COVID-19感染後やmRNAワクチン接種後に 免疫応答する新たなB細胞を発見

COVID-19感染後やmRNAワクチン接種後に 免疫応答する新たなB細胞を発見

新しいワクチン開発への寄与に期待

2024-9-18生命科学・医学系
感染症総合教育研究拠点准教授James Wing

研究成果のポイント

  • COVID-19 mRNAワクチン接種後、およびCOVID-19感染後のヒトの血液中で免疫応答しているのは、「活性化非定型的B細胞」という新しいタイプのB細胞であることを解明
  • 抗体を産生するB細胞は、主に“古典的メモリー”と“非定型的メモリー”の二つに分類される。COVID-19 mRNAワクチン接種直後やCOVID-19感染直後には、ヒトの血液中に多数の活性化B細胞が出現するが、それらが古典的由来か、非定型的由来かは不明だった
  • 本手法により、ワクチン反応のより正確なバイオマーカーの同定や、これらの細胞を特異的に標的とする新しいワクチンの開発に寄与することが期待される

概要

大阪大学感染症総合教育研究拠点のJames Wing准教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)、大阪大学免疫学フロンティア研究センターのDavid Priest特任研究員(常勤)らの研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種者および感染者における免疫応答を評価するため、マスサイトメトリーを駆使して、活性化B細胞を分類する新たな手法を開発しました。開発した手法を用いて、免疫細胞を一細胞レベルで高次元に解析した結果、COVID-19 mRNAワクチン接種後および感染後ともに、主に活性化非定型的B細胞という新しいタイプのB細胞が免疫応答することを発見しました。

ヒト血液中のB細胞集団を同定するために改良された本手法を用いることで、ワクチン反応のより正確なバイオマーカーの同定や、これらの細胞を特異的に標的とする新しいワクチンの開発に寄与することが期待されます。

本研究成果は、2024年8月9日(金)に英国学術誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

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図. 研究要点の説明
A)
COVID-19 mRNAワクチン接種者およびCOVID-19感染者の血液中のB細胞を詳細に調べるために、高度な一細胞解析を実施しました。 
B)
いくつかの新しいタイプのB細胞を発見し、それらを古典的グループと非古典的(非定型的)グループに分けました。 
C)
健常者においては、B細胞記憶の最も一般的な形態は古典的タイプでした。
D)
COVID-19 mRNAワクチン接種後および感染後の血中SARS-CoV-2特異的B細胞の最も一般的な形態はともに活性化した非定型的B細胞でした。

研究の背景

SARS-CoV-2の感染やワクチン接種により、B細胞から抗体が産生されます。この抗体産生は、COVID-19から身を守るための重要な免疫応答の一つです。ヒトのメモリーB細胞は、主に古典的と非定型的の2つのグループがあることは分かっています。任意のB細胞が古典的、非典型的のどちら由来なのかを解明することは、発生源を特定し、将来のワクチンのターゲットをより明確にするのに有効です。しかし、一度刺激されて活性化したB細胞になると、両者を区別することは困難でした。そのため、ワクチン接種後にヒトで見られる活性化B細胞が、古典的由来なのか、非定型的由来なのかはわかっていませんでした。

研究の内容

研究グループは、150種類の免疫マーカーの解析を組み込んだ新しいマスサイトメトリー法を用いて、従来不可能であった免疫細胞の単一細胞解析をより詳細に行い、COVID-19 mRNAワクチン接種後および感染後の免疫細胞の状態を詳細に調べることに成功しました。その結果、活性化B細胞をいくつかのグループに分類することができ、その中に活性化した非定型的B細胞を見出すことができました。これらのB細胞はこれまでに未発見のタイプで、ヒト血液中のSARS-CoV-2特異的B細胞の大部分を占め、抗SARS-CoV-2血清抗体レベルと相関していました。さらに、非定型的B細胞応答を増強することで知られるCD4ヘルパーT細胞が、古典的B細胞応答を増強することで知られる濾胞性ヘルパーT細胞よりも強く増殖していることが明らかとなりました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、SARS-CoV-2に対する抗体産生において、非定型的B細胞とCD4ヘルパーT細胞が COVID-19ワクチン接種および感染の両方において大きな役割を果たしていることを示しています。ヒト血液中のB細胞集団を同定するために改良された本手法を用いることで、ワクチン反応のより正確なバイオマーカーの同定や、これらの細胞を特異的に標的とする新しいワクチンの開発に寄与することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2024年8月9日(金)に英国学術誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Atypical and non-classical CD45RBlo memory B-cells are the majority of circulating SARS-CoV-2 specific B-cells following mRNA vaccination or COVID-19.”
著者名:David G. Priest, Takeshi Ebihara, Janyerkye Tulyeu, Jonas N. Søndergaard, Shuhei Sakakibara, Fuminori Sugihara, Shunichiro Nakao, Yuki Togami, Jumpei Yoshimura, Hiroshi Ito, Shinya Onishi, Arisa Muratsu, Yumi Mitsuyama, Hiroshi Ogura, Jun Oda, Daisuke Okusaki, Hisatake Matsumoto, James B. Wing.
DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-024-50997-4

参考URL

SDGsの目標

  • 03 すべての人に健康と福祉を

用語説明

活性化非定型的B細胞

新たに発見された活性化B細胞の一種で、非定型メモリー細胞に由来する。

古典的メモリー

ヒトの血液中に存在する最も一般的なメモリーB細胞の一種

非定型的メモリー

感染に素早く反応するB細胞の一種

活性化B細胞

ワクチン接種後の血液中に認められる活性化されたB細胞。その起源はよくわかっていない。

マスサイトメトリー

一細胞のタンパク質マーカーを複数同時に測定できる質量分析技術。