持続可能な工業プロセスを拓く低コスト還元反応! 水素ガスを用いたクリーンプロセス

持続可能な工業プロセスを拓く低コスト還元反応! 水素ガスを用いたクリーンプロセス


工学研究科 応用化学専攻 博士後期課程3年 久田 悠靖さん

化学の研究には大きく、「新しい物質をつくること」と「つくるプロセスを改良すること」の二つの側面がある。久田さんが取り組むのは、後者の「プロセス開発」と呼ばれる分野。従来の方法では膨大な手間やリスクを伴った化学反応を、根本から見直し、まったく新しい工業プロセスとして再設計する。化学の常識を一新する最前線の挑戦だ。


実用化を見据えた挑戦、クリーンな還元プロセス開発

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「クリーンで低コストな還元プロセスを実現したい」。そう語る久田さんは、重金属・副生成物フリーの持続可能な還元反応実現に向け、機械学習を用いた有機合成研究を行っている。

物質を効率的かつ安全に、低コストでつくる方法を探る「プロセス開発」は、医薬品や化学製品の生産においてきわめて重要な役割を果たす。いくら研究室で優れた分子を設計しても、実際に工場で安定して製造できなければ実用化は難しい。そこで久田さんは、私たちの暮らしに身近な「アミノ酸」を研究対象に、従来に比べ劇的にクリーンで低コストな還元プロセスの実現に挑む。


従来の常識を変える、副生成物ゼロの画期的な手法

私たちの暮らしに馴染み深い「アミノ酸」を合成・変換する工程では大部分が還元反応を経ており、大量の塩が用いられている。反応後に塩を除去する作業は膨大な手間と時間がかかり、高価な貴金属触媒と大量の副生成物が、製造現場でのスピードとコスト面で足かせになり、効率は低かった。

「ものを早く・無駄なくつくるというプロセスに関心があった」と言う久田さんは発想を一変。水素ガスを用いた還元反応に着目した。ガスを使うことで塩の除去が不要となり、生成物を取り出しやすくなるという利点もある。しかし、水素ガス還元には金属触媒が不可欠で、金属は高価かつ残留すると毒性を持つため、最終製品への影響が懸念される。この課題を解決するため、研究ではホウ素ベースのFLP触媒(Frustrated Lewis Pair触媒)を採用。金属を一切使わずホウ素ベースのFLP触媒+水素ガスだけで反応を起こし、副生成物は“水”だけというクリーンプロセスを打ち立てた。

さらに触媒候補は機械学習を用いて設計。計算上で数万通りの組み合わせをふるいにかけ、“当たり”だけを合成・実証する手法により、研究は一気に加速した。提案された“当たり”が実際にはできないという苦労もあったが、研究を進めた結果、貴金属や副生成物はゼロとなり、後処理を短工程化。工業スケールへの応用も可能になった。つまり、低コスト×低環境負荷で量産できる新しい工業プロセスが、自らの研究から誕生した。「従来、多くの研究者が実験室で手間取っていた塩の処理を省いただけでなく、工業スケールでも大幅なコスト削減を実現。この両面の成果を生み出せたことは、研究者として純粋に嬉しいですね」と語る。多くの文献に触れ、企業の研究開発現場では取り扱えないような多様な試薬を柔軟に、実験的に扱えたことが、研究を飛躍させる土台となった。


機械学習と化学の融合が、次なるブレイクスルーへ

一連の成果により、抗生物質・抗ウイルス剤など、アミノ酸を原料にする医薬品の製造コストと、開発プロジェクトのスタートからゴールまでにかかる時間を大幅カットできる未来が期待される。

ドイツへの留学経験も糧になったと語る久田さん。培った機械学習のノウハウにより留学先でも成果を挙げ、グローバルな環境で研究に取り組むことにより、自身の研究者としての個性や研究価値を客観的に見つめ直すことができたと話す。一時期は博士課程には進まず、就職する道も視野に入れていたそう。「修士〜博士課程までシームレスに研究に取り組み、新たな発明に辿り着けたことを考えると、この5年間は決して無駄ではなかった」と振り返る。大阪と世界で磨いた研究力を、次は大規模なスケールで形にしようと、来春からは製薬企業で研究者として活動する。製薬プロセスを、つぎのフェーズへ。ブレイクスルーを見据える瞳に、揺るぎない熱が灯る。

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2025年10月10日