工学系

2020年11月4日

発表のポイント

・大阪大学の海洋生分解性プラスチックの成果を元に、実用的な海洋生分解性バイオマスプラスチック※1(Marine-Biodegradable Biomass Plastics、MBBP)の材料設計を提案。具現化に向けて大阪大学を中心とし、2020年9月産官学の機関で構成するMBBP開発プラットフォームを設立。
・海洋ごみ問題が地球規模の脅威になりつつある現状にあっても、実用化されている海洋生分解性プラスチックの用途・普及は限定的。この課題解決に資するため、MBBP開発プラットフォームで具体的な製品開発に取組み、海洋生分解性プラスチックの実用化・社会普及を目指す。
・MBBPは海洋プラスチック問題の切り札として期待。さらに再生可能かつ地球上に大量にあるバイオマス資源の有効利用は物質循環や地球温暖化ガス(CO2)の削減に大きく貢献。

概要

大阪大学大学院工学研究科の宇山浩教授、徐于懿助教が代表幹事となり、2020年9月海洋生分解性バイオマスプラスチック(MBBP)の開発・社会普及を目指したプラットフォームを設立しました(図1)。民間企業20社近くが参画し、産官学の強固な連携により海洋プラスチックごみの削減に貢献できるMBBPの実用化を目指します。

これまでに実用化されている海洋生分解性プラスチック(海洋生分解性プラ)の多くは脂肪族ポリエステルに限定され、性質、価格、生産量の課題から広く普及していませんでした。一方、大阪大学は2020年3月に海洋生分解性プラスチックをデンプン※2、セルロースといった安価かつ身近なバイオマスの組み合わせで開発しました。得られたシート材料は優れた強度と海水中での高い生分解性を示しました。この成果は生分解性プラにデンプンを添加することで海洋生分解機能が搭載できる可能性を示唆します。

地球と共生できる海洋生分解性プラを開発し、普及させるためには、既存のプラスチックと同じように使える性能を持ち、価格面での競争力も兼ね備える必要があります。大阪大学では、デンプンの配合により海洋生分解を誘起する材料設計を提案し、具現化するための技術開発を行ってきました。このプラットフォームで開発するMBBPは海洋ゴミ問題の解決に大きく資するのみならず、地球の物質循環やCO2削減に貢献するものであり、SDGsやCOP25等の世界的な提言を実現します。

図1 MBBP開発コンセプト

背景

海洋ゴミ問題の主たる原因は廃棄プラスチックによるもので、多くのプラスチックが環境中で分解しないことが原因です。日本でも海洋性分解性プラスチックは開発されていますが、これらはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)といった既存のプラスチックと比して性質が劣り、価格も高く(2倍以上)、さらに生産量が極めて少ないといった課題があります。このような現状を打破すべく、海洋ゴミ問題を解決できる安価かつ大量に製造できる海洋生分解性プラスチックの開発が社会的に強く望まれていました。

宇山教授らの研究グループでは、安価かつ地球上に大量にあるバイオマス資源に着目し、独自の複合化技術により海洋生分解性プラを開発しました(2020年3月に発表)。安価かつ世界中に豊富にあるデンプンとセルロースを独自技術で複合化すると、優れた強度と高い海洋生分解性を有するシートが得られました。さらに海洋生分解性試験から、デンプンの添加によりシート表面にバイオフィルムが形成し、バイオフィルムから代謝された酵素によりこのシートが生分解することが示唆されました。この成果を元に、デンプンを配合し、多様な用途に展開できる海洋生分解性プラの材料を設計しました。

PE、PPをはじめとするプラスチックは熱可塑性※3を示し、多くのプラスチック製品は熱可塑性を利用して製造されています。一方、デンプンは熱可塑性を示しません。そこでプラットフォーム参画企業の協力で熱可塑性を示すデンプンペレットを導入し、生分解性プラ(ポリ乳酸、PLA)等を主材とし、物性を改善するフィラーとブレンド/複合化することでMBBPコンパウンドを設計しました(図2)。このコンパウンドを利用することで、容器・ボトル・フィルム・シート等のプラスチック製品が大量に製造できます。

