モンゴル高原に14本の大型突厥碑文に囲まれた方形列石タイプのユニークな古代トルコ王侯遺跡が出現!

モンゴル高原に14本の大型突厥碑文に囲まれた方形列石タイプのユニークな古代トルコ王侯遺跡が出現!

2017-12-8人文学系

概要

大阪大学大学院言語文化研究科の大澤孝(おおさわたかし)教授とモンゴル国科学アカデミー歴史・考古学研究所との合同調査隊は、2015~2017年の3年間にわたる共同発掘調査で、モンゴル東部のドンゴイン・シレー(現地語でシレーは’机‘を意味し、ここでは’高原状の草原’の意味)と呼ばれる広大な高原から、モンゴル高原及び中央ユーラシア地域を通じても唯一の、大型の突厥碑文14本から囲まれた方形列石タイプの極めてユニークな碑文遺跡を発掘しました (図1) 。

今回の発掘の結果、本遺跡の地中からは、復元すると全長4~6mほどの花崗岩からなる大型の突厥文字碑文が14本も出土しました (図2) 。そのうちの2つの碑文表面からは、新種の契丹文字を用いた墨書碑文1点と刻文1点も新たに発見されました。これらの碑文は、これまでの突厥碑文の中でも最大級のものです。遺跡からは、放射性炭素分析から西暦8世紀代に遡る供物用の羊、馬、牛などの骨の他、突厥やウイグル期に特徴的なスタンプを持つ土器の破片、年代は不明ながらも鉄製品の一部や車軸断片が見つかっています。

これら碑文には本遺跡の被葬者たる突厥王侯に関わる雄ヤギ型のタムガ(部族標識)を含め、被葬者を支えた各氏・部族のタムガ17種で、47点を数えます。そして本遺跡の1番の特徴は、本遺跡の中央に配置された被葬者を埋葬・追悼した石槨を14本の碑文が取り巻くという配置構造にあります。ただし、そのうちの2本はなお原位置が不明です。その意味で本遺跡は、モンゴリアのみならず、中央ユーラシアにおいても極めて稀な特色をもっており、古代突厥帝国時代の東部モンゴリアにおける突厥王侯の支配構造や活動範囲を知る上で極めて貴重な歴史文化遺跡といえます。

本碑文遺跡は、これまで不明であった突厥帝国の東方支配者の支配構造や勢力範囲、その東方に位置した契丹(きったん)、契(けい)、そしてタタルなどのモンゴル系諸勢力や本遺跡から南に隣接する当時の唐帝国と突厥との政治・文化的関係についても貴重なデータを提供するものと期待されます。

図1 今回発掘された古代トルコ碑文遺跡を上空からドローン撮影したもの。上が北側、中央の穴から掘り出された碑文断片や石槨断片が見える(2016年9月)。

図2 モンゴル国家歴史博物館の元館長による復元イメージと祭祀風景(2016年9月段階)

研究の背景

本調査は、1991年のソ連崩壊後におけるモンゴル国での国際学術共同研究として、大澤教授が1996年以降、研究分担者および研究代表者として継続して行ってきたモンゴル高原における古代トルコ語碑文・遺跡の共同調査研究の一つとして位置づけることができます。これまで関係識者の間では、本遺跡が調査される2013年5月までは、突厥王族の碑文・遺跡はモンゴル国の首都ウランバートル周辺から西方の草原にしかないものと認識されていました (図3) 。大澤教授は2014年にモンゴル国科学アカデミー歴史・考古学研究所と学術協定を締結し、2015~2017年の3年間、同歴史・考古学研究所考古学センターとの国際プロジェクトとして発掘調査を実施しました。その結果、今回、未知の碑文を新たに12点発見すると共に、碑文内容と碑文の配置構造から今まで不明であったモンゴル東部における王権の構造を解明する手がかりを得ることに成功しました。

図3 モンゴル高原における従来の突厥・ウイグルのトルコ文字碑文・遺跡分布図

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本遺跡から出土した碑文はこれまでモンゴル国で発見された突厥碑文の中でも、最大級のものです。また今回の解読によって本碑文の主人公が当時の突厥君主たるカガンに次ぐ副王の「ヤブグ」職に就任し、その後‘東方の王侯’を意味する「テリス・シャド」の称号を持っていたことが明らかになりました。このことは本碑文遺跡の立つドンゴイン・シレーの草原こそが、これまで漢文資料や西方のトルコ語テキストからはその場所が不明であった突厥東方の一大拠点にほかならぬことを明示しています。また本遺跡の複数の碑文では、モンゴル東方域にいたトグズ・タタル(漢文では‘九姓室韋’に比定される、モンゴル系部族連合名)への攻撃が繰り返し刻まれていますが、このことも本主人公が東方防衛の任にあったことを伝えています。

このように本碑文遺跡は、これまで不明であった突厥帝国の東方支配者の勢力構造や支配領域、隣接する契丹、契やタタルといったモンゴル系諸部族との政治・軍事的関係を伝えるのみならず、高原に聳える複数の石柱配置からは古代遊牧民の信仰観や世界観を考察する上でも貴重なデータを提供すると期待されます。

特記事項

大澤教授は、2016年9月26、27日にモンゴル国の首都ウランバートル市で開催された国際シンポジウム「東部モンゴルの古代テュルクの碑文・遺跡に関する歴史・考古学的調査研究と遺跡の修復・保存」において、本碑文の解読成果の一端について報告を行いました。その際にはモンゴル国の国営テレビ局をはじめとする各種テレビや複数の新聞で、全国的に関連報道がなされました。既に本遺跡の重要性は、モンゴル国をはじめとする各国の専門研究者からも認識されており、遺跡の保存面でも現地のモンゴル牧民からも大いに注目されています。

参考URL

関連ウエブサイト(但しモンゴル語)
2013年5月当時の発掘以前の遺跡・遺物の様子は以下のWEBサイトからもご覧いただけます。
http://bataar.mn/10005695