ヒトの健康に重要な染色体の末端領域の新機能を発見!

ヒトの健康に重要な染色体の末端領域の新機能を発見!

蛋白質「シュゴシン(守護神)」が遺伝子の発現を正常に維持

2016-1-25

本研究成果のポイント

・ヒトの健康や生命維持に重要な役割を果たす染色体末端領域の新機能を発見
・染色体末端付近の「サブテロメア」領域に「シュゴシン(守護神)」と呼ばれる蛋白質が遺伝子群の発現を制御
・多発奇形や精神遅滞等の症状が引き起こされるサブテロメア微細構造異常症の発症メカニズムの解明に期待

概要

大阪大学蛋白質研究所細胞核ネットワーク研究室の加納純子准教授らの研究グループは、本学大学院理学研究科および生命機能研究科、未来ICT研究所、東京大学大学院総合文化研究科の研究グループとの共同研究により、染色体末端領域の新たな機能を明らかにしました。具体的には、モデル生物である分裂酵母を用いて、生命維持に必須の役割を果たす「テロメア」と呼ばれる領域に隣接する「サブテロメア」領域に「シュゴシン(守護神)」と呼ばれる蛋白質が結合することによって、サブテロメアに存在する遺伝子群の発現が正常に維持されていることを発見しました。さらに、シュゴシンがサブテロメア領域のDNA複製(細胞が倍加する際にゲノムDNAをコピーすること)や染色体高次構造を制御していることを明らかにしました。

今後、ヒトにおいてもシュゴシンがサブテロメアをコントロールするのか、あるいは似た制御システムが働いているのかなどを明らかにすることにより、ヒトでは多発奇形や精神遅滞などの症状が引き起こされるサブテロメア微細構造異常症の発症メカニズムの解明に近づくことが期待されます。

本研究成果は英国科学誌「Nature Communications」に1月25日付けで公開されました。

シュゴシン蛋白質は染色体末端近傍領域のサブテロメアに結合して遺伝子発現制御などを行っている。

研究の背景と成果

生物の体を形作る一つ一つの細胞の中には、遺伝情報の担い手であるDNAが収納されています。DNAは様々な蛋白質や他の物質と結合することによって、「染色体」と呼ばれる線状の構造体を形成します。染色体の末端には、「テロメア」と呼ばれる領域があり、世代を超えた生殖細胞(卵巣や精巣の細胞)の維持や、細胞の老化のタイミングの決定など、生命維持に必須の役割を果たしていることが知られています。一方、染色体には、テロメアに隣接して「サブテロメア」と呼ばれる領域があります。サブテロメアの詳しい役割はまだよくわかっていませんが、ヒトでは多発奇形や精神遅滞などの症状が引き起こされるサブテロメア微細構造異常症が知られています。この疾患の原因の一つとして、サブテロメアのDNAのわずかな欠失や重複によってサブテロメア領域に存在する遺伝子の発現量の異常が起こっていることが考えられています。また、筋ジストロフィーの原因の一つがサブテロメア領域にある遺伝子の高発現によるとされています。したがって、サブテロメア領域の遺伝子の発現量が正常に維持されることがヒトの健康に重要であると思われます。

本研究では、モデル生物である分裂酵母を用いてサブテロメアの詳しい解析を行い、サブテロメア領域に「シュゴシン(守護神)」と呼ばれる蛋白質が結合することによって、サブテロメアに存在する遺伝子群の発現が正常に維持されていることを発見しました。さらに、シュゴシンがサブテロメア領域のDNA複製(細胞が倍加する際にゲノムDNAをコピーすること)や染色体高次構造を制御していることを明らかにしました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

ヒトのサブテロメア微細構造異常症は、サブテロメア領域のゲノムDNAの微細な欠失や重複によって起こることが知られていますが、その詳しいメカニズムはわかっていません。本研究の成果により、サブテロメア領域の遺伝子発現、DNA複製や染色体高次構造がシュゴシンという蛋白質によって制御されていることが明らかになりました。今後、ヒトにおいてもシュゴシンがサブテロメアをコントロールするのか、あるいは似た制御システムが働いているのかなどを明らかにすることにより、サブテロメア微細構造異常症の発症メカニズムの解明に近づくことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」(オンライン版)に1月25日(月)(英国時間10時、日本時間19時)に掲載されました。

参考URL

用語説明