自然科学系

2020年5月20日

本研究成果のポイント

・高強度パルスレーザー※1を用いた動的超高圧実験※2により、高速に大きく変形する際のダイヤモンドをリアルタイムに直接観察することで、その光学特性を世界で初めて明らかに。
・高速な変形下の透過率や屈折率※3は、静的変形下で知られていたものとは全く異なることが示された。
・合成ナノ多結晶※4など様々なタイプのダイヤモンドが、物質材料科学、地球惑星科学、極限科学※5、レーザー核融合※6などの分野で利用されており、これらの様々な分野に必要不可欠な基礎的知見を提供。

概要

大阪大学大学院工学研究科の大学院生の片桐健登さん(同研究科博士後期課程、文科省委託事業特任研究員)と尾崎典雅准教授らの研究グループは、大阪大学レーザー科学研究所の大型レーザー装置激光XII号を用いて、常温常圧下において透明なダイヤモンドを高速大変形させ、圧縮の増加に伴って光学的に不透明になっていく様子などをリアルタイムに直接観察しました。

ダイヤモンドはその硬さに代表されるように、優れた特性を有するユニークな物質です。天然のダイヤモンドは、地球深部や天体衝突時の超高温度・超高圧力の極限環境下で生成することが知られています。この極めて硬いダイヤモンドを圧縮し、物性を調べるためには、高強度パルスレーザーを用いた動的圧縮が唯一の手法となります。本研究チームは国内最大パルス出力の激光XII号レーザーを用いた実験により(図1a)、550万気圧までの極限環境におけるダイヤモンドの光学特性を測定することに初めて成功しました。

今回得られたデータから、ダイヤモンドは170万気圧を超える動的高圧力が付加され、体積が20%程度小さくなると、可視光に対して急激に不透明になることがわかりました(図1b)。また、圧力が高くなるほど屈折率が上昇していくことも明らかとなりました。このことは、高速の天体衝突やレーザー核融合などに関連する動的過程において、ダイヤモンドの光の吸収や反射の振る舞いが大きく変化することを意味しています。

本研究成果は2020年5月11日(日本時間)に、米国物理学会刊行の学術誌Physical Review Bでの掲載に先立ちオンライン公開されました。

図1 (a)高強度レーザーを用いた実験系の概念図。(b)本研究で明らかとなったダイヤモンド透過率の圧力依存性。

研究成果の背景

ダイヤモンドは極めて高い硬度のみならず、高い透過率や屈折率などユニークな光学的特性を有することが知られています。物質材料科学や地球惑星科学、レーザー核融合工学などの分野横断的科学の最先端において、ダイヤモンドが広く利用されていますが、必要不可欠な動的超高圧下の光学特性は十分に理解されていませんでした。

研究成果の内容

本研究グループは高強度パルスレーザーを用いた動的超高圧実験で、結晶状態のダイヤモンドを数ナノ秒※7の非常に短い時間に圧縮して光のドップラー効果※8を利用した独自の観測システムによって、圧縮状態を決定しながら透過率および屈折率の測定をリアルタイムで行うことに成功しました。その結果、ダイヤモンドはおよそ90万気圧の圧力域までは初期の透過率から変化がないこと、90万気圧から170万気圧の圧力域では有意な変化が現れはじめ、170万気圧を超える圧力域ではほぼ完全に不透明となることが明らかとなりました。また、透明な170万気圧までの圧力域では、これまでの静的圧縮下の結果に反して、圧力の上昇に伴ってダイヤモンドの屈折率が上昇することもわかりました。

本研究成果が与える影響

極限的な静的超高圧を生成するためのツールのひとつとして、ダイヤモンドアンビルセル※9がよく知られています。近年、このダイヤモンドアンビルセルと高強度パルスレーザー駆動の動的超高圧を組み合わせた実験が各国で進められています。本成果は、ダイヤモンドアンビル内部で起こる動的超高圧現象を直接観察する上で必要不可欠な基礎的物性を提供します。また、セラミックス材料あるいは高硬度材料のパルスレーザーによるプロセスや加工を正確に理解し、シミュレートするための貴重な知見とも言えます。

特記事項

本研究成果は2020年5月11日(日本時間)に、米国物理学会刊行の学術誌Physical Review Bでの掲載に先立ちオンライン公開されました。

題名:「Optical properties of shock-compressed diamond up to 550GPa」
邦訳:「衝撃圧力550GPaまでのダイヤモンドの光学特性」
著者:K. Katagiri, N. Ozaki, K. Miyanishi, N. Kamimura, Y. Umeda, T. Sano, T. Sekine, and R. Kodama

本研究は、大阪大学レーザー科学研究所との共同利用・共同研究のもとに実施されました。また、文部科学省の“光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)”「光量子科学によるものづくりCPS化拠点JPMXS0118067246」、日本学術振興会の科学研究費補助金の助成、および株式会社コンポン研究所の支援を受けて行われました。

用語解説

※1 高強度パルスレーザー
数十から数百J(ジュール)級のエネルギーを10-9秒のような極めて短い時間内に集中させたレーザー光です。本研究で用いた大阪大学レーザー科学研究所の激光XII号は世界有数の高強度パルスレーザー装置です。

※2 動的超高圧実験
物質が高速で変形するとき、物質内部に衝撃波(ショックウェーブ)が駆動され超高圧が発生します。この動的な超高圧を利用して物質を調べる研究手法のことです。

※3 屈折率
真空中の光速を物質中の光速で割った値のことであり、物質中での光の進み方を知る上で不可欠な物性値です。物質と波長によってその値は異なりますが、ダイヤモンドは可視光に対して高い屈折率を持つことで知られています。

※4 合成ナノ多結晶
大型の静的超高圧装置を用いて高温高圧下で人工的に合成された、10-9メートル(ナノメートル)サイズの小さな結晶が集まって構成された固体のことです。透過率の高い高密度のダイヤモンドナノ多結晶体は、日本で初めて合成されました。

※5 極限科学
超高圧、超高温、超低温、超強磁場などの極限的環境で物質や現象を調べる横断的科学分野のことをいいます。これら極限環境を生成するための技術開発研究も含まれます。

※6 レーザー核融合
高強度パルスレーザーの照射により核融合反応を起こす手法です。球状に整形された燃料ターゲット(燃料球)に非常に強いレーザー光を当てると、燃料球自身が内側に向かって爆発的に潰れます(爆縮)。最終的に到達した燃料物質の密度と温度が核融合条件を超えると、原子核が融合する核融合反応が起こります。

※7 ナノ秒
1ナノ秒は10億分の1秒(10-9秒)に相当します。典型的な高強度パルスレーザーのパルス幅は数ナノ秒であるため、レーザー照射により生成する超高圧力は、数ナノ秒の短い時間保持されることになります。

※8 光のドップラー効果
光の発生源と観測者との間の相対的な速度によって、光の周波数が異なって観測される現象のことをいいます。

※9 ダイヤモンドアンビルセル
小さい面積に封入された試料を、研磨された向かい合うダイヤモンドで圧縮する静的超高圧発生のツールのことです。

参考URL

大阪大学大学院工学研究科 電気電子情報工学専攻 電気電子システム工学部門 先進電磁エネルギー工学講座 高エネルギー密度工学領域 兒玉HP
http://www.eie.eng.osaka-u.ac.jp/ef/index.html

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