2019年7月2日

日本に激震が走った海難事故

2013年6月、インド洋でコンテナ船「エムオーエル コンフォート」号の中央部分が持ち上がるようにして真っ二つに折れ、沈没した。幸い乗組員は無事だったが、この事故は日本の海事関係者に衝撃を与えた。船の「建造」「設計時の検査」「運用」の3分野に携わっていたのがいずれも日本の会社・団体だったからだ。「オールジャパン態勢の船が折れた、と激震が走りました」。そう辰巳助教は振り返る。当時、修士課程を修了し、民間の造船会社で船舶設計の仕事をしていた。ニュースがもたらされた時、職場のフロア全体がざわついたことを覚えている。

コンテナ船はなぜ折れたのか

世界最大級のコンテナ船は、全長400メートルにおよぶ。船速は25ノット(時速約46キロ)ほど。あべのハルカス(300メートル)を超える巨大構造物が海上を走っているのだ。
鋼鉄でできた船も、実はゆっくりとたわむ。影響するのは「波」だ。荷物の重さなどで下向きの力がかかる一方、波の高いところでは浮力で上向きの力が働く。船首や船尾、中央部などそれぞれの部分で逆向きの力が加わると曲げが生じる。そして限界(最終強度)を超える力が一度に加わると折れてしまうのだ。

辰巳助教は、詳細なシミュレーション手法(非線形有限要素法)を用いて、船が折れた原因を調査した。その結果、船舶の船底=二重底が水圧により曲がることで,船全体の最終強度が低下することがわかった。しかし、この二重底の曲げの影響は、従来からある実用的な最終強度の解析法(Smith法)では考慮できない。そこで、辰巳助教は、二重底構造を複数のパーツに細かく分離する手法をSmith法に取り入れ、二重底の曲げの影響を考慮できるシミュレーション手法を開発した(拡張Smith法)。さらに、最終強度の推定値を簡単に計算できる数式も編み出した。

規則ありきではなく

現在、タンカーなどの設計には、世界標準の「共通構造規則」が決められ、強度計算の手法も一律に定められている。「しかし、本来はそれぞれの船舶ごとに最適な設計がされるべき」と辰巳助教は話す。「デザイン・バイ・ルール(規則による設計)から、デザイン・バイ・アナリシス(解析による設計)への転換が必要です」。自身の強度計算の手法「拡張Smith法」や「最終強度の推定値を簡易に掲載できる数式」が、世界標準を見直すきっかけになればと考える。
次の展開は「船体構造デジタルツイン」の開発。産学連携の研究会で取り組みを始めた。船舶の「デジタルの双子」をサイバー上に存在させ、実際の船舶にもセンサーを取り付けて情報を集める。双方で情報をやりとりしながらシミュレーションをバージョンアップさせていくという考え方だ。「合理的な設計や、安全な運航などに役立ちます。国際基準見直しの後押しにもなるでしょう」と狙いを語った。

 

●辰巳 晃(たつみ・あきら)
2011年大阪大学工学部地球総合工学科卒業、17年同大学院工学研究科修了、博士(工学)。川崎重工業勤務を経て、14年から大阪大学大学院工学研究科助教。「船底局部荷重を考慮したコンテナ船の縦曲げ最終強度解析に関する研究」で2018年度大阪大学賞(若手教員部門)を受賞。

(2019年3月取材)

 

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