究みのStoryZ

ヒトと人の間を繋ぎたい

集団経済実験とfMRI実験で行動経済学にアプローチ

社会経済研究所・講師・犬飼佳吾

人は一見不合理な行動をとる時がある。社会経済学研究所の犬飼佳吾講師は、進化の歴史をたどってきた「ヒト」としての生理学的要因を考慮することで、不合理な行動を説明できるのではないかと考えている。社会科学的なアプローチでとらえた「人」と、神経科学的な実験や他の動物との比較から見えてくる生物としての「ヒト」。その両方を視野に入れた、ユニークな行動経済学研究を展開している。

ヒトと人の間を繋ぎたい

報酬分配時の脳の動きを知る

犬飼講師の研究のベースにはゲーム理論がある。「ゲーム理論は『人が何かの行動を起こすときは誰かの影響を受け、逆に、自分の行動も誰かに影響を与えている』というような、人と人との相互関係を捉えるように組み立てられています」。そういう意味でとても「人っぽい」理論だという。  「人がある状況でどう行動するかを調べるため、最後通牒ゲームというゲームを使って実験しています」。最後通牒ゲームは、1人が報酬の配分を決め、もう1人はその提示額を受け入れるか、拒否するかを選ぶというよく知られたゲーム。ただ、犬飼講師による実験のユニークなところは、被験者をパソコンの前に座らせて行う一般的な行動実験に加えて、被験者に、脳内の動きを観察するfMRI装置のなかに入ってゲームをしてもらう点だ。「決断すべき局面で、どんな神経活動のメカニズムが働いているのか。人の行動を説明するモデルを組み立てたうえで、決断した時の脳の生理的状態を解明するため、画像を分析しています」。これまでの分析から、実験時には、相手の立場に立って物事を考えるときに使う脳の領域が活性化していることや、不公平な提示を受けると扁桃体などの脳の古い領域が活性化することが分かった。  また、他の動物と人間の行動や意思決定を比較するため、動物行動の研究者とも共同研究している。対象はニホンザルやチンパンジーから、アリやハチなどの昆虫にも及ぶ。

人の行動を二つの視点から解明へ

大学時代に一般的な経済学を学んだが、経済学モデルには、完全に合理的な人間しか登場しない。自分の日ごろの行動とズレを感じ、行動実験で実証してみようと思ったのが研究のきっかけだ。  人が、時にはどう考えても非合理的にみえる選択をすることがあることについて、犬飼講師は、人間特有の「共感」が重要なファクターだと考えている。たとえ報酬の配分権が自分にあったとしても「ここまで低い額を提案したら、相手はどう思うだろうか」と人間は考え、他人のことが気になったり、かわいそうだと思う。さらに、目の前の相手だけでなく、そこにいない誰かのことまで考えに入れる。「誰も見ていないところでもゴミをポイ捨てしないのは、『こんなことをしたらまずいかな』と思うからですね。また、『みんながポイ捨てすると環境に悪いかな』と、ずっと先に起こるかもしれないことまで想像して行動することもできる。一つの事象に対して具体、抽象両方のレベルで想像できるのは、人間のすごいところです」  人の行動を二つの視点から説明したいと考えている。「一つは生命、身体など生理的レベルの視点。もう一つは、非合理的な行動を獲得するに至った歴史的経緯の視点です」。生命科学の知見も取り入れながら、実際の人間の行動を様々なレベルで理解することで、「政策や市場のシステムづくりに活かすことができるのではないか」

犬飼講師にとって研究とは

日常生活とは異なる、抽象的な活動。しかし、研究や実験を通じて、ますます実際の人間が好きになっていく。何でこんなことをするのかと目を見張ることも多い。もっと研究を深め、人間を知りたいをと思います。

●犬飼佳吾(いぬかい けいご)
2005年中央大学総合政策学部卒業、2011年北海道大学大学院文学研究科博士課程修了、2013年大阪大学社会経済研究所助教を経て、14年より現職。17年大阪大学賞受賞。


未知の世界に挑む研究者の物語 『究みのStoryZ』 に戻る
阪大生と卒業生の物語 『阪大StoryZ』 に戻る

(2018年2月取材)

キーワード