次世代パワー半導体の3D配線が低コストで可能な技術を開発

次世代パワー半導体の3D配線が低コストで可能な技術を開発

2017-1-18

本研究成果のポイント

・銀が200℃で低温焼結する焼結メカニズムをついに解明し、次世代パワー半導体の高性能3D配線になることを証明
・銀粒子を用いた銀焼結接合技術 は、ワイドバンドギャップ・パワー半導体 には必須のダイアタッチ技術で、世界が実用化を開始
・低コストと高性能を同時に実現し、SiCパワー半導体の実用に拍車を掛け、世界の省エネルギーに貢献

概要

大阪大学産業科学研究所の菅沼克昭教授らの研究グループは、独自開発の銀粒子焼結により、次世代パワーエレクトロニクスの高性能3S配線を低コストに実現する技術を開発しました。

銀粒子焼結技術は菅沼研究室が開発した技術ですが、200℃程度の低温(他の金属粒子は融点の9割程度で焼結する、銀の融点は962℃)で銀粒子焼結が形成されるメカニズムはこれまで不明でした。

今回、本研究グループは、基板に実装されたSiCダイの表面に、凹凸に応じた3D配線を安価な印刷により形成し、250℃の低温で大気中無加圧で焼成することで5×10 -6 Ω・cmの低抵抗を実現しました (図1) 。

これにより、従来のワイヤボンド のようにSiCダイに負荷を掛けることなく低抵抗配線が形成でき、さらに低ノイズ化が安価に実現し、次世代ワイドバンドギャップ・パワー半導体の実用化に拍車が掛かると期待されます。

図1 銀粒子焼結により形成した3D配線(上)とリボンボンド (下)

研究の背景

これまで、菅沼研究室が提案した銀焼粒子結技術は、低温で優れた接合を実現することが知られ、次世代パワー半導体のダイアタッチ材料として既に欧州では実用化が始まるなど、世界で開発が進んでいました。

今回、銀粒子が低温で焼結になるメカニズムが『ナノ噴火現象』であることを解明し、200℃程度で大気中の酸素と反応しながらAg-O液体噴火することで金属焼結が進むことを示しました。

これは、銀のみで生じる現象で、金や銅などの他の金属では不可能です。銀は、金属の中で最も電気伝導と熱伝導が良く、ダイアタッチや配線材料として最適です。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、次世代パワー半導体のSiCやGaNの高性能ダイアタッチが可能になるだけでなく、低温で無負荷、しかも、低ノイズの3D配線を実現します。

これによって、SiCやGaNパワー半導体の本来の性能である低損失大パワー変換が実現し、さらに、電力変換器の超小型化が可能になり、将来的には世界の省エネルギー化、CO 2 ガス削減へ大きく貢献することが期待されます。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)委託によるSIP 「次世代パワーエレクトロニクス/SiCに関する拠点型共通基盤技術開発『SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発』」研究の一環で、産業総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センター(奥村元センター長)との共同開発として行われました。

研究者のコメント

SIPの開発に至る大前提として、文科省科研費基盤(S)の成果で、大気中、低温における銀焼結の基本メカニズムの解明が為され、ようやくそのメカニズムに基づいた技術応用が可能になってきている。

10年以上の年月をかけて理解できたことは、無機金属の古典的な焼結現象に新たな1ページをもたらしているが、運良くSIPに提案でき早くも省エネルギー化を実現する基本的技術へ展開できたことは、グッドタイミングであったと思う。

参考URL

産業科学研究所 先端実装材料研究分野 菅沼研究室
http://www.eco.sanken.osaka-u.ac.jp/

用語説明

銀焼結接合技術

焼結接合技術は、菅沼教授が1983年に開発した粉末を接合層とする異種材料接合技術。2005年ごろに、銀粒子を用いた、大気中、無加圧、250℃の接合技術としてパワー半導体実装技術として提案した。

ワイドバンドギャップ・パワー半導体

Siのパワー半導体は、省エネルギーを実現する電力変換技術として市場拡大しているが、動作温度に限界があり、175℃以上では短寿命でロスが大きい。バンドギャップがSiより広いSiC(炭化ケイ素)やGaN(ガリウムナイトライド)が、耐圧の高さや伝導率の向上により高温動作、高周波動作を実現し、電力ロスの低減、機器の小型化を実現する。

ワイヤボンド

半導体の配線技術として、金属線を用いるワイヤボンド、金属リボンを用いるリボンボンドがある。パワー半導体には、アルミニウムのワイヤやリボンが用いられる。

SIP

内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program)の略称。2014年に11課題がスタートし、「次世代パワーエレクトロニクス」には、4項目が設けられ、阪大産研は項目(I)「SiC に関する拠点型共通基盤技術開発」の実装技術で産総研筑波、中部センターと共に拠点を形成している。