究みのStoryZ

「動き」を知る、解明する

センサーデータをもとに行動パターンを分析

情報科学研究科・准教授・前川卓也

前川卓也准教授は、人や動物の動きをセンサーで情報収集し、分析することでターゲットが「どんな行動をするか、どこにいるか、どんな状態か」を捉える研究に取り組む。動物に関しては共同プロジェクトに参加し、「バイオロギング」という手法を活用。また、人間の歯磨き行動や工場のライン作業の人の行動パターンなども分析している。

「動き」を知る、解明する

動物の動きのメカニズムを解明

バイオロギングは、野生動物の行動メカニズムを探るため、データロガーと呼ばれるセンサー、GPS、カメラなどを搭載した小さなデバイスを動物につけて自然界に放つ。後でデータロガーを回収し、「いつ餌を取ったか、高速で移動しているか、ある温度や風速の下でどんな行動パターンを取るか」などに関して有用な知見を見出す。対象とする動物はクマのような大型のものから鳥や小動物などさまざま。「カメラは研究者に直感的な情報を与えてくれますが、電池の消耗が早く、生態学者に興味があるシーンを捉えられないことが多い。そこで、日頃はより消費電力の少ないGPSの加速度センサーを使って行動情報を取得し、それを小型の人工知能に判別させて、例えば鳥が餌を探している時だけカメラの電源をオンにできるような仕組みを考えています」。

危険を顧みずバイオロギング

動物の観察は研究に欠かせない。そのため、共同研究者とともに生息地でのフィールドワークを頻繁に行っている。「動物のコロニーがあるのは大体、人が行きにくい場所。新潟県では、鳥が崖近くに巣を作っていました。滑落の危険もあるようなところです。生態学者はゲジゲジやダニがいっぱいいる巣穴の中に手を入れ、元気そうな鳥を捕まえてデータロガーをつける。我々は海辺の漁村で悠々自適な生活を送りながら、決定的瞬間が訪れるのを待ちます」。そんな苦労の甲斐あって、鳥が餌を求めて海に潜っている映像を捉えた。アルゼンチンのバルデス半島では、ウミウという野鳥のデータを採取したこともある。「コロニーはあるカウボーイの敷地内にありました。地元とのコミュニケーションは必須です」。この時は餌へのアタックの瞬間をカメラに捉えた。

人間の歯磨き行動を分析するアプリ

本学の歯学部附属病院には、定期的に来院する患者さんがいる。「毎日きちんと歯を磨いていますか」と尋ねると、多くの患者さんは「はい」と答える。そこで前川准教授は「自宅での歯磨きのレベルを簡単に測定するアプリ」を開発した。スマホを洗面台に置いてもらい、歯磨き時の音を捉えると、アプリが音声の分析を行い、磨き方を採点するものだ。これも一種のバイオロギングと言えるかもしれませんね。

工場のライン作業の分析

企業との共同研究により、工場のライン作業についての研究も行っている。加速度センサーで手の動きを調べ、その時系列データから1回あたりの作業時間を推定し、標準作業時間とのズレを調べる。「従業員はどのくらい長く作業すると疲れるか、どの人がボトルネックか、などを管理者の目視では判断できない部分まで推定できます」

前川准教授にとって研究とは

意識しているのは『新しさ』。人に驚きを与えられるかが重要です。今後の夢は、鯨をバイオロギングすること。ロマンを感じます。鯨は相当深い海までもぐるので、高い水圧に耐えるデータロガーを開発しなければいけませんね。

●前川卓也(まえかわ たくや)
2006年大阪大学情報科学研究科博士後期課程修了、博士(情報科学)。同年NTTコミュニケーション科学基礎研究所を経て、12年より現職。17年大阪大学賞受賞。


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(2018年2月取材)