遺伝子変異とタンパク質の立体構造をつなぐ 新しいポータルサイトを公開!
創薬への応用に期待
研究成果のポイント
- 日本人遺伝子変異情報とタンパク質の配列・立体構造情報をつなぐ新しいポータルサイトを構築し、日本蛋白質構造データバンク(PDBj)の新しいサービスとして公開。
- 新しいポータルサイトは、国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)が構築している日本人多層オミックス参照パネル(jMorp)収録の遺伝子変異をタンパク質の立体構造上に簡単に表示できるツールを実装。これまで必要だった変異とタンパク質の立体構造を対応づける複雑な作業が不要に。
- タンパク質立体構造情報と遺伝子変異情報の創薬への応用が加速することに期待。
概要
国立大学法人 大阪大学 蛋白質研究所 日本蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank Japan :PDBj 代表 栗栖源嗣教授)と国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo 機構長 山本雅之教授)は、日本人遺伝子変異情報とタンパク質配列・立体構造情報をつなぐポータルサイトを構築し、PDBjの新しいサービスとして公開しました( https://pdbj.org/uniprot/)。
新しいポータルサイトには、ToMMoが構築している日本人多層オミックス参照パネル(jMorp:Japanese Multi Omics Reference Panel 代表 木下賢吾教授)収録の遺伝子変異へのリンクが掲載されているだけでなく、変異をタンパク質の立体構造上に簡単に表示するツールも実装しています。遺伝子変異とタンパク質の立体構造の対応づけは、煩雑な作業が必要ですが、今回開発したポータルサイトにより、簡単に対応関係を調べることができるようになりました。
タンパク質立体構造情報と遺伝子変異情報の医学・創薬への利用を加速し、新たな治療標的の発見や治療方法の開発に役立つことで、プレシジョンメディシンの進展につながると考えられます。
図1. PDBjで公開された日本人遺伝子変異情報と蛋白質の配列・構造をつなぐ新しいポータルサイト(例 UniProt ID: P20813)
研究の背景
蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank:PDB)は実験的に決定した生体高分子の3次元構造を保存する世界で唯一のデータベースで、国際プロジェクト「国際蛋白質データバンク(worldwide Protein Data Bank:wwPDB)」によって運営されています。そのデータは世界の研究者に活用され、2024年のノーベル化学賞「タンパク質デザインと構造予測」においては、タンパク質の構造情報を収集し関連情報を付加して無償で提供してきたPDBの貢献があったことを、受賞者のジョン・ジャンパー博士がコメントされています。wwPDBの設立メンバーであるPDBjは、wwPDBのアジア代表機関として、全PDBデータを公開すると同時に、アジア地区で解析された全てのタンパク質構造情報をPDBに登録しています。さらにタンパク質構造を検索、可視化、解析するための独自のサービスとツールを開発してきました。
ToMMoでは、東北メディカル・メガバンク事業におけるコホート調査に参加いただいた方のゲノム・オミックスデータを解析し、その一部を頻度情報としてjMorpにて、ユーザフレンドリーなWebインターフェースとともに公開しています。
近年、がんゲノム医療など、遺伝子の変異に基づいて治療方針を決定するプレシジョンメディシンの発展に伴い、遺伝子変異がタンパク質の機能にもたらす影響を理解し、予測する必要性が高まっています。しかし、遺伝子変異をタンパク質の立体構造と合わせて解析するためには、変異と構造のマッピングという煩雑な作業が必要でした。また、遺伝子に対応するタンパク質の複数の立体構造がPDBに登録されているときに、解析に用いる立体構造を選択することは、自明ではありませんでした。
研究の内容
今回、新しく開発したポータルサイトは、UniProt IDごとにPDBに登録されているタンパク質の立体構造がまとめられています。立体構造を、分解能やUniProtのアミノ酸配列に対して立体構造情報が存在する部分の割合などを考慮した独自のスコアに基づいてランキングすることで、解析に用いる構造を容易に選択し、表示させることができます。アミノ酸配列を表示したパネルでは、各アミノ酸残基にjMorp収録の変異情報を示すラベルが付けられており、jMorpへのリンクも提供されています。配列パネルは、立体構造パネルと連動しており、配列パネルで残基を選択すると、その残基の立体構造上での位置をすぐに確認することができます。表示させている立体構造の化合物や他のタンパク質と相互作用をグラフ表示させたパネルなども作成しました。
今後、jMorp以外のデータベースに登録されている変異情報などとの連携を進め、タンパク質の配列と立体構造をシームレスにつなぐポータルへと成長させていく予定です。
図2. 日本人の遺伝子変異とタンパク質の配列・構造をつなぐ新しいポータルサイト(例 UniProt ID: P20813) jMorpに収録されている変異箇所を立体構造上で簡単に確認できる配列パネルと立体構造パネル、新しい品質スコアに基づいた構造のランキングを示すパネルなどで構成されている。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本ポータルサイトは、タンパク質立体構造情報と遺伝子変異情報の医学・創薬への利用を促進すると考えられます。遺伝子変異がタンパク質の立体構造、機能に与える影響の理解と予測を助け、疾患メカニズムの解明に役立つことで、新たな治療標的の発見や治療方法の開発を促し、プレシジョンメディシンの進展につながると考えられます。
特記事項
