
毎日日本酒2合相当の飲酒から、 男性の腎機能低下リスクが高まる
大阪府特定健診のビッグデータが示す、飲酒と腎機能低下の関係
研究成果のポイント
概要
大阪大学キャンパスライフ健康支援・相談センターの中村祐子特任助教(常勤)、山本陵平教授らの研究グループは、大阪府で特定健診を受診した40–74歳の男女を対象に、飲酒量と腎機能(推算糸球体濾過量eGFR)の低下を検討したところ、1日あたり日本酒2合相当(アルコール約40g)以上の飲酒をしている男性では、腎機能が30%以上低下するリスクが高くなることを明らかにしました(図1)。
厚生労働省は、毎日日本酒1合相当の飲酒を適量としており、それ以上の飲酒では健康リスクにつながる可能性があることを提唱しています。腎臓に関して、日本人304,929名(男性125,698名、女性179,231名)を対象とした過去最大規模の疫学研究では、毎日2合未満の飲酒では腎機能低下は見られず、毎日3合以上の飲酒をする男性で腎機能低下のリスクが高いことが報告されていました。しかしながら、毎日2合以上3合未満の飲酒については、腎機能低下との関連はよく分かっていませんでした。
研究グループは、2012年度から2017年度までに大阪府で特定健診を受診した国民健康保険加入者169,272名(男性80,765名、女性88,507名)を対象に、飲酒量と腎機能との関連を検討しました。
その結果、毎日日本酒2合相当以上飲酒をする男性では、飲まない人と比較し、腎機能が30%以上低下するリスクが高いことが明らかとなりました。一方、女性では飲酒量と腎機能との関連は見られませんでした。この知見により、飲酒量に応じたリスク評価や生活習慣改善の指導など効果的な保健指導が期待されます。
図1. アルコール摂取量と腎機能30%以上の低下
研究の背景
多量飲酒と腎機能との関連について検討した過去の疫学研究では、多量飲酒の定義が「1日あたり日本酒1合相当以上」や「2合相当以上」など研究ごとにばらついており一貫性がなく、相反する結果が混在していました。近年実施された大規模疫学研究では、日本人304,929名(男性125,698名、女性179,231名)を対象とし、中央値1.9年間追跡することで、「1日あたり2合未満」の飲酒では腎機能の低下は見られませんでしたが、「1日あたり3合以上」の飲酒で男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていました。しかしながら、毎日2合以上3合未満の飲酒と腎機能との関連については明確な結論が得られていませんでした。さらに、女性は男性よりも飲酒の影響を受けやすいことが知られており、性別による影響の違いも考えられていました。これらのことから、飲酒量の詳細なカテゴリを設定し、男女別で腎機能との関連を検討する必要がありました。
研究の内容
2012~2017年度の大阪府で特定健診を受診した169,272名(男性80,765名、女性88,507名)のデータを用い、飲酒量と腎機能(推算糸球体濾過量eGFR)低下との関連を男女別にそれぞれ検討しました。飲酒量は、①飲まない、②たまに飲む、毎日③1合未満、④1~2合未満、⑤2~3合未満、⑥3合以上の6カテゴリに分類されました。中央値2.8年間観察したところ、男性では1,231名(1.5%)で腎機能が30%以上低下しました。特に毎日2合以上飲酒する群(カテゴリ⑤と⑥)は飲まない群(カテゴリ①)と比較し、腎機能低下のリスクが高いことが示されました(カテゴリ①を基準[リスク=1.00]とした場合、②〜⑥のリスクはそれぞれ1.05倍[95%信頼区間0.87–1.27], 0.99倍[0.80–1.21], 1.05倍[0.88–1.26], 1.23倍[1.01–1.51], 1.61倍[1.22–2.11]となりました)。一方、女性では飲酒者が少なかったことから、十分な検討ができませんでした。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
厚生労働省は、毎日日本酒1合相当を適量飲酒とし、それ以上の飲酒では健康リスクとなることを提唱しています。腎臓に関して、過去に行われた日本人を対象とした大規模疫学調査より、毎日2合未満の飲酒では腎機能低下のリスクとはならず、3合以上の飲酒で男性の腎機能低下のリスクが高いことが報告されていました。今回の研究では、毎日2合を超える飲酒で男性の腎機能低下リスクが高い可能性が示されました。この知見は、飲酒による腎機能への影響が、従来考えられていたよりも低用量の飲酒で現れる可能性を意味しており、腎臓においても飲酒量に関するより慎重なリスク評価が求められます。
特記事項
本研究成果は、2025年7月13日(日本時間)に国際医学誌「Journal of Nephrology」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Alcohol Consumption and Incidence of Decline in Glomerular Filtration Rate and Proteinuria: The Osaka Kenko Innovation (TOKI) Study”
著者名:Yuko Nakamura, Naoko Otsuki, Qinyan Li, Maki Shinzawa, Isao Matsui, Miyae Yamakawa, Asuka Oyama, Hiroshi Toki, and Ryohei Yamamoto
DOI:https://doi.org/10.1007/s40620-025-02339-w
日本学術振興会JSPSの科研費(No. 23K17228)の支援を受け、大阪府の協力を得て行われました。
参考URL
山本陵平教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5483155cff49bf0a.html
中村祐子特任助教(常勤) 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8a2b6226ab836a84.html
