2018年9月25日

患者の自己心臓を活かす治療法を開発

今回、臨床研究の対象となるのは、薬の服用やバイパス手術(新たな血液の通り道を作る)で改善しない重症心不全の患者。心不全とは、心臓に何らかの異常があってポンプ機能が低下し、血液を十分に全身に送り出せなくなっている状態。高齢者を中心に患者数が増加傾向にあり、現在、日本人の死因の第2位となっている。「重症になると、人工心臓の装着や心臓移植しか選択肢がなくなりますが、人工心臓には血栓などのリスクがあり、日本における心臓移植には圧倒的なドナー不足という困難があります」
そこで澤教授は2003年、患者の足の筋肉から採取した筋芽細胞(増殖して筋肉になる細胞)を用いた細胞シートを開発。心臓患部に貼りつけるという心筋機能再生治療をスタートさせた。これは自己心臓を活かす画期的な治療法で、「細胞シートから分泌されるサイトカイン(修復反応を促すたんぱく質)が、心臓の筋肉に働きかけることで心機能が改善します。しかし足と心臓の筋肉では性質が異なるため、望む治療効果が得られない患者さんもいました」

iPS細胞由来の心筋細胞で心臓機能を改善

2017年には、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)で作成・備蓄されている、患者由来ではないが拒絶反応が起きにくいiPS細胞を用いて「心筋細胞シート」を開発。これは細胞シート技術(東京女子医科大学・岡野光夫教授)とヒトiPS細胞(京都大学・山中伸弥教授)という日本発の二つの技術を融合させたもので、「患者さんの心筋に同化して傷んだ心筋を補充するため、より高い治療効果が期待できます」
心筋シートに使用されるiPS細胞の数は約1億個。未分化のiPS細胞が混入することで懸念されるがん化リスクについては、薬剤などによる徹底的な除去で安全性を高め、動物モデルによる検証を重ねてきた。また患者由来ではない細胞を用いるため、移植当初は免疫機能を抑制する必要があるが、マウスでは、免疫抑制剤の投与をやめることで、がん化するはずの細胞を免疫が退治した。「自然免疫に関する研究の進展なども見据えながら、免疫抑制剤の投与継続について慎重に判断することが、がん化リスクに対応するカギとなります」

患者さんを助けることが研究の最大目標

6月の大阪府北部を震源とする地震による研究施設の被災で、心筋細胞の培養が一時中断し、臨床研究の実現は来年度にずれ込む予定。それでも「iPS細胞由来の心筋シートを使用した再生医療を、心不全の一般的治療として5年以内には普及させたい。世界中の患者さんが待っていますから」と語る。心臓外科を選んだ理由は「人の命に直結する分野だから。ハイリスクな仕事ですが、その緊張感が自分には向いているように思います」
仕事をしていないのは寝ている時くらいという多忙さだが、車の運転が好き。かつてフンボルト財団奨学生として留学していたドイツでは、アウトバーン(一部区間を除く速度無制限の高速道路)を時速200キロで疾走していたそうだ。

●澤 芳樹(さわ よしき)
1980年大阪大学医学部卒業、大阪大学医学部第一外科入局。同助手、医局長、講師を経て、2002年大阪大学医学部附属病院助教授、06年から現職。同医学部附属病院未来医療センター、臨床医工学融合研究教育センター、国際医療センターの各センター長を歴任。

 

(本記事の内容は、2018年9月大阪大学NewsLetterに掲載されたものです)

未知の世界に挑む研究者の物語『究みのStoryZ』に戻る
阪大研究者、阪大生、卒業生の物語『阪大StoryZ』に戻る

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top