子どもの「やり抜く力」はどう育つ? 「粘り強さ」の萌芽を科学する

子どもの「やり抜く力」はどう育つ? 「粘り強さ」の萌芽を科学する


人間科学研究科 人間科学専攻 博士後期課程3年 石川 萌子さん

「誰よりも粘り強い研究者になりたいです!」と意気込む石川さんが挑むテーマは、子どもの「粘り強さ」。困難な課題に直面しても、あきらめずに取り組み続ける力は「Grit(グリット)※」と呼ばれ、将来の学業成績や人生の目標達成に深く関わるとされている。一方で、その力がいつ、どのように育まれるのかについては、科学的に十分に解明されていなかった。人はなぜ挑戦を続けられるのか。あるいは、なぜ途中であきらめてしまうのか。石川さんは、幼児期の行動に着目し、「やり抜く力」の萌芽を科学的に捉え直す研究に取り組んでいる。

※「Grit」とは 粘り強さと情熱を構成要素とするやり抜く力


「粘り強さ」は、どのように現れるのか?

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石川さんが焦点を当てている「粘り強さ」は、グリットの前段階にあたる力であり、困難な状況でも挑戦を続けようとする行動として現れる。研究の中心となるのは、子どもには決して開けられない木箱を使った行動実験だ。課題に直面したとき、子どもがどれほどの時間向き合い、どのような方法を試すのかを、発話や視線、行動の変化まで含めて詳細に記録・分析する。

言葉による自己評価が難しい幼児に対し、かけた時間や行動そのものを指標とする点が、この研究の大きな特徴である。実験を重ねる中で、石川さんは子どもたちの柔軟な発想に何度も驚かされてきた。手だけでなく、身の回りのものや体全体を使いながら、思いもよらない方法で課題に向き合う姿。分析の結果、複数の戦略を自ら考え、試行錯誤できる子どもほど、粘り強く課題に取り組む傾向があることが示されてきた。


基礎工学研究科と連携し、ロボットを活用した画期的な研究も。

石川さんは、粘り強さが子ども個人の内側だけで完結するものではない点にも注目。実験を通して、周囲からの応援や声かけといった環境要因が、挑戦を続ける行動に影響を与えることが明らかになってきた。さらに近年は、基礎工学研究科と連携し、ロボットによる応援が子どもの挑戦を後押しするかを検証する実験にも取り組んでいる。人だけでなくロボットも「挑戦を支える存在」になり得るという結果は、教育や保育、医療の現場に新たな支援の可能性を示している。

こうした研究成果は、国内外の学会で注目を集めている。言葉がうまく話せない幼児期の研究において、時間・行動・試行錯誤の過程を丁寧に積み重ね、幼児期の粘り強さを行動指標から精緻に捉えたアプローチは、「幼児研究における実証方法として説得力がある」と、研究者から高い評価を受けている。


幼い頃の原体験と研究が結びつき、自己理解が深まっていく。

石川さんが「粘り強さ」というテーマに向き合い続けている背景には、自身の原体験がある。小学校の「ハーフ成人式」で作った冊子。大学院生になってから偶然見返したところ、そこには10歳の自分自身の言葉で「どんなことも負けず嫌い」「負けても努力する」と書き残されていた。「実家に帰って、面白そうだなと思って開いたら、幼い頃からグリットの萌芽があったことがそこには描かれていて。今、研究の中で困難にぶつかっても、粘り強く取り組み続けられるのは、幼い頃から何事もあきらめずに挑戦する姿勢を育んできたからだと思いました」。自身の原体験と研究テーマが密接に関わり、研究を通して自身の内省にもつながっている。そんな一面も、研究の面白さだと話す。

もともと石川さんは、子どもの発達支援に関わりたいという想いから、研究の道を志した。現在も公認心理師として学外で子育て相談に携わり、保護者や子どもと向き合い続けている。研究室で得られた知見を現場で確かめ、現場で感じた迷いや問いを、再び研究へと持ち帰る。その行き来が、研究に実感と厚みを与えている。

「自分の興味を思う存分深めていけるところが、研究の面白さです」。そう語る石川さんは、今後も研究者としてキャリアを歩んでいきたいと意気込む。将来的には「ジェンダー×グリット」をテーマに、粘り強さの多様な在り方について探究を深めていく考えだ。人間科学と基礎工学、研究と実践を横断する石川さん。その歩みは、子どもたちの生き方や挑戦を支える新たな知のかたちを描き始めている。

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2026年3月6日