2019年5月16日

生物の比較を通じて多様性・共通性を探りたい

志賀教授が立ち上げた「比較神経生物学研究室」。その名称には、生命科学の一分野である神経生物学について、さまざまな生物の比較を通じて、多様性と共通性を探りたいという思いがこめられている。「生物は地球上のいろいろな場所で、多種多様な生き方をしています。彼らの進化の多様性を見るのが面白いと思っています」
研究の中心は生物にとっての「時間」、つまり光周性※1や季節性を司っている神経系だ。「植物に短日植物、長日植物があることはよく知られていますが、動物にも光周性をもつものは多く、昆虫などの無脊椎動物だけでなくヤギ、ハムスター、鳥の仲間など、光周性が繁殖リズムに影響を与えているものは多くいます。このような行動の変化を司っているのは日照時間(日長)です。日長の変化は毎年同じように訪れるので、季節を予測するには非常に信頼のおける物理的な環境因子です。生物の体内に概日時計※2があることは解明されていますが、日長をもとにどうやって季節を読んでいるのかはまだ解明されていません」

※1 光周性 生物が日照時間の変化に対して反応を示す性質
※2 概日時計 毎日約24時間の周期で時を刻む生物の体内時計

昆虫の解剖実験で脳が光を読み取る仕組みを探る

ふだんはルリキンバエという大型のハエや、カメムシ類などを使って研究している。 「ルリキンバエは秋に日が短くなると、休眠に入り、卵を産まなくなります。日長条件を変えて5日目くらいから変化が出てくるので、脳ではより短期間のうちに、おそらく短日、長日が何日続いたら卵巣を発達させよ、ホルモンを出せ、出すなというような指令が起こっていると考えられます」。志賀教授は、その3、4日の間に脳で何が起こっているのか、光を読み取る仕組みについて、時間軸を追って脳細胞を追いかけようとしている。
「1日だけの日長は卵巣発達に影響せず、何日間長日があったか、日数を数えて反応がおこります。このことから、概日時計が何サイクル回っているかの情報を貯めるメカニズムが、脳内のどこかにあると考えられます」

手作りツールで微細手術

比較神経生物学研究室のユニークな点は、キイロショウジョウバエなどのモデル生物を使わないこと。特殊な条件のもとで育てられたモデル生物ではなく、自然環境のもとで生きる生物で研究したいという思いから、ルリキンバエを1、2年に1度、学生たちと一緒に北海道まで採集に行き、清潔な環境で繁殖させている。
また、手作りの小さなナイフを使って昆虫の脳に微細手術を施す実験の方法も同研究室の特徴だ。「ハエの頭の神経細胞の一部を染色、除去して、光周性に対する反応がなくなるかを見ています。細かい作業ですが、慣れれば手術自体は数分でできる実験です。他のラボでは、モデル生物を使った遺伝子組み換えによる研究が多いです。これまでに多くの研究者が、概日時計の遺伝子が光周性に関わると証明してきましたが、どの細胞が重要かということを示したのは我々だけです」 昆虫の比較実験から生物の進化の多様性を探る研究はこれからも続く。

●志賀 向子(しが さきこ)
1993年岡山大学自然科学研究科修了、博士(理学)。同年大阪市立大学助手、98年同大学講師、2001年准教授、10年教授を経て、16年より現職。

(2018年9月取材)

 

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