「ここならできる」 特別な光と凍結を組み合わせ、薬理学の進歩に貢献。

「ここならできる」 特別な光と凍結を組み合わせ、薬理学の進歩に貢献。


工学研究科 物理学系専攻 修士課程1年 川上千穂さん



薬剤が生体に及ぼす影響や作用のメカニズム等について研究する「薬理学」。実は、薬剤が生体内にどのように取り込まれ、どう作用しているのか、1細胞単位で観察する方法は未だ確立されていない。これに対して、川上さんの研究は光物理の側面から、薬理学を発展させる可能性を秘めている。研究テーマは、ラマン散乱光によって物質の化学構造や分子特性を解析する「ラマン顕微鏡」の感度を高め、薬理学に応用するというもの。創薬や医療への貢献が期待される基礎研究だ。

半導体から、光物理へフィールドチェンジ。

学部時代は物理に興味を持ち、半導体の加工に関する研究に励んでいた川上さん。院進学の際に、光物理×薬理学を専門とする現在の研究室に所属を移した。同じ物理領域とはいえ、研究者として新たな道を歩み出したことは、川上さんにとって大きなチャレンジだった。その背景にあるのは、「医療分野に貢献したい」という想い。得意科目である物理と、医療にアプローチできる研究に取り組むべく、川上さんは研究者としてのフィールドチェンジに踏み出した。

蛍光顕微鏡に変わる新たな観察手法。

川上さんが所属する藤田研究室では、薬理学への応用を見据えた基礎研究を展開。従来、薬剤の観察には「蛍光顕微鏡」が用いられていたが、蛍光物質による「標識」によって薬剤の作用が変化し、正しい結果が得られないことが危惧されてきた。そこで新しい技術として期待されているのが「ラマン顕微鏡」。無標識で試料のありのままの状態を観察できる反面、感度の低さが欠点とされていた。そこで藤田研究室では、ラマン顕微鏡に「クライオ技法(急速凍結固定)」を組み合わせた観察手法を確立。試料内分子の動きを固定し、低温状態で観察するため、レーザー照射による熱ダメージを受けずに長時間観察することができる。これにより感度の向上が認められたが、薬理学への応用はまだまだこれからだ。川上さんはこうした先行研究を引き継ぎ、さらなる高感度化に挑む。「この研究に取り組み始めて3ヶ月。まもなく先輩から研究を引き継ぎ、私が主担当になります。プレッシャーもありますが、先生や研究室仲間の力を借りながら、成果を積み上げていきたいです」。

“理系”の既成イメージを塗り変えていく。

研究活動のほか、自然科学系女子学生による組織「asiam(アザイム)」の活動にも参加。女子高生へ進学アドバイスを行ったり、他学科の学生と交流したりしながら、“理系=女子にとってハードルが高い”、“理系=研究職”というイメージを変えようと、アクションを大学内外にも広げる。「私が高校2年生のときに参加した阪大のオープンキャンパスで、工学部の女子学生の方とお話しした経験が今も心に残っています。その先輩が、とても楽しそうにお話しされているのが印象的で。私もこんなふうにキャンパスライフを楽しんでいる姿を後輩に見せることができたら、きっと理系に進みたいと思う女子学生が増えるんじゃないかなと思いました」。川上さんが院進学の際に研究室を変えたことも、「asiam(アザイム)」での活動も、「こうあるべき」という既成概念を取り払い、自身の信念を全うするためのアクション。「大阪大学で培った行動力や研究力を強みに、人の健康や生活に貢献したい」と、今後の展望を語った。積極的な志と推進力をもつ川上さんの姿に、次代の風を感じた。

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2024年9月26日