(図3)に海洋生分解性機能発現の材料設計を示します。デンプンは海洋微生物にとっては格好の栄養源であり、デンプン配合プラスチック上に微生物が容易に繁殖することでバイオフィルムを形成し、PLAのような難海洋生分解性プラスチックであってもバイオフィルム中の微生物が産生する酵素によりプラスチックが分解します。先に開発したデンプン/セルロースシートの海洋生分解評価では、シート上に菌類が見られ、バイオフィルム形成が示唆されました。

本プラットフォームでは、安価かつプラスチックに配合できるデンプンペレットを用い、生分解性プラのブレンド/複合技術※4によりプラスチックの性質を自在にチューニングします。これにより多様なプラスチック製品が製造でき、用途開発ができます。プラスチック製品の製造・利用に関わる様々な企業が参画することで、MBBPの早期実用化・社会実装を目指します。

参画機関:松谷化学工業株式会社、白石カルシウム株式会社、サラヤ株式会社、ユーハ味覚糖株式会社、ユニ・チャーム株式会社、味の素株式会社、興和株式会社、株式会社大丸松坂屋百貨店、パナソニック株式会社、ニッポー株式会社、アスカカンパニー株式会社、星光PMC株式会社、積水化成品工業株式会社、荒川化学工業株式会社、株式会社イノアックコーポレーション、スタープラスチック工業株式会社、利昌工業株式会社、ユングブンツラワー・ジャパン株式会社 他

図2 MBBP製品開発スキーム

図3 海洋生分解機能発現の材料設計

本プラットフォームが社会に与える影響(本発表の意義)

本研究成果が実用化できれば、海洋プラスチック問題の解決に大きく資することができます。また、地球上に安価かつ大量にあるバイオマスの利用により物質循環が構築でき、CO2ガスの抑制につながります。そのため、地球環境の改善に大きく貢献できる新技術として、早期の実用化が期待されます。また、このような環境技術を日本発で世界に発信することは日本の高い技術力を世界に示すものです。

用語説明

※1 海洋生分解性バイオマスプラスチック
生分解性プラスチックは通常のプラスチック製品と同じように使え、しかも使用後は、自然界の微生物や分解酵素によって水と二酸化炭素に分解される、自然に還るプラスチックです。バイオマスプラスチックはバイオマス資源を原料とするプラスチックで、CO2排出削減・枯渇資源抑制に貢献します。PLAはバイオマスを原料とし、生分解性を示すことから、生分解性バイオマスプラスチックです。なお、海中における生分解(海洋生分解)は、土壌中やコンポスト化での分解(生分解)より起こりにくいとされています。

※2 デンプン
代表的な炭水化物(多糖類)であり、多数のα-グルコース分子がグリコシド結合によって重合した天然高分子です。デンプンは植物の光合成によって作られ、コーンやキャッサバ(タピオカ)などが安価な工業原料として用いられます。

※3 熱可塑性
常温では変形しにくいが、加熱すると軟化して成形しやすくなり、冷やすと再び固くなる性質をいいます。プラスチックの代表的な成形法である射出成形、押出成形には熱可塑性が必須です。本プラットフォームでは、デンプンコンパウンドを用いて様々なプラスチック製品を成形し、開発します。

※4 ブレンド/複合技術
単一のプラスチックでは不足する性質を複数のプラスチックのブレンドあるいはプラスチックとフィラー(繊維等)と複合化することで、プラスチックの性質を向上させる技術のことです。本プラットフォームでは、生分解性ポリエステルにデンプンを配合することで海洋生分解機能を搭載します。

研究者のコメント

宇山浩教授

海洋生分解性バイオマスプラスチック(MBBP)には海洋ゴミ問題の解決への大きな期待感があり、社会的に大きなインパクトを与える成果と考えています。安価なバイオマスの有効利用はCO2削減につながり、パリ協定批准に向けた日本発の重要な環境技術として位置付けられると考えています。本プラットフォームは大阪大学の材料設計を元にした実用的なMBBP製品の開発を目指した産官学連携体であり、性質のチューニングと成形技術の開発によりMBBPの早期実用化・社会実装を目指します。

参考URL

工学研究科 宇山研究室HP
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~uyamaken/

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