自然科学系

2020年1月8日

研究成果のポイント

・独自に開発したU字型合成ブロック(=U字型π共役分子であるジベンゾフェナジン)を活用することで、ナノサイズの空孔をもつ熱活性化遅延蛍光(TADF)※1材料の開発に成功
・有機EL材料が普及する中、TADF材料の重要性・需要が高まっている。
・結晶化条件の違いによって立体配座※2、積層様式、発光色が著しく異なる結晶が生じることを発見
・対応する直線型分子よりも、環状分子の方がより効率の高いTADF特性を示すことを発見
・環状構造の特徴であるナノサイズの穴を活用できれば、ゲスト小分子(ガスや水分子など)の取り込みに応答した光・電子機能の制御が可能な発光材料の開発にもつながることが期待

概要

大阪大学大学院工学研究科・応用化学専攻の和泉彩香博士後期課程大学院生、武田洋平准教授、南方聖司教授らは、オーストラリアモナシュ大学 Heather F. Higginbotham(ヘザー F.ヒギンボーサム)博士、ポーランドシレジア工科大学 Aleksandra Nyga(アレクサンドラニガ)大学院生、英国 ダラム大学 Patrycja Stachelek(パトリツィア スタチェレク)博士、大阪大学大学院 工学研究科・生命先端工学専攻 藤内謙光准教授、デンマーク工科大学 Piotr de Silva(ピオトル デ シルバ)助教、ポーランド シレジア工科大学 Przemyslaw Data(プシュミシュワフ ダータ)准教授との共同研究で、電子ドナー(D)※3と電子アクセプター(A)※3が交互に繰返して環状に連結した熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated DelayedFluorescence: TADF)材料の開発に成功しました(図1)

これまでに、TADF材料は第三世代の有機EL発光材料として世界中で盛んに研究されていますが、環状材料の合成・構造・物性研究は、環構築に適した合成手法や合成ブロックが不足していたこともあり、極めて限定的でした。今回、同研究グループは、これまでの研究過程において独自に開発したU字型π共役分子であるジベンゾフェナジンが、環構築に有効な幾何学構造であること、優れた光・電子機能を有していることに着目して環状のTADF材料(図1)の開発に取り組んだ結果、新規な環状TADF分子の合成に成功し、これが結晶化条件の違いによって異なる発光色を示すことや、効率的なTADF特性を示すことを発見しました(図1)。また、環構造が物性に与える影響を調査するために、対照物質としてD–Aが繰返し直線的に連なった分子を別途合成し、物性を調査した結果、環状分子の方が直線状分子よりも発光におけるTADFの寄与が高く、TADF材料としてより優れていることが明らかとなりました。実際、今回開発した環状TADF分子を発光材料として活用して作製した有機EL素子の最高外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)※4は、従来の蛍光材料を用いた場合の限界値である5%、そして直線状類縁体を発光材料として用いた場合の値(6.9%)を凌駕する11.6%を達成しました。本研究成果により、これまで未発展であった環状TADF材料の創製研究が加速され、ナノサイズの穴をもつ多孔性構造とTADF機能を活かしたガスや水分子などの化学物質のセンシング材料開発へ発展することが期待されます。

本研究成果は、2020年1月2日(木)(日本時間)に、国際的に著名な一般化学雑誌である米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」のオンライン速報版としてジャーナルHPに公開されました。

図1 今回開発した環状TADF材料の概略説明図

研究の背景・詳細内容

熱活性化遅延蛍光(TADF)を示す有機材料は、原理的には有機EL素子の内部量子効率を理論最大値(〜100%)まで引き上げることができるため、第三世代の有機EL発光材料として世界中で盛んに研究されています。既存のTADF材料の多くは、炭素(C)と水素(H)を主要元素、ヘテロ元素(酸素:O、窒素:N、硫黄:Sなど)を副成分として含む電子ドナー(D)と電子アクセプター(A)を直線状に連結させた構造をもっています(図2a、直線状D-Aπ共役分子)。では、これら直線状分子の末端を繋げて環状分子(図2b、環状D-Aπ共役分子)を作った場合、「どのような立体構造や性質を示すのか?」、「環形成によるπ電子系の歪み・捻れ、末端構造の消失がTADF特性にどのような影響を及ぼすのか?」といった素朴な疑問が湧いてきます。しかし、環状D-Aπ共役分子構築に適した合成手法や合成ブロックが不足していたこともあり、環状D-Aπ共役骨格を持ったTADF材料に関する研究は極めて限定的でした。

