数字から見えてくる社会の姿
データ分析から真実を伝える
国際公共政策研究科・教授・小原美紀
小原美紀教授は、労働と消費を軸に、個人の行動決定と政策との因果関係を研究している。介護、養育、教育、健康など社会のさまざまな問題を取り上げ、データを使って解明を試みている。
行政と協働で若者の失業を調査
小原教授は、若者の失業と心身の健康状態に関する研究をまとめて注目された。「私は大阪わかものハローワーク(通称・大阪わかハロ)の協力の下、就活クラブという事業に参加した若者たちを対象とした継続調査をしています」 就活クラブはグループワークを通じ、就活スキルやコミュニケーション力のアップをめざす活動。期間は2週間だが、小原教授は活動終了後も参加者の働く意欲や、メンタルヘルスを追跡している。「活動が終わった人々に3カ月後、連絡を取ると『期間中は就業意欲、応募企業数がともにアップした。また、自分のアピール点がわかり自信がついた』という回答が多く見られました。またストレスが低下し、就職率も上がっていました」。行政との長期にわたる協働活動は他に例がなく、調査開始までに、大阪わかハロの担当者と3年かけて信頼関係を構築した。 「大阪わかハロで出会った人には高学歴の人もいる。うつなどの健康問題が理由で辞めた人もいます」。社会が思ってもいないところに弱者がいることに気づいてほしいと言う。一方で「そういう人とのマッチングをうまくやって、再就職者として受け入れている中小企業は、業績が伸びているという報告もあります。若者にとってインセンティブとなるような、一歩進んだ政策を作っていくための取り組みを進めたいと思います」
保育所数と母親の就業率
日本は母親の就業率が世界的に見ると突出して低く、大阪は特に低い。「保育所の数が増えると女性の就労が盛んになるという報道がよく出ています。一方、研究者の中では、保育所を増やしたところに働く女性が集まっているだけではないかと言われます」 データを調べると、確かに「保育所が充実しているところほど、働き始める母親が多い」傾向が見られた。「ですが、3歳児以上は、幼稚園に通わせるという別の選択肢があるため、結果が分かりにくくなります。また、無認可の保育園は質が多様で、労働を支える効果があるかどうかが見えにくいのが実情です」 大阪の既婚女性の就業率の低さを巡っては「大阪人は正直。働きたくないから働かないのだ」という考え方があるが、小原教授はそういう〝大阪特異論〟に同意しない。「20代の女性が仕事を辞める率は大阪も東京も基本的に変わらない。データを使って冷静に分析し、政策を議論することが必要です」
消費行動から家事労働を分析
女性の就労に大きな影響を与えるのが、家事労働。しかし、一日のうち家事労働に費やす時間をインタビューしたところで、明確な回答を得ることは難しい。そこで小原教授は、既にビッグデータとして存在する買い物のデータから家事労働時間を分析することにした。「例えば、お味噌を買ってそのまま食べる人はいませんよね?お味噌汁にするとか、その先に料理という労働が発生します」。調理が必要なものを多く買う家庭ほど、家事労働時間は長いと考えられる。 消費は、労働によって得た収入をどのように使うかという問題。「私にとって、この二つは常に1セットです。なので、自分のことを『消費行動のわかる労働経済学者』と言っています」
小原教授にとって研究とは
日常の一つ。私を元気にしてくれるもの。家族の次に大事なもの。日常生活を送ることが研究のアイデアにつながることがある。また、研究成果について専門用語を使わず、わかりやすく一般に伝えることを心がけている。それが、インタビューさせてくれた人たちへの恩返しだと思っています。
●小原美紀(こはら みき)
1998年大阪大学経済学研究科修了、博士(経済学)。同年国際公共政策研究科助手、2000年政策研究大学院大学助教授、03年大阪大学国際公共政策研究科准教授を経て、17年より現職。
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(2018年2月取材)