デスクワークの男性は蛋白尿のリスクが高い可能性が明らかに
大阪大学職員10,212人の定期健康診断データを用いた疫学研究
研究成果のポイント
・大阪大学職員の定期健康診断において、主な就業形態を「座位」と回答した男性は、そうでない男性と比較して、蛋白尿を発症するリスクが1.35倍上昇していた。
・座位時間は、メタボリック症候群、糖尿病、心血管系疾患、死亡のリスクに関連があるが、腎臓に及ぼす影響は明らかでなかった。
・デスクワークは腎臓病のリスクとなりうる。デスクワーク時間の短縮が、腎臓病の予防に繋がることが期待される。
概要
大阪大学キャンパライフ健康支援センターの山本陵平准教授および大学院医学系研究科の猪阪善隆教授らの研究グループにより、デスクワークの男性は蛋白尿のリスクとなる可能性が高いことが明らかになりました。
長時間の座位は、メタボリック症候群、糖尿病、心血管系疾患などの生活習慣病および死亡のリスクであることが報告されていますが、腎臓に及ぼす影響は不明でした。
山本准教授らの研究グループは、大阪大学職員10,212人の定期健康診断データを利用して、「主な就業形態」を「座位」と回答したデスクワークの男性3,449人は、それ以外の男性1,538人よりも、蛋白尿(尿蛋白≧1+)のリスクが1.35倍上昇していることを明らかにしました。蛋白尿は、腎臓病の主要な特徴の一つであり、また将来の腎機能の予測因子です。本研究の結果は、デスクワークが蛋白尿のリスクであることを示しており、デスクワーク時間の短縮が腎臓病の予防に繋がることが期待されます。
本研究成果は、イタリア科学誌「Journal of Nephrology」に、8月27日に公開されました。
図1 大阪大学の男性職員4,987人における蛋白尿の累積発症率(観察期間中央値4.8年)
研究の背景
近年増加の一途を辿る透析患者は2018年末時点で約34万人であり、透析医療費は全医療費の約4%(1兆6000億円)を占めます。透析患者数および透析医療費を減少させるためには、蛋白尿と腎機能の低下(糸球体濾過量の低下)で特徴づけられる慢性腎臓病の予防策を確立する必要があり、肥満・喫煙等の改善可能な生活習慣リスクを同定することが重要です。長時間の座位は、メタボリック症候群、糖尿病、心血管系疾患などの生活習慣病および死亡のリスクであることが知られていますが、腎臓に及ぼす影響はこれまで明らかではありませんでした。
研究の内容
山本准教授らの研究グループでは、2006〜2018年度の大阪大学職員の定期健康診断データを利用して、デスクワークが蛋白尿の発症に及ぼす影響を評価しました。初回健診受診時に主な就業形態を「座位」と回答したデスクワークの男性3,449人では、中央値4.8年の追跡期間において、452人(13.1%)が蛋白尿(尿蛋白≧1+)を発症しました。一方、「立位」、「歩行」、「物を運ぶ」あるいは「重労働」と回答した男性1,538人のうち145人(9.4%)が蛋白尿を発症しました。多変量解析の結果、「座位」の蛋白尿のリスクが、それ以外の就業形態の男性よりも1.35倍(95%信頼区間1.11–1.63)上昇していることが明らかになりました。なお、女性では座位と蛋白尿の関連は認められませんでした。
本研究で明らかにされたデスクワークと蛋白尿との関連性について、今後他の職種など対象を広げて調査し、さらに検証をしていく必要があります。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果により、デスクワークが腎臓病のリスクとなる可能性が高いことが明らかになりました。デスクワーク時間の短縮が、腎臓病を予防し、増加の一途を辿る透析患者数の抑制に繋がることが期待されます。
特記事項
本研究成果は、2020年8月27日にイタリア科学誌「Journal of Nephrology」(オンライン)に掲載されました。
タイトル Occupational sedentary behavior and prediction of proteinuria: a retrospectivecohort study
著者名 Yoshiyuki Fujii, Ryohei Yamamoto, Maki Shinzawa, Yoshiki Kimura, Katsunori Aoki,Ryohei Tomi, Shingo Ozaki, Ryuichi Yoshimura, Manabu Taneike, Kaori Nakanishi, Makoto Nishida, Keiko Yamauchi-Takihara, Takashi Kudo, Yoshitaka Isaka, and Toshiki Moriyama
研究者のコメント
本研究は、長時間労働者の割合が高いことで知られている我が国において、労働時間のみならず、デスクワークという就労形態が、健康障害のリスクとなる可能性が高いことを明らかにしました。デスクワークの合間に定期的に軽い運動を行い、長時間のデスクワークを避けることが、腎臓病の予防に繋がることが期待されます。近年スタンディングワークが注目されていますが、その有効性は未だ明らかではなく、今後さらなる研究の進展が待たれます。
参考URL
山本准教授HP
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/5483155cff49bf0a.html