以上の背景のもと、今回、武田准教授らの研究グループは、これまでのTADF材料研究過程において独自に開発したU字型分子であるジベンゾフェナジンが環形成に有効な幾何学構造をとりうること、優れた光・電子機能を有していることに着目し、ジベンゾフェナジンを鍵骨格とする環状D–Aπ共役分子構造をもつTADF材料の開発に取り組みました。その結果、ジベンゾフェナジンを電子アクセプター、p-フェニレンジアミン誘導体を電子ドナーとして選択することで、D-A-D-A繰り返し構造を有する環状分子(図1)の合成ルートの確立に成功しました。当該環状分子は、結晶化条件の違いによって異なる発光色を示し、X構造解析の結果、これらは結晶中における立体配座ならびに積層様式の違いに由来することが明らかになりました(図1)。また、比較対照物質として環構造を展開した直線状類縁体を別途合成し、環状分子と諸物性を比較した結果、環状分子の方が直線状分子よりも発光におけるTADFの寄与が高く、TADF材料としてより優れていることを見出しました。実際、今回開発した環状TADF分子を発光材料として活用して作製した有機EL素子の最高外部量子効率(ExternalQuantum Efficiency:EQE)は、従来の蛍光材料を用いた場合の限界値である5%、そして直線状類縁体を発光材料として用いた場合の値(6.9%)を凌駕する11.6%を達成しました。

図2 TADF分子材料の構造

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

有機EL製品が世の中に普及してきた昨今、TADF材料の重要性・需要はますます高まっています。これまでTADF材料の設計には、DとAを直線的に連結させる手法が多くとられてきましたが、本研究成果により、これまで未解明であったπ電子ドナー・アクセプター繰り返しユニットの環化によるTADF特性への影響を明らかにし、新たなTADF材料設計指針を示すことができました。本成果を契機に、TADF材料の設計指針の多様性が広がることが期待されます。特に、環状構造の特徴であるナノサイズの空孔を活用できれば、ゲスト小分子(ガスや水分子など)の取り込みに応答した光・電子機能の制御が可能な発光材料の開発にもつながることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2020年1月2日(木)(日本時間)に米国化学会誌「Journal of the American ChemicalSociety」(オンライン速報版)に掲載されました。また、本研究は、文部科学省科学研究費助成事業 新学術領域「π造形科学」(JP17H05155)ならびに「水圏機能材料」(JP19H05716)の一環として行われました。

【論文タイトル】:“Thermally Activated Delayed Fluorescent Donor–Acceptor–Donor–Acceptor π-Conjugated Macrocycle for Organic Light-Emitting Diodes”
【著者名】:Saika Izumi, Heather F. Higginbotham, Aleksandra Nyga, Patrycja Stachelek, Norimitsu Tohnai, Piotr de Silva, Przemyslaw Data, Youhei Takeda and Satoshi Minakata
【DOI】:10.1021/jacs.9b11578
【ジャーナルHP】:https://doi.org/10.1021/jacs.9b11578

用語説明

※1 熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)
光によりエネルギーを与えられた(光励起された)蛍光分子は、基底状態から、よりエネルギーの高い励起一重項状態(S1)へ遷移し、蛍光を放射することにより再び基底状態へと戻る。この過程はナノ秒スケールで完了する。スピンが平行にそろった励起三重項状態(T1)が、スピンが反平行であるS1とエネルギー的に近い場合、本来禁制であるS–T間の相互変換(項間交差:ISC)が熱的エネルギーにより可能になる。比較的寿命の長い(マイクロ〜ミリ秒スケール)励起三重項状態から励起一重項状態へ逆の項目(rISC)を経て基底状態に戻る場合に、通常の蛍光よりも寿命の長い蛍光(遅延蛍光)として放射される。これが熱活性化遅延蛍光である。

※2 立体配座
コンフォメーションともいう。ある定まった立体配置をもつ分子でも、一つの結合軸に関する回転または反転により様々な原子配列が存在しうる。このような分子内の原子や基の相対的な空間配列を立体配座という。

※3 電子ドナー、電子アクセプター
電子供与体、電子受容体のこと。相対的な電子の授受のしやすさに基づいて、他の分子(または原子団)へ電子を供与しやすい分子(またはその一部)を電子ドナー(または電子供与体)と呼ぶ。逆に電子を受け取りやすい分子(またはその一部)を電子アクセプター(または電子受容体)と呼ぶ。

※4 最高外部量子効率(External Quantum Efficiency:EQE)
有機EL素子に注入されたキャリア数に対する素子から取り出された光子数の割合または百分率。外部量子効率=内部量子効率×外部取出効率、で表される。通常、外部取出効率が20%程度のため、理論的な最大外部量子効率は、従来の蛍光材料を用いた場合(25%×20%=)5%であるのに対して、TADF材料の場合、(100%×20%=)20%である。

参考URL

大阪大学 大学院工学研究科 応用化学専攻 物質機能科学講座 精密合成化学領域 南方研究室
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~komaken/research/index.html

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