生命科学・医学系

2020年5月1日

研究成果のポイント

・Rad52※1が反復配列※2を介した染色体異常※3を引き起こすことを発見
・染色体異常は発ガンの大きな要因であるが、その分子メカニズムは解明されていなかった。
・Rad52は多機能であるが、DNAアニーリング活性※4が特異的に低下したRad52-R45Kを作成することで、染色体異常への関与が明らかに
・染色体異常により誘発されるガンなどの遺伝性疾患の治療薬の開発に期待

概要

大阪大学大学院理学研究科の中川拓郎准教授らの研究グループは、東京工業大学科学技術創成研究院の岩崎博史教授、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所の仁木宏典教授、明星大学理工学部の香川亘教授との共同研究により、組換え酵素Rad52が反復配列を介した染色体異常を引き起こすことを明らかにしました。

これまで、ヒトなどでは相同組換え因子BRCA2※5やRad51※6が正常に機能しないと、染色体異常が起こり、細胞がガン化することが知られていました(図1)。また、本研究で使用する分裂酵母※7においても、Rad51遺伝子を破壊すると反復配列を「のりしろ」にした染色体異常が高頻度に起ることが知られていました。しかし、実際に、染色体異常が起きる分子メカニズムについては解明されていませんでした。

今回、中川拓郎准教授らの研究グループは、DNAアニーリング活性が低下した変異型酵素(図2)を用いることで、組換え酵素Rad52が染色体異常を引き起こすことを明らかにしました(図1)。染色体異常の誘導因子を同定したことで、今後、BRCA2などの遺伝子変異により生じる遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)※8の治療薬の開発がより一層進むことが期待されます。

本研究成果は、Springer Nature社のオープンアクセス・ジャーナル「Communications Biology」に4月30日(木)18時(日本時間)に公開されました。

図1 Rad51によるDNA鎖交換を介した染色体の維持(左)とRad52によるDNAアニーリングを介した染色体異常(右)

研究の背景

染色体異常は発ガンの大きな要因であると考えられています。相同組換え因子BRCA2やRad51はDNA損傷の正確な修復に働きます。そのため、これらが機能しないと染色体異常が起こり、細胞がガン化することが知られていました。BRCA2遺伝子などに変異を持つ女性の約7割は80才までに乳がんを発症すると推定されています。こうした発ガンのリスクにも関わらず、これまで、染色体異常が起きる分子メカニズムは解明されていませんでした。

中川拓郎准教授らの研究グループは、組換え酵素Rad52が染色体異常を引き起こすこと明らかにしました。Rad52は多機能であるため、その役割を詳細に解析することが困難でした。そこで、DNAアニーリング活性が特異的に低下した変異型Rad52-R45Kを作成しました(図2)。そして、分裂酵母を用いて染色体異常の発生頻度を定量測定しました。その結果、Rad52のDNAアニーリング活性がゲノム上の反復配列を「のりしろ」にした染色体異常の発生に必要であることを明らかにしました。更に、本研究により、Rad52による染色体異常は、通常、DNA複製装置によって抑⽌されていることが示唆されました。

興味深いことに、マウスではRad52を阻害すると発ガン率が低下することが知られています。また、ヒトのガン細胞ではRad52遺伝子のコピー数が増加している症例が報告されています。したがって、哺乳動物においても、Rad52は染色体異常を誘発する「がん遺伝子」として働くのではないかと考えられます。

図2 Rad52によるDNAアニーリング反応。
Rad52に比べてRad52-R45KはDNAアニーリング活性が低下している

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまで、染色体異常のメカニズムは解明されていなかった。今回、Rad52が染色体異常を誘発することが明らかになったことにより、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)などの治療薬の開発がより一層進むことが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年4月30日(木)18時(日本時間)にSpringer Nature社のオープンアクセス・ジャーナル「Communications Biology」に掲載されました。
【タイトル】DNA replication machinery prevents Rad52-dependent single-strand annealing that leads to gross chromosomal rearrangements at centromeres
【著者名】Onaka AT, Su J, Katahira Y, Tang C, Zafar F, Aoki K, Kagawa W, Niki H, Iwasaki H, & Nakagawa T.
【DOI】10.1038/s42003-020-0934-0

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金の基盤研究の一環として行われ、東京工業大学科学技術創成研究院 岩崎博史教授、情報・システム研究機構国立遺伝学研究所 仁木宏典教授、明星大学理工学部香川亘教授の協力を得て行われました。

用語説明

※1 Rad52
酵母からヒトに至るまで広く真核生物に保存された蛋白質。酵母のRad52は相同組換え因子Rad51のDNA結合を促進する活性とDNAアニーリング活性を持つことが知られている。一方、ヒトのRad52は、DNAアニーリング活性のみが顕著である。

※2 反復配列
同じ塩基配列が繰り返し現れるDNA配列を反復配列という。ヒトのセントロメア領域などに見られる連続的な反復配列と、SINE配列やLINE配列のように様々な染色体上に現れる散在的な反復配列が存在する。

※3 染色体異常
転座、逆位、欠失など染色体の大きな変化。染色体異常が起きると、重要な遺伝子が壊れたり、遺伝子のコピー数が増加したりすることで、癌をはじめ様々な遺伝病が起こりうる。

※4 DNAアニーリング活性
相補的な塩基配列を持つ1本鎖DNAどうしを対にして2本鎖DNAを形成する活性。Single-strand annealing(SSA)活性とも呼ばれる。

※5 BRCA2
Breast Cancer 2の略。BRCA1(Breast Cancer 1)と同様、がん抑制遺伝子の1つであり、変異すると乳がんや卵巣がんのリスクが増大する。BRCA2はRad51のDNA結合を補助する活性を持つ。

※6 Rad51
酵母からヒトに至るまで広く真核生物に保存された蛋白質。Rad51は1本鎖DNAに結合し、それと相同な塩基配列を持つ2本鎖DNAとの間でDNA鎖交換を行う。傷を持たない2本鎖DNAを鋳型に使うことで、DNA損傷を正確に修復することができる。

※7 分裂酵母 Schizosaccharomyces pombe
アフリカでビールの生産に使用されていた酵母であり、隔壁ができることで細胞分裂する。ヒトと共通した染色体構造を持つが、その数が3本しかなく解析しやすいので、染色体の研究に使用されることの多い真核生物の1種である。

※8 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:Hereditary Breast and Ovarian Cancer)
BRCA1やBRCA2遺伝子の変異を原因とする遺伝性腫瘍であり、これらの遺伝子変異によりがん発症率が約10倍高くなる。日本人女性の乳がんの約5%がHBOCであると言われている。こうした遺伝子に変異が見つかった米国女優が、がん発症前に乳房などを切除したことが話題となった。

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻 学際グループ(分子遺伝学研究室)
http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/~takuro/science/

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