研究成果は、2025年8月30日に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Evidence that mitochondria in macrophages are destroyed by microautophagy”
著者名:Shiou-Ling Lu*, Siyu Chen*, Kazuya Noda*, Yangjie Li, Chao-Yuan Tsai, Hiroko Omori, Yumiko Kato, Zidi Zhang, Bohan Chen, Kanako Tokuda, Tongxin Zheng, Masahiro Wakita, Eiji Hara, Mitsunori Fukuda, Yoh Wada, Eiji Morita, Narikazu Uzawa, Shinya Murakami, Takeshi Noda
DOI:10.1038/s41467-025-63531-x
なお、本研究は、科研費研究、日本財団Osaka University Infectious Disease Response Project、ヒロセ財団の一環として行われました。
参考URL
用語説明
- ミトコンドリア
細胞の中の構造の一つ。細胞の様々な活動のエネルギーとして使われるATPを産出すると同時に酸素や活性酸素を産出し、毒性をもたらす。
- ミクロオートファジー
細胞の中で起こる現象の一つ。リソソームなど分解を担う構造の膜が陥入して分解対象物を直接取り込む。
- マクロオートファジー
ミクロオートファジーと並びオートファジーに分類される現象の一つだが、大隈良典博士のノーベル賞などでよく知られているオートファジーは、ほとんどこちらを示している場合が多い。
- Rab32
細胞内のタンパク質の一つ。リソソーム様オルガネラの生成に関わる。
- リソソーム様オルガネラ
リソソームと似た性質を持つが、様々な細胞に特化した役割を持つ細胞内の小器官のひとつ。
- マクロファージ細胞
免疫に関わる細胞の一つ。病原菌を直接取り込み殺菌する。通常はマクロファージと呼ぶが、今回は似た用語があり、区別するためマクロファージ細胞と記載している。
- オートファゴソーム
マクロオートファジーの際に出現し、マクロオートファジーを特徴づける膜構造体。
- リソソーム
細胞の中の小器官の一つで、内部に送られた物質を分解する性質をもつ。
- ATP
細胞内の様々な反応のエネルギーとして使われる物質。
