細菌毒素タンパク質の膜透過機構の一端を解明

細菌毒素タンパク質の膜透過機構の一端を解明

2020-3-10

研究成果のポイント

・細菌毒素タンパク質が三次元構造をアンフォールディング させ、膜透過するメカニズムを原子レベルで解明。
・毒素タンパク質と透過装置(膜孔)の複合体構造は構造が不安定で結晶化が難しかったが、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析 を用いることで、高分解能で複合体構造の構造解析に成功した。
・本成果より、細菌毒素の膜透過を阻害する新規創薬の開発につながることが期待される。

概要

タンパク質は20種類のアミノ酸からなる1本の紐ですが、これが規則的にαヘリックス、βシートと呼ばれる二次構造を取り、さらに折れ畳んで立体的な三次構造を形成することで初めて機能します。そのため、通常一度折れ畳んだ(フォールディングした)タンパク質は構造を失って、機能を持たない1本の紐にもどる(アンフォールディングする)必要はありません。しかし、ある種の細菌は、タンパク質毒素をアンフォールディングさせ、さらに膜透過をさせてホストの細胞内入れる装置を持っています。

ウェルシュ菌などの細菌が産生する二成分毒素 は毒素タンパク質(酵素成分)とこれを宿主の細胞に入れるための透過装置(膜孔)から構成されています。透過装置(膜孔)によって形成される膜孔口径はとても小さいため、酵素成分がこのトンネルを通過する際には、一度形成された三次構造が解かれなければいけません。しかしながら、それがどのようにして起きるのかは明らかにされてきませんでした。

今回、本研究グループはウェルシュ菌タイプEが産生する、アクチンをADPリボシル化する酵素Iaと、Iaを細胞内へ輸送するIb膜孔で構成されるイオタ毒素の複合体の構造を明らかにすることに成功しました。クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析によって、Ib膜孔とIaが結合したIb膜孔の複合体を2.8~2.9オングストロームという高い分解能で構造決定をしました。

研究の背景

ウェルシュ菌タイプEが産生するイオタ毒素はアクチンをADPリボシル化する酵素成分IaとIaを細胞内へ輸送するIb膜孔からなります。Ibは単量体として産生され、プロテアーゼによる分解、7量体化やエンドソームへの取り込みを経て細胞膜に孔を開ける膜孔を形成します。Iaはエンドソームと細胞質のpH差によって生じるエネルギーを利用して、Ib膜孔の中を透過していくと考えられています (図1) 。

同じく二成分毒素である、炭疽菌毒素PA(Protective Antigen)もIbと同様な膜孔を形成することが知られています。PA膜孔は構造が明らかにされており、酵素成分が通過する狭窄部位(φクランプ)は、構造を持たない、ひも状のタンパク質しか通れないほど狭い(6Å)ことが報告されています。しかしながら、酵素成分がどのようにして構造を失うのかは明らかにされていませんでした。

図1 イオタ毒素の細胞侵入機構
ウェルシュ菌から産生された膜結合成分Ibは膜孔を形成し、酵素成分Iaを細胞内に輸送する。Iaは細胞内に侵入すると細胞骨格を形成するアクチンをADPリボシル化し、アクチンの再重合を阻害する。

研究の成果

本研究グループは、クライオ電子顕微鏡を用いてIb膜孔とIaが結合したIb膜孔の複合体(2種類:膜に埋まるステムが形成する前のshort stemとステムが完全に形成したlong stem)の構造解析に成功しました (図2) 。本研究では試験管内の条件で効率的に7量体のIb膜孔を調製する方法を見出し、Ib膜孔の構造解析への道を拓くことができました。さらに調製したIb膜孔に過剰量のIaを添加することでIa-Ib膜孔複合体の構造解析にも成功しました。

この解析から、①Ib膜孔もPA膜孔のようにひも状のタンパク質しか通れない、狭窄部位(φクランプ)を有すること、②IaがどのようにしてIb膜孔に結合するのか、③IaのN末端がIb膜孔の中で空間的な制約によって構造を失い、ひも状になっている様子を明らかにしました (図3) 。

これらの結果から、膜孔への結合が酵素成分の透過に不可欠な構造変化を引き起こすということがわかりました。

図2 本研究によって明らかにしたイオタ毒素の構造
電子顕微鏡によって得られた密度マップおよび、これをもとに作成したモデルを表示している。
上:Ib膜孔 中:Iaが結合したIb膜孔(short stem) 下:Iaが結合したIb膜孔(long stem)

図3 IaのN末端の構造変化
IaはIb膜孔への結合によって膜孔内部のNSQループと呼ばれる狭窄部位で二次構造であるヘリックスが失われる。解けたN末端は膜孔の更に深部にあるクランプへ続いている。

