リチウム酸素電池の実現に向けて AIと導く未来の一手

リチウム酸素電池の実現に向けて AIと導く未来の一手


基礎工学研究科 物質創成専攻 博士後期課程1年 石原 菜々子さん

「機械学習を使ってみんなが知らないことを発見する瞬間がすごく嬉しいんです!」そう語る石原さんは、「リチウム酸素電池」という軽量・高容量を兼ね備えた次世代電池の実現に向けて、機械学習を用いたシミュレーションによる研究に取り組んでいる。


AIを活用したシミュレーションで、1か月を、たった1日に

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電子機器や電気自動車(EV)に欠かせない電池は、現代社会の技術基盤を支える心臓部とも言える存在だ。現在のリチウムイオン電池より軽く、長持ちするリチウム酸素電池は、実現すればEVや長距離ドローンなどの航続距離が数倍にも伸びる究極の電池と目され、世界中で研究が進められている。再生可能エネルギーを効率的に貯蔵する大型蓄電池や、災害時の非常用電源としての活用などへの応用も考えられ、脱炭素社会推進に貢献できるだろう。しかし、実用化は遠い。その理由は、電池内で生成する「過酸化リチウム(Li₂O₂)」結晶内部にイオンの通り道が少なく、 充放電わずか20回程度で止まってしまうからだ。石原さんは、この構造的な問題に着目し、未来のエネルギー社会をひらく突破口を探ろうとしている。

これまでは実験で答えを探ろうと試みられてきたが、Li₂O₂は非常に不安定で扱いが難しく、再現性にも限界があるうえ、時間もコストも膨大にかかる。そのため研究は長らく停滞していた。石原さんが挑んだのは、機械学習を用いたシミュレーションによるアプローチだ。機械学習モデルで原子の挙動を予測することにより、従来はスーパーコンピュータでも約1か月かかるシミュレーションを、わずか1日で実行可能に。研究にかかる経済的負担を大幅に抑えつつ、スピードとスケールを一気に押し広げた。


Li₂O₂の理想の構造を求めて

機械学習によって得られた膨大なシミュレーションデータを分析する中で、石原さんはある発見にたどり着いた。一般的に、結晶内部に欠陥があると、イオンの通り道ができ、イオンが活発に動き出す。Li2O2においても、欠陥が少量の場合は同様だ。しかし、欠陥を増やしすぎると通り道が崩れ、イオンが動かなくなるというジレンマが明らかになった。この「最適なバランス」の発見は、リチウム酸素電池の設計に新たな地図を描くものとなった。次なる挑戦はLi2O2の成長過程の解明だ。どのような条件でどういった構造が得られるのか、理想的な構造を電池系内でどのように再現できるのか。その先に社会実装の可能性がひろがる。

機械学習という強力なツールを積極的に活用しながらも、「スピーディに結果を導き出せるからこそ、数字の裏にある科学的根拠や意味を見失わないこと」という指導教員からのメッセージを、石原さんは常に胸に留めている。機械学習のメリットを最大限に活かしつつ、科学の本質を見据える研究者の矜持がそこにある。


基礎と応用をつなぎ、未来の研究者像を描く。

学部時代から大阪大学で研究に打ちこむ石原さん。きっかけは、女子高で親しかった先輩が基礎工学部で研究を楽しむ姿を見たことだった。「自分もここで研究したい」という憧れが研究室への扉を開かせた。理系学生の多くが「基礎」か「応用」かの選択を迫られる中、石原さんの答えは「どちらも」だった。機械学習を駆使する現在の研究は応用色が強いように見えるが、そのプロセスで原理や本質を突き詰める姿勢はまさに基礎研究そのもの。高校生の頃に芽生えた研究への好奇心は今も変わらず、今後も研究者としてキャリアを歩みたいと語る。

また、自身の経験から、理系女子学生の大学進学時の環境変化による心理的ハードルを少しでもカバーしたいという想いも。自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」のメンバーとして進学相談会に参加し、対話を大切にしている。理系進学のハードルも、研究の壁も、軽やかに越えていける石原さんの今後に期待が高まる。

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2025年10月10日