PDBj関連事業は、科学技術振興機構(JST)情報基盤事業部NBDC事業推進室の統合化推進プログラムと、医療研究開発機構(AMED)の生命科学・創薬先端支援基盤事業(BINDS)(JP24ama121001)からの競争的研究資金を受けて進められており、文部科学省の共同利用・共同研究拠点活動経費による⼀部支援を受けています。
jMorpは、AMEDゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラム(東北メディカル・メガバンク計画)事業「東北メディカル・メガバンク計画(東北大学)(JP21tm0124005)」および「大規模ゲノム解析に必要な計算基盤構築とゲノム解析に関する研究(JP21tm0424601)」の助成を受けて、研究開発が実施されています。
参考URL
SDGsの目標
用語説明
- 日本蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank Japan :PDBj 代表 栗栖源嗣教授)
日本蛋白質構造データバンク(PDBj: Protein Data Bank Japan)は、2000年に大阪大学蛋白質研究所に共同利用・共同研究拠点活動を担う組織として設置されました。20年にわたりアジア・中東地区からのタンパク質や核酸の立体構造情報を収集・編集・登録し、米国RCSB、BMRBおよび欧州 PDBeと協力して、国際的に統一化された一つの蛋白質構造データベース(PDB)として全データを大阪大学から世界に発信しています。
- 東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo 機構長 山本雅之教授)
https://www.megabank.tohoku.ac.jp/
東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指し2012年に設立された組織で、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構とともに、東北メディカル・メガバンク計画を推進しています。東北メディカル・メガバンク計画は、2013年より合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンクを整備しています。さらにバイオバンクの試料・情報を産学問わず利活用できるよう、仕組みの整備、データベースの構築などを行っています。本計画については、2015年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援担当機関の役割を果たしています。
- 日本人多層オミックス参照パネル(jMorp:Japanese Multi Omics Reference Panel 代表 木下賢吾教授)
https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/
日本人多層オミックス参照パネル(Japanese Multi Omics Reference Panel:jMorp)は、東北 大学 東北メディカル・メガバンク機構 (ToMMo) が、 東北メディカル・メガバンク計画におけるコホート調査にご参加いただいた方のゲノム・オミックスデータを解析し、その統計データを公開しているウェブサイトです。jMorp は、2015年7月にメタボローム・プロテオームデータの解析結果を公開するデータベースとして誕生し、その後、毎年アップデートを行い、ゲノム・トランスクリプトーム・メタゲノムなどのデータを追加し、現在に至ります。
- 蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank : PDB)
蛋白質構造データバンク(Protein Data Bank:PDB)は実験的に決定した生体高分子の3次元構造を保存する世界で唯一のデータベースです。1971年に米国で7つのエントリーからスタートしました。90 年代後半になり、登録件数が全世界的に増加したことに伴って、日本には日本蛋白質構造データバンク(PDBj)が、欧州にはProtein Data Bank in Europe(PDBe)が設置されて、国際連携でPDB を維持・管理するようになりました。現在の総登録件数は22 万件以上で、毎週250 件程度の新規構造が追加されています。
2024年のノーベル化学賞「タンパク質デザインと構造予測」においては、タンパク質の構造情報を収集し関連情報を付加して無償で提供してきたPDBの貢献があったことを、受賞者のジョン・ジャンパー博士がコメントされています。
- 国際蛋白質構造データバンク(worldwide Protein Data Bank : wwPDB)
大阪大学蛋白質研究所に加えて、米国ラトガース大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校の共同研究チーム(RCSB PDB)とNMRの実験データを収録するコネチカット大学、欧州はイギリスにある欧州生物情報科学研究所(EMBL-EBI)がメンバーとなって共同でPDB データの登録・維持・管理を行う国際プロジェクトです。2003年に正式な協定が結ばれて設立されました。日本蛋白質構造データバンク(PDBj)はwwPDBの設立メンバーであり、アジア・中東地区からのデータ処理・登録に責任を負っています。
- UniProt
UniProt(The Universal Protein Resource)は、タンパク質配列と機能情報について、包括的で高品質かつ自由にアクセス可能なリソースとして科学コミュニティに提供することを目的として、欧州生物情報科学研究所(EMBL-EBI)、スイス生物情報学研究所(SIB)、Protein Information Resource(PIR)の共同研究により維持されているタンパク質配列とアノテーションデータの包括的なデータベースです。