重症の先天性肺嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)児に対し 胎児治療と出生後人工心肺(ECMO)下に病変肺切除を施行

重症の先天性肺嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)児に対し 胎児治療と出生後人工心肺(ECMO)下に病変肺切除を施行

胎児診断治療センターを中心に集学的治療で後遺症を残さず元気に退院

2016-6-7

本研究成果(治療)のポイント

・重症の先天性肺形成異常の胎児(胎児先天性肺嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)) に、出生前治療として嚢胞羊水腔シャント 、母体ステロイド治療を行い、出生後治療として人工心肺下で肺切除を行い、後遺症を残さず元気に退院させることに成功
・本治療法が同様の疾患をもつ胎児や家族へ新たな選択の一つになる可能性

リリース概要

大阪大学医学部附属病院胎児診断治療センター(センター長:奥山宏臣教授)のグループは胎児期にCCAM(congenital cystic adenomatoid malformation、先天性肺嚢胞性腺腫様奇形)と診断され病変が大きく(CVR =3.74)胎児水腫 も合併し、胎児死亡も危惧される状態であった胎児に胎児治療を行いました。胎児治療はまず嚢胞穿刺を行い、その後に在胎23週時に嚢胞羊水腔シャント術を施行し病変は改善傾向(CVR=2.2)となりましたが、出産時期が近づくにつれ病変の再増悪(CVR=2.61)を認め重症の状態のまま出生となりました。出生後は集中治療室での人工呼吸管理と全身管理を行いましたが、病変の増悪と呼吸状態の悪化が継続したため、出生翌日(日齢1)に人工心肺装置(ECMO) を装着しました。日齢2には人工心肺装着状態のまま左肺下葉の病変肺の大部分を切除(肺部分切除)しました。病変による健側肺と心臓の圧迫(縦隔偏位)が改善したことで呼吸循環状態が改善し、日齢4に人工心肺装置(ECMO)を離脱することが出来ました。その後、残存病変肺の根治的切除のために日齢14に左肺下葉切除を行いました。日齢29に人工呼吸器を離脱し、5月21日(日齢58)に退院しました。退院時には酸素投与等のサポートを必要としない呼吸状態で、視覚・聴覚や神経学的に後遺症を認めていません。現在、自宅で元気に過ごしています。

本件について、6月7日(火)14時から大阪大学医学部共通棟3階中会議室にて記者発表が行われました.

胎児治療 嚢胞羊水腔シャント術 在胎23週4日

人工心肺(ECMO)下に病変肺部分切除 日齢2

残存肺病変を切除(左肺下葉切除) 日齢14

治療の背景

CCAM(congenital cystic adenomatoid malformation:先天性肺嚢胞性腺腫様奇形)は近年胎児超音波検査で胎児診断されることが増えています。病変が小さなCCAMでは胎児期に問題となる事は少ないですが、病変が大きい重症の症例(CVR>1.6)では胎児水腫を発症することがあり、胎児死亡の危険性もあります。重症の症例には胎児治療(嚢胞羊水腔シャント、母体ステロイド投与)が行われますが、施行可能な施設は限られています。また、出生後は肺低形成による呼吸不全に対して人工呼吸管理を含めた集中治療や手術が必要となります。手術は病変肺の切除を行います。今回の患児では呼吸循環状態が安定せず、そのままの状態では手術が出来なかったので人工心肺装置(ECMO)を装着したのちに肺切除を行いました。人工心肺(ECMO)下に肺切除を施行しなければならない程重症症例の治療報告は少なく、今回の様に胎児治療(嚢胞羊水腔シャント、母体ステロイド治療)を行い出生した後、人工心肺を使用し病変肺切除を行った一連の治療経過と同様の治療報告は本邦では文献上ありません。また、胎児治療・新生児期の人工呼吸管理・集中治療・人工心肺・外科手術は各々合併症の危険性も高く高度な技術を要する治療であり、すべてが施行可能な施設は非常に少ないです。大阪大学では胎児期から新生児期へ垣根なく高度治療が行えるように胎児診断治療センターを開設し治療にあたっています。

本治療成果が社会に与える影響(本治療成果の意義)

重症のCCAM(congenital cystic adenomatoid malformation:先天性肺嚢胞性腺腫様奇形)の胎児に対して胎児治療(嚢胞羊水腔シャント、母体ステロイド治療)を行い出生した後、人工心肺を使用し病変肺切除を行った一連の治療経過と同様の治療報告は本邦では文献上ありません。また、胎児治療・人工呼吸管理・集中治療・人工心肺・外科手術は各々合併症の危険性も高い中今回後遺症を残すことなく退院することが出来ました。それぞれの治療自体高度な治療技術を要するため施行可能な施設は限られているので、大阪大学医学部附属病院胎児診断治療センターを中心に高度医療を提供し、患児が無事に後遺症なく退院できたことは非常に喜ばしいことです。このことは同様の疾患をもつ胎児やご家族への治療選択の一つとなり得ます。

現状と今後

大阪大学では胎児期から新生児期へ垣根なく高度治療が行えるように、胎児診断治療センターを開設し治療にあたっており、今後も重症例患児にも後遺症のない治療を目指し安全適切な医療を提供していきます。

参考URL

大阪大学医学部附属病院HP
http://www.hosp.med.osaka-u.ac.jp/

用語説明

先天性肺嚢胞性腺腫様奇形(CCAM)

胎児期に肺が形成される際に、肺の一部が大小さまざまに嚢胞状に拡張する病気。嚢胞状に拡張した肺によって正常な肺が圧迫され肺低形成を生じる重症の症例が時に存在する。

嚢胞羊水腔シャント

超音波を使用し母体の腹壁と子宮を経由して、胎児の拡張したCCAMの嚢胞に針を刺し胎児の肺の嚢胞と羊水腔との間にチューブを留置する胎児治療。これにより嚢胞の縮小が期待される。

CVR

CVR(CCAM volume ratio):

=CCAMの容量(cm 3 )【腫瘍長径(cm)x 短径(cm)x 高さ(cm)x 0.52】/頭囲(cm)

胎児水腫

胎児の循環不全により胎児が浮腫(むくみ)を生じている状態。生じる原因は様々ある。

人工心肺装置(ECMO)

呼吸不全や循環不全の時に使用することがある。血管にカテーテルを留置し循環している血液の一部をカテーテルの中を通して体外の装置へ導き、装置により血液を酸素化して再び体内へ血液を送り込むことで呼吸や循環の補助を行う。