誕生、国産生体分子シークエンサー
がん治療の遺伝子検査など、先進医療の持続的な提供に期待
研究成果のポイント
概要
大阪大学産業科学研究所の谷口正輝教授、大城敬人准教授らと、H.U.グループ中央研究所の共同グループは、我が国待望の国産生体分子シークエンサーのプロトタイプ機を開発しました。
生体分子シークエンサーとは、遺伝情報を解読するための装置です。遺伝子に基づくがんの診断や治療に必須の先端機器で、人が個別に持つゲノム(DNA)情報を読むだけでなく、日々変わるゲノムの発現情報(RNAやペプチド)を読むことも可能です。こうした生体分子情報は、がんや難病における個別化医療の研究・創薬、微生物を利用したバイオものづくり等の工業分野、遺伝子組み換え技術を利用した品種改良等の農業分野に必要不可欠な情報です。世界の遺伝子検査市場は急成長しているにも関わらず、これまで国産の生体分子シークエンサーは開発実現に至っておらず、海外メーカー製品の寡占状態にありました。
生体分子シークエンサーの原理検証は、16年以上かけて大阪大学の研究チームにより行われてきましたが、計測チップと計測装置の開発が実用化の大きなハードルとなっていました。今回、国内最大手の受託検査会社をグループに持つH.U.グループ中央研究所との共同研究開発により、生体分子シークエンサーのプロトタイプ機の開発に成功しました。今後はさらに研究開発を加速させ、数年後の受託検査事業への展開を目指します。
本研究成果は、パシフィコ横浜で開催される展示会 『BioJapan 2024』 で、10月9日(水)~11日(金)の3日間、公開されます。
図. 生体分子シークエンサーのプロトタイプ
研究の背景
生体分子シークエンサーとは、遺伝情報を解読するための装置で、遺伝子に基づくがんの診断や治療に必須の先端機器です。
これまで、大阪大学の研究チームは、生体分子シークエンサーを用いて、DNA・RNAの塩基配列やペプチドのアミノ酸配列を決定できることを実証してきました。生体分子シークエンサーは、がんマーカーになるDNA・RNA・ペプチドの化学修飾を直接検出できるなど、他のシークエンサーにはない優位な機能を持っています。
このように、先端医療に欠かせない生体分子シークエンサーですが、国内の生体分子シークエンサーは全て海外メーカー製品に依存しているのが現状です。国内の新規がん罹患者が年間100万人となる中で、保険適用である遺伝子検査の実施も増加しており、我が国の保険行政を圧迫するとともに、多額の国費が海外に流出しています。この先も生体分子シークエンサーを海外に依存し続けた場合、これら国費の圧迫により国民が先進医療を享受できなくなる可能性があります。これは国家レベルの課題です。生体分子シークエンサーの原理検証は、16年以上かけて大阪大学の研究チームにより行われてきましたが、計測チップと計測装置の開発が実用化の大きなハードルとなっていました。
研究の内容
大阪大学の研究チームとH.U.グループ中央研究所の共同研究開発グループは、計測チップと計測装置の材料、作製プロセス、および機能の全てを実用化の観点から見直し、評価しました。得られた評価に基づいた新設計を行い、ソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ株式会社の強力な支援を受け、生体分子シークエンサーのプロトタイプ機の開発に成功しました。
今後はさらに、生体分子シークエンサーに最適化されたAIを開発することで、遺伝子に基づく高速・高精度な診断法を開発していきます。また、世界競争となっている「ペプチドシークエンサー」を開発し、ペプチド創薬における強力なツールの実現を目指します。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
プロトタイプ機開発の成功により、初の国産生体分子シークエンサーの誕生が期待されます。国産シークエンサーは、多額の国費流出による医療行政の圧迫を抑制し、先進医療の持続的な提供を可能にします。遺伝情報を速く、大量に生み出す生体分子シークエンサーは、医療やAIの分野だけなく、生体分子が関わるあらゆる分野においてもイノベーションを生み出す原点になると期待されます。また、国際競争の激しいバイオ領域において、先端研究開発の推進、感染症の流行やバイオテロといったバイオセキュリティリスクに対して、国内で迅速に対応するための生体分子情報の解析等を加速することが期待される、大きな成果と言えます。
特記事項
本研究成果は、パシフィコ横浜で開催される展示会 『BioJapan 2024』 で、10月9日(水)~10月11日(金)の3日間公開されます。
URL:https://jcd-expo.jp/ja/
なお、本研究は、JST経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program、JPMJKP23H3)とAMED革新的がん医療実用化研究事業(23ck0106872s0202)の一環として行われました。
また、本研究については現在特許出願手続き中です。