2018年11月7日

研究成果のポイント

・室温から100℃付近までの低温域で、既存材料よりも高い熱電変換出力因子※1を示す新物質:イッテルビウムシリコンゲルマニウム(YbSiGe)を発見
・既存材料で高い熱電特性を示す物質には、毒性・希少性・資源偏在の問題があった
・YbSiGeは無毒で資源豊富なシリコンがベース。排熱を利用した微小環境発電(エナジー・ハーベスティング)※2や自動車の燃費向上への応用に期待

概要

大阪大学大学院工学研究科の黒崎健准教授のグループは、株式会社日立製作所と共同で、室温から100℃付近までの低温域で既存材料よりも高い熱電変換出力因子を示す新物質:YbSiGeを発見しました(図1)。昨年、大阪大学と株式会社日立製作所は、共同で、室温付近で高い熱電変換出力因子を示す物質としてイッテルビウムシリサイド:YbSi2を開発しました。今回、YbSi2のシリコン(Si)をゲルマニウム(Ge)で置換することで性能向上を図ったところ、Siの半分をGeで置換したYbSiGeにおいて熱電変換出力因子の大幅な向上に成功しました。これにより、薄く広く大量に存在する低品位な熱エネルギーを高品位な電気エネルギーに変換して有効活用する熱電発電技術の実用化が期待できます。

本研究成果は、2018年11月5日付で米国物理学協会(American Institute of Physics)が発行するAppliedPhysics Letters 誌にオンライン出版されました。

図1 c軸方向から描像したYbSiGeの結晶構造。
黄色(大)がYb原子、青(小)がSiまたはGe原子を示す。左がSiとGeの原子が規則的に配列している場合、右が配列していない場合。Si/Ge比に応じて、規則的に配列するか否かが決まる。YbSiGeは右側の配列となる。

研究の背景と成果

シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、イッテルビウム(Yb)から構成される化合物:YbSiGeが、固体中のYbの価数変動※3に起因して、金属的に高い電気伝導率(σ)を示しながらも絶対値で55μVK-1以上という高い熱起電力(ゼーベック係数:S)※4を示すことを発見しました。(YbSiGe程度の電気伝導率を示す材料(いわゆる一般的な金属材料)であれば、そのゼーベック係数の絶対値は通常10μVK-1程度となります。)これまで、300℃付近から高い温度域においては、多くの新しい熱電変換材料が開発されてきています。ところが、室温から100℃付近という低温域においては、既存材料であるビスマス・テルライド(Bi2Te3※5を超える材料は見つかっていませんでした。今回発見されたYbSiGeは、熱電発電における発電量や出力を決定する熱電変換出力因子(S2σ)という指標において、室温から100℃付近までの低温域で、Bi2Te3を超える性能を示しました(図2表1)

図2 YbSiGeの熱電特性の温度依存性、(a)ゼーベック係数、(b)電気伝導率、(c)出力因子。

表1 YbSiGeとBi2Te3(ともにn型)の室温における熱電特性の比較

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

熱電発電技術は、小型・軽量、高信頼性、メンテナンスフリーといった特徴から、これまでは主に惑星探査機に搭載される原子力電池※6の電源として利用されてきました。今回、無毒で資源量も豊富なシリコンをベースとする材料で、室温付近において、熱電変換出力因子の大幅な向上が達成されました。このことは、様々な場所で多量に捨てられている低品位な熱エネルギーを回収し高品位な電気エネルギーとして再利用する技術(いわゆる、熱電発電技術)の実用化を加速させるものです。具体的には、微小環境発電(エナジー・ハーベスティング)や、自動車の燃費向上のための排熱回生システム※7等への応用が考えられます。

特記事項

本研究成果は、2018年11月5日付で米国物理学協会(American Institute of Physics)が発行するAppliedPhysics Letters 誌にオンライン出版されました。

掲載論文:High Thermoelectric Power Factor of Ytterbium Silicon-Germanium
著者:Sora-at Tanusilp, Akinori Nishide, Yuji Ohishi, Hiroaki Muta, Jun Hayakawa, and Ken Kurosaki
DOI:10.1063/1.5047091

補足説明

※1 熱電変換出力因子
熱電変換材料では、固体のゼーベック効果を利用して温度差から直接電力を生み出します。このときの発電性能(発電量や出力)を決定するのが、熱電材料の出力因子と呼ばれるパラメータです。出力因子は、材料のゼーベック係数Sと電気伝導率σを使って、S2σとして表されます。なお、この出力因子を材料の熱伝導率κで割ってそのときの絶対温度Tをかけると熱電材料の性能指数ZTが得られます。

※2 微小環境発電(エナジー・ハーベスティング)
高度情報化社会において重要な役割を担う膨大な数のセンサーや端末に対して、マイクロワットやミリワットといった微小な電力を安定に供給しうる自立型微小環境発電技術の創出が望まれています。熱電発電は、これに応えることができる数少ない現実的な選択肢の一つと考えられています。

※3 YbSiGe中でのYbの価数変動
YbSiGe中のYbはYb2+とYb3+の二つの価数をとっていると考えられています。この価数変動に起因して、フェルミ準位付近の電子の状態密度が変化し、結果、ゼーベック係数が高くなっていることが推察されています。

※4 高い熱起電力(ゼーベック係数:S)<電気伝導率とゼーベック係数のトレードオフの関係>
一般的に、電気伝導率が高ければゼーベック係数は低くなり、逆に、電気伝導率が低ければゼーベック係数は高くなるというトレードオフの関係が存在します。それゆえ、長年、熱電材料の出力因子S2σを大幅に向上させることは困難であるとされていました。ところが、我々が発見したYbSiGeでは、固体中のYbの価数変動に起因して、金属的に高い電気伝導率を有しながらも絶対値で55μVK-1以上という高いゼーベック係数が発現し、結果、巨大出力因子が発現しました。

※5 ビスマス・テルライド(Bi2Te3)<既存熱電材料の問題点>
既存熱電材料のうち、室温付近で最も高い性能を示すものはビスマス・テルライド(Bi2Te3)ですが、構成元素であるテルル(Te)の毒性と希少性やビスマス(Bi)の資源偏在性が問題となっています(右表)。熱電発電技術の広範な産業化のためには、無毒で資源量が豊富な元素(例えば、シリコン)から構成される高効率熱電変換材料の開発が望まれています。

※6 原子力電池<熱電発電の応用(現状)>
惑星探査機においては、Pu-238(プルトニウム238)のα崩壊(半減期87.7年)で生じる崩壊熱を熱電発電技術によって直接電気エネルギーに変換して利用しています。現状、熱電発電効率は低いものの、数十年間安定して電力を供給できるため、惑星探査機や僻地における電源として活用されています。

※7 排熱回生システム<熱電発電の応用(将来展望)>
平均すると、全一次エネルギーの約三分の二が熱として捨てられています。特に自動車においては、総投入エネルギーの約七割が未利用熱エネルギーとなっています。このため、自動車からの排熱を回収し電気エネルギーとして再利用できる熱電発電が、近年注目を集めています。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 環境エネルギー材料工学領域
http://www.see.eng.osaka-u.ac.jp/seems/seems/members/

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