今後の展開

二成分毒素はウェルシュ菌のIbと炭疽菌の持つPAと大きく分けると二種類が知られています。どちらも膜孔の構造は似ていますが、膜孔を透過する毒素は前者ではアクチンをADPリボシル化するIaであり、後者のLF/EFとはその機能も構造も大きく異なっています。後者では、LFの3分子がPA膜孔に結合するモデルが提唱されており、生化学実験の結果を合わせて、その膜透過機構が論じられてきました。

これらの構造を比較すると、Ib膜孔/Iaではそのストイキオメトリー、結合モードも大きく異なることがわかりました (図4) 。また、Iaが結合したIb膜孔の複合体構造から、Iaのアンフォールディングと膜透過の機構を提唱しましたーすなわち「三次構造をとっているタンパク質がどのように解けて膜孔を透過するか」というタンパク質膜透過機構の一端の解明につながりました (図5) 。すでに似た構造を持つ膜孔がナノポアシーケンサーとしてDNAシーケンスで用いられるようになっています。応用として、将来は、この膜孔装置を生かしたタンパク質のアミノ酸シーケンスも可能になると考えています。

図4 ウェルシュ菌毒素と炭疽菌毒素の比較
ウェルシュ菌二成分毒素複合体(Ib-Ia)と炭疽菌二成分毒素複合体(PA-3LFN)の構造の比較。炭疽菌は先行研究をもとに予想したモデルである。両者でIaとLFNの結合の仕方が大きく異なることがわかる。

図5 本研究をもとに提唱する輸送モデル
a.一つのIaがIb膜孔に結合する(short stem)。 b.IaはIb膜孔への結合によってN末端の構造が失われる。エンドソーム中での酸性pHによって c.Ib膜孔のβバレルが完全に形成される(long stem)。 d.構造を失ったIaのN末端が狭いφクランプを透過する。 e.IaのN末端が再び構造を取り戻し、狭いφクランプによって逆行輸送が制限される。

特記事項

タイトル:Cryo-EM structures reveal translocational unfolding in clostridial binary iota toxin complex(クライオ電子顕微鏡により明らかにした細菌毒素タンパク質の膜透過機構)
著者:山田等仁 1 、吉田徹 1 、津下英明 2 (京都産業大学)川本晃大 1 、光岡薫(大阪大学)岩崎憲治(筑波大学)( 1 筆頭・ 2 責任著者)
雑誌:英国科学誌「Nature Structural&Molecular Biology」
オンライン版発行年月:2020年3月3日1:00(日本時間)[オンライン]
DOI(英語):10.1038/s41594-020-0388-6

この研究は,JSPS科研費(18K06170,17K15095),「文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム」の支援を受けて実施されました。また,本研究の一部は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号JP19am0101072の支援を受けました(支援番号1232)。

参考URL

大阪大学 大学院理学研究科 高分子科学専攻 蛋白質結晶学研究室
http://www.protein.osaka-u.ac.jp/crystallography/LabHP/HOME.html

用語説明

アンフォールディング

タンパク質は20種のアミノ酸が数十から数千つながってできたポリペプチド鎖からなり、これが折れ畳んで機能する構造となる。この折れ畳みをフォールディングという。一方、アンフォールディングはこの折れ畳みが解けることを表す。一般的に、フォールディングしたタンパクは自然にはアンフォールディングせず、アンフォ−ルディングさせるには何らかの機構が必要となる。二成分毒素では、酵素成分(A成分)をアンフォールディングさせた後、膜孔透過装置(B成分)を透過させ、さらにフォールディングさせるという、調整を行っている。

クライオ電子顕微鏡による単粒子解析

ガラス状氷に凍結した試料を液体窒素温度下で、電子線を照射し、生体分子を染色することなく電子顕微鏡で観察する(クライオ電子顕微鏡法)。従来、タンパク質の構造決定はX線結晶構造解析により行われてきた。しかし近年電子線直接検知型・超高速CMOSカメラの開発と、単粒子解析法ソフトウェアの発展により、結晶化しない生体試料でも高い分解能の構造を決定することができるようになった。これにより、結晶化が難しい試料、巨大分子や複数の構造が共存する試料の解析も可能になった。2017年に、その開発に貢献した研究者3名がノーベル化学賞を受賞している。

二成分毒素

イオタ毒素に代表される二成分毒素は、アクチンをADPリボシル化するA成分とエンドサイトーシスを介して、A成分を細胞内へ透過するB成分からなる。この仲間には、ヒト感染性のディフィシル菌が持つCDTa/CDTbがあり、ToxA、ToxBに続く第3の毒素として注目されている。また異なるグループの二成分毒素には、炭疽菌の二成分毒素があり、機能も構造もイオタ毒素とは異なるA成分LF/EFとA成分を細胞内へ透過する膜孔B成分PAを持つ。