遺伝的な日光過敏症疾患の原因を解明

遺伝的な日光過敏症疾患の原因を解明

紫外線由来シミ・ソバカスの原因(DNA損傷)の修復機構解明へ 皮膚美白対策への応用に期待

2012-3-29

<リリース概要>

国立大学法人大阪大学 生命機能研究科 細胞機能学研究室(田中亀代次教授)の研究グループは、 紫外線によるDNA損傷を修復する機構に異常を持ち、日光による皮膚の発赤、シミ・ソバカスを多発する遺伝疾患である紫外線高感受性症候群の原因遺伝子(UVSSA遺伝子と命名)を世界で初めて発見しました。 (さらに、UVSSA遺伝子産物は、他のDNA修復タンパク質の安定化に必須であることをあきらかにしました。これは、米科学誌「Nature Genetics」オンライン速報版で2012年4月1日18:00時(英国時間)に公開されます。

<研究の背景>

皮膚が日光に暴露されると、日光に含まれる紫外線によって皮膚の細胞にDNA損傷が生じます(図1)。細胞はこれらのDNA損傷を修復する機構をもち、DNA損傷による細胞死や突然変異、ひいては老化や癌化を予防しています。ところが、紫外線高感受性症候群患者ではDNA損傷を修復する機構に異常を持ちます。特に、遺伝情報のブループリントであるDNAからメッセンジャーRNAをつくる転写過程を阻害するDNA損傷を選択的に修復する機構を欠損しており、DNA損傷を受けるとその後の転写を再開できず(図2)、細胞死が誘発されます。そのため、紫外線高感受性症候群患者は日光に暴露された皮膚が発赤し、シミ・ソバカスを多発します。他方、メッセンジャーRNAをつくる過程をブロックするDNA損傷により細胞死が誘導されるため、日光紫外線によるDNA損傷は受けても皮膚がんは発症しないという特徴を有します。

<研究内容>

紫外線高感受性症候群患者細胞は紫外線に高感受性を示します。今回、我々は紫外線高感受性症候群患者細胞にマウス染色体を導入し、紫外線抵抗性を獲得した細胞を得て、マウス5番染色体に紫外線高感受性症候群の原因遺伝子が存在することを明らかにしました。さらに、DNAマイクロアレイを用いる方法により、マウス5番染色体のどの部分に原因遺伝子が存在するかをつきとめ、ヒト原因遺伝子もマウス遺伝子との相同性から同定しました。紫外線高感受性症候群患者ではこの遺伝子に突然変異を持つことも明らかにしました。 UVSSAと命名したこの遺伝子のDNA修復機構における役割も解析し、転写過程を阻害するDNA損傷を選択的に修復する機構において、他の修復タンパク質の安定化(図3)に必要であり、そのことで、DNA修復の後の転写過程の再開にも必須であることを明らかにしました(図4)

<今後の展開>

UVSSA遺伝子の発見は、ヒトにおける転写過程を阻害するDNA損傷を選択的に修復する機構の全容解明に向けて重要な情報を提供することになります。 また、本機構を欠損する他の遺伝疾患にコケイン症候群があります。コケイン症候群は日光過敏症の他に、身体発育不全、神経症状、早期老化症状を示します。紫外線高感受性症候群とコケイン症候群は同じ遺伝子や同じ機構に異常を持ちながら、何故大きく臨床症状が異なるのか現在不明です。UVSSA遺伝子の発見はその問題についても重要な糸口を与えるはずです。また、一般正常人のなかにも日光過敏性を示し、シミ・ソバカスの多い人がいます。それらの中にはUVSSA遺伝子に突然変異を持つ人もいる可能性を喚起する必要があります。今回UVSSA遺伝子を発見することができたことで、 遺伝子解析を行い紫外線高感受性症候群と診断されれば、日光に暴露する機会を極力避けるよう指導することができ、加齢に伴うシミ・ソバカスの予防に貢献するはずです。

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図1 紫外線によるDNA損傷の影響
紫外線によるDNA損傷は、ヌクレオチド除去修復とよばれる機構で除去・修復される。この機構の異常によりDNA損傷が修復されないと、突然変異やDNA複製・転写の阻害、ひいてはがん化や老化・細胞死が引き起こされる。

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図2 紫外線照射後のRNA合成の経時変化
正常細胞では、RNA合成(=転写)は紫外線照射後に一旦低下するが、時間とともに回復する。紫外線高感受性症候群患者細胞では、RNA合成(=転写)は紫外線照射後に低下したまま回復しない。

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図3 UVSSAタンパク質によるERCC6タンパク質の安定化
UVSSAを欠損している紫外線高感受性症候群患者細胞では、紫外線照射後にDNA修復タンパク質のひとつであるERCC6の分解が増加する。UVSSAタンパク質は脱ユビキチン化酵素であるUSP7と複合体を形成することを明らかにしたので、この複合体の機能によりERCC6が安定化される可能性がある。

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図4 UVSSAタンパク質の機能のモデル図
UVSSAタンパク質が機能しないと紫外線照射後にERCC6が異常に分解され、DNA損傷が修復されずRNAポリメラーゼIIが停止したままであるので、転写が再開されない。

<参考URL>