
「つくる楽しさ」を抗菌技術に 青色レーザで拓く純銅の可能性
工学研究科 機械工学専攻 博士前期課程2年 吉田 環さん
「自分の手でものを作るのがとても面白いんです」と語る吉田さん。オリジナルのレーザ装置を使って、「純銅コーティング」の研究に取り組んでいる。
「純銅」は強い抗菌・ウイルス不活化作用をもち、感染症拡大を防止する素材として注目を集めている。しかし、軟らかく強度に課題がある上、価格が高く、近年では電気自動車の普及に伴って銅の使用量が増加し、資源枯渇が危惧される。そのため、ドアノブや手すりなど、手に触れる場所を丸ごと銅でつくることは、現実的とは言い難い。こうした数々のハードルを乗り越えるため、吉田さんは新しい金属加工技術によって、純銅の力を社会に実装しようとしている。
医療×機械工学で広がる可能性 必要な場所に必要な機能を

吉田さんが着目したのが、「必要な機能を、必要な場所だけに与える」技術。ステンレスなどの基材表面にのみ薄く純銅をコーティングすれば、強度や耐久性を保ったまま、高い抗菌性を付与できる。材料使用量を最小限に抑えながら、感染症対策に貢献する。その両立を目指した研究である。
このテーマの背景には、吉田さん自身の原体験がある。幼い頃から人の体の仕組みに興味をもち、一時は医師を志したこともあったという吉田さん。進路を考えるなかで「医療に関わる道は、医師だけではない」と気づき、技術を通じて医療を支える可能性に惹かれて機械工学の道へ進んだ。現在の研究テーマである抗菌コーティングも、感染症対策や医療分野への応用を目指すものだ。
青色レーザとマルチビーム 従来の課題をクリアする、高品質コーティング
研究の中核を担うのが、青色レーザを用いた「マルチビームレーザ金属堆積法」だ。従来のレーザ金属堆積法では、基材を大きく溶かし、その溶融池に材料の粉末を投入する必要があった。その結果、基材と材料が混ざり合って純度が低下したり、熱歪みによって基材が損傷したりする課題があった。
吉田さんが取り組むマルチビーム方式では、発想を逆転させる。中央から金属粉末を供給し、その周囲から複数本の青色レーザを照射することで、粉末を空中で均一に加熱する。銅は青色光を吸収しやすいため、粉末は基材に到達する前に十分に温められ、基材を大きく溶かさずとも強固に接合できる。これにより、緻密で高純度な純銅皮膜の形成が可能となった。さらに吉田さんは、一本のビード(線)をどの間隔で重ねて面をつくるかという「ハッチング距離」に注目。欠陥が少なく平滑なコーティングを実現する条件を明らかにしてきた。こうした成果は国内外の学会で発表され、企業との共同研究も進むなど、実装を見据えた技術として注目を集めている。
手を動かし、社会とつながる研究の面白さ
吉田さんが話す研究の面白さとは、「自分の手で、実際にものを作れること」。実験室では、レーザ、粉末供給機、制御系を組み合わせ、実験装置そのものを理解しながら使いこなす。条件を変え、結果を分析し、次の実験へとつなげる。その試行錯誤の積み重ねが、成果として目に見えるところに大きなやりがいを感じているという。また、吉田さんの研究室は、企業との共同研究や国際学会での発表も多く、自身も積極的に参加することで、専門の異なる研究者や技術者からの質問やフィードバックは、自身の研究の立ち位置を客観的に捉える機会となり、「様々な分野の方との交流が研究の刺激となり、さらに挑戦しようという前向きな気持ちになった」と振り返る。
研究と並行して、自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」の活動にも参加している。小学生向け科学教室や女子高生への進学相談では「研究を社会に伝えるために欠かせない、自身の研究を噛みくだいて誰にでもわかりやすく伝える力」が養われたと語る。その経験は、学会発表や企業との対話にも生きている。春からは医療機器メーカーに就職予定。自らの手を動かして培った研究力と、対外的な活動を通じて得た視点や経験を、「社会貢献につなげたい」と展望を語った。

