IL-6受容体シグナルの短期阻害でサイトカイン放出症候群を防ぐ

IL-6受容体シグナルの短期阻害でサイトカイン放出症候群を防ぐ

感染症や火傷の重症化予防に期待

2024-1-11生命科学・医学系
免疫学フロンティア研究センター特任教授岸本忠三

研究成果のポイント

概要

IL-6 は、血管の恒常性と炎症を制御する因子であり、サイトカイン放出症候群 (CRS) の重要な指標になっています。IL-6 受容体 (IL-6R) のシグナル伝達を阻害することが CRSの治療に有効であることは示唆されていますが、そのメカニズムの理解が未だ不十分です。また、抗IL-6受容体抗体は自己免疫疾患や重症COVID-19治療に用いられているが、長期間IL-6シグナルを抑制すると感染増悪を誘導し、適量のIL-6が必要とされます。

Sujin Kang 寄附研究部門准教授、岸本忠三特任教授(いずれも免疫学フロンティア研究センター免疫機能統御学)らの研究グループは、血管内皮細胞において低酸素誘導因子 (HIF-1α) の働きがIL-6Rを介するシグナル伝達によって活性化され、解糖系を介し血管炎症反応と血管透過性を促進することを発見しました。

IL-6R-HIF1αのシグナル伝達を短期阻害すると、血管の炎症応答及び内皮細胞病面の糖衣脱落を抑制することで血管損傷が防止されました。同時に、感染防御に必要な生体内のIL-6濃度を調節することで2次感染を防ぐことができました。

血管内皮IL-6R-HIF1αシグナル伝達はCRSの病態進行において重要な役割を果たしており、短半減期抗IL-6R抗体による感染症の新たな治療戦略が期待されます。

この成果は、米国科学アカデミー紀要 The Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) のオンライン版に2024年1月2日に掲載されました。

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図. 感染症、敗血症、火傷等の CRS患者に「短半減期のIL-6受容体抗体」を投与することで、血管の障害や二次感染を予防する。短半減期であることで副作用を抑えることも期待される。

特記事項

【論文情報】
掲載誌:The Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS) 1月2日オンライン掲載
タイトル:Gp130‒HIF1α axis-induced vascular damage is prevented by the 4 short-term inhibition of IL-6 receptor signaling.
著者:Sujin Kang*, Shinya Onishi, Zhenzhen Ling, Hitomi Inoue, Yingying Zhang, Hao Chang, Hui Zhao, Tong Wang, Daisuke Okuzaki, Hiroshi Matsuura, Hyota Takamatsu, Jun Oda, Tadamitsu Kishimoto*. (*corresponding)
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2315898120

用語説明

インターロイキン6 (IL-6)

サイトカインとは、さまざまな刺激によって免疫細胞から産生され、主に身体に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除するための役割を担う。その一つIL-6は免疫応答や炎症反応の調節において重要な役割を果たし、生体の恒常性の維持に重要な反面、長期にわたって過剰に産生し続けると、リウマチなどの炎症性自己免疫疾患の原因となる。

サイトカイン放出症候群 (CRS)

IL-6など炎症性サイトカインの過剰な放出によって引き起こされる症状。感染症や火傷などによっても引き起こされるが、抗体医薬の投与による副作用で免疫応答が必要以上に活性化され起きることもある。

低酸素誘導因子 (HIF)

HIF (Hypoxia Inducible Factor) は、細胞内が低酸素状態に陥った際に活性化される転写因子でHIF-1α と HIF-1β からなる。低酸素状態へ順応するため、糖分解酵素など各種タンパク質の転写を促進する。

内皮細胞

血管やリンパ管の内表面を構成する薄い細胞の層。循環する血液やリンパ液と接している。敗血症や火傷で内皮細胞が傷害を受けると血管から体液が漏出しサイトカインストームや2次感染に繋がる。