生命科学・医学系

2020年8月27日

研究成果のポイント

・ナノポア(ナノサイズの細孔)を形成する人工膜タンパク質をデザインし、その構造・機能の解析に成功
・人工細胞を用いた人工膜タンパク質の機能計測に世界で初めて成功
・膜タンパク質の工学利用への道を開く大きな成果

概要

大阪大学大学院工学研究科の植田淳子特任研究員、松浦友亮准教授の研究グループは、西湖大学のPeilong Lu教授、ワシントン大学のWilliam Catterall教授、David Baker教授らと共同で、自然界に存在するのとは全く異なる配列からなるナノポア※1を形成する人工膜タンパク質※2を創り出すことに成功しました(図1)。同研究グループは、まず、計算機により設計・デザインされた人工膜タンパク質を調製し、これがデザインに近い立体構造を有していることを実験的に明らかにしました。更に、この人工膜タンパク質を脂質膜※3に埋め込み、その機能を計測することにより、予想されるサイズのポアを持つことを示す結果を得ることに成功しました。

これまでに人工膜タンパク質をデザインする例は、いくつかありましたが、機能を持ち、かつ、構造まで明らかにした人工膜タンパク質の報告例はありませんでした。今回、同研究グループは、X線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡法※4を用いて人工膜タンパク質の立体構造を解明し、デザインとよく一致することを示しました。さらにパッチクランプ法※5及び無細胞タンパク質合成系を用いたリポソームアッセイ※6を用い、ナノポアをもつ膜タンパク質の詳細な機能解析を行い脂質膜上でも予想される構造を有していることを示唆する結果を得ました。本成果は、機能をもつ人工膜タンパク質のデザイン分野における大きな一歩であり、バイオセンサーなど今後の様々なバイオテクノロジー分野への応用展開が期待されます。

本研究成果は、科学誌「Nature」に、8月27日(木)午前0時(日本時間)にオンライン公開されました。

図1 ポアサイズの異なる2つの人工膜タンパク質の立体構造(モデル)。左)TMHC6、右)TMH4C4。

研究の背景

近年、ワシントン大学David Baker教授を中心とした研究者らにより、自然界に存在する配列とは全く異なる配列を持つ人工タンパク質が、計算機を用いて合理的に設計できるようになってきました。タンパク質は、大きく分けて可溶性タンパク質と膜タンパク質に分類されますが、可溶性タンパク質のデザインに関しては近年目覚ましい発展がありました。酵素や特定の物質に結合する人工タンパク質などのデザインや、高い安定性をもつ人工膜タンパク質、蛍光を持つ人工タンパク質のデザインなども報告されています。一方で、膜に埋まっている人工膜タンパク質のデザインには、まだ困難な点が多くありました。これは、膜タンパク質のデザインには脂質分子との相互作用を考慮する必要があるためと考えられています。これまでに人工膜タンパク質をデザインした例としては、人工ペプチドを用いたイオンチャネル、自然界に存在する配列の一部を用いた人工膜タンパク質、機能はあるが詳細な立体構造が明らかではない人工膜タンパク質などがありました。一方、機能を持ち、かつ、構造まで明らかにした完全な人工膜タンパク質の報告例はありませんでした。

研究内容

同研究グループは、まずRosettaというプログラムを用いてナノメートルサイズのポアをもつ水溶性人工タンパク質をデザインしました。次に、水溶性人工タンパク質を膜タンパク質に転換するために、脂質との相互作用部分をデザインしなおしました。その結果、12回膜貫通領域を有し約0.3nmのナノポアをもつ人工膜タンパク質(TMHC6)と16回膜貫通領域を有し約1nmのナノポアをもつ人工膜タンパク質(TMH4C4)の2つをデザインしました(図1)

X戦結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡法を用いて2つの人工タンパク質の立体構造を解明し、デザインした構造とよく一致することを示しました。界面活性剤を含む水溶液中でも正しい構造を有していることを超遠心分析法で示しました。その後、生細胞を用いたパッチクランプ法によりTMHC6の機能を測定しました。その結果、TMHC6は、イオン選択性がありカリウムイオンが他のイオン(ナトリウム、セシウムなど)と比べて著しく大きな透過性を示すことを明らかにしました。次に、TMH4C4の機能を同様に生細胞を用いて計測することを試みましたが、TMH4C4の発現自体が細胞死を招き、解析が困難であることが分かりました。そこで阪大独自の技術である無細胞タンパク質合成系を用いたリポソームアッセイ(人工細胞)を用いTMH4C4がナノポアを形成しているかを調べました。その結果、TMH4C4は、1kDa程度の蛍光物質はリポソーム膜を透過するが、4.6kDaの分子になると透過しないことが分かりました。TMHC6では、何れの蛍光物質も透過しませんでした。これらの詳細な機能解析は、脂質膜上でもデザインした2つの人工膜タンパク質が予想される構造を有していることを示唆しています。

以上のように、ナノサイズの細孔を有する2種類の人工膜タンパク質を設計し、その機能・構造を明らかにすることに成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究で用いた方法論は、新たな人工膜タンパク質の創出にも応用できることが期待されます。従来は困難であった機能を持つ人工膜タンパク質の創出は、バイオセンサー等の様々なバイオテクノロジー分野への応用展開に貢献することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年8月27日(木)午前0時(日本時間)に米国科学誌「Nature」(オンライン)に掲載されました(https://doi.org/10.1038/s41586-020-2646-5)。

タイトル:"Computational design of transmembrane pores"
著者名:Chunfu Xu, Peilong Lu, Tamer M. Gamal El-Din, Xue Y. Pei, Matthew C. Johnson, Atsuko Uyeda, Matthew J. Bick, Qi Xu, Daohua Jiang, Hua Bai, Gabriella Reggiano, Yang Hsia, TJ Brunette, Jiayi Dou, Dan Ma, Eric Lynch, Scott E. Boyken, Po-Ssu Huang, Lance Stewart, Frank DiMaio, Justin M. Kollman, Ben F. Luisi, Tomoaki Matsuura, William A. Catterall and David Baker

なお、本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究A(代表:松浦友亮)の一環として行われました。

用語説明

※1 ナノポア
ナノメートル(10-9m)サイズの細孔。

※2 人工膜タンパク質
計算機で人工的に設計された膜タンパク質。そのアミノ酸配列は天然の配列とは大きく異なる。

※3 脂質膜
細胞の内容物の漏洩を防ぐために存在する細胞膜は、主としてリン脂質から構成されている。このリン脂質から構成されている膜を脂質膜と言う。

※4 X線結晶構造解析、クライオ電子顕微鏡法
タンパク質の3次元構造を解析する方法。

※5 パッチクランプ法
細いガラス管を微小電極として使用し、細胞膜にあるイオンチャネルや膜タンパク質の性質を通過する電流から計測する方法。

※6 無細胞タンパク質合成系を用いたリポソームアッセイ
人工脂質膜からなるリポソームに試験管内でタンパク質を合成する「無細胞タンパク質合成系」を内包させ、内部で特定の膜タンパク質を合成する。このようにして調製したリポソームは、膜タンパク質の機能を計測するのに用いることができる。

研究者のコメント

共同研究を始めてから約5年間、紆余曲折ありながらもようやく論文にできたことは、とても感慨深い。我々のもつ人工細胞技術の有用性を示す非常に意義深い成果である。現在、進化分子工学手法と組み合わせ新たな配列空間探索の旅に向かっている。

参考URL

工学研究科 生物工学専攻 渡邉研究室HP
http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/ez/index.html

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