2017年1月13日

本研究成果のポイント

・「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」、などのさまざまな外部刺激に応答して発光色が3色(黄、橙だいだい、赤)に変化する発光メカノクロミズム(Mechanochromic Luminescence:MCL)※1 機能を兼ねそろえた熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence:TADF)※2 材料を世界で初めて開発
・2種類のコンフォメーション※3 が相互変換可能な電子ドナー※4 を、同研究グループが以前開発した電子アクセプター※4 である“ジベンゾフェナジン”※5 へ連結させた分子設計により、発光エネルギーの異なる複数の準安定状態※6 が生成
・圧力・温度・酸素濃度など、材料が置かれている複雑な状態を可視化できる表示デバイス・化学センサー・生体プローブへの応用研究に期待

リリース概要

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻の岡崎真人氏(大学院生)・武田洋平准教授・南方聖司教授と、英国ダラム大学物理学科のPrzemyslaw Data(プシュミシュワフデータ)博士およびAndrew P. Monkman(アンドリューP.モンクマン)教授らの国際共同研究グループは、「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」、などのさまざまな外部刺激に応答して発光色が3色に変化する発光メカノクロミズム(MCL)機能を兼ねそろえた、熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の開発に世界で初めて成功しました(図1)

また、開発した発光材料を用いて作製した有機ELデバイスの最高外部量子効率(External Quantum Efficiency: EQE)※7 は、16.8%を達成。従来の蛍光材料を用いた場合の限界値5%をはるかに上回りました。

これにより、建築物・工場施設・乗り物などに使われている材料や生体内の細胞が置かれている複雑な状態(圧力・温度・酸素濃度など)の変化を、目視で簡単にモニターできる表示デバイスや化学センサー・生体プローブの研究が躍進すると期待されます。

本研究成果は、平成29年1月11日(水)(英国時間)に、国際的に著名な学会である英国王立化学会の化学雑誌(Chemical Science)でオンライン速報版(オープンアクセス)としてジャーナルHPに公開されました。

図1 今回開発した有機発光材料の概略説明図

研究の背景

発光メカノクロミズム(MCL)を示す化合物は、「引っ張る」「圧力をかける」「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」、などさまざまな外部刺激に応答して発光色が変化することから、化学センサーやメモリ材料としての応用が期待され、世界中で活発に研究が進んでいます。しかし、既存のMCL材料の多くは、分子構造または分子配列の異なる“最も安定な状態”と“準安定な状態”の2つの状態間変化に対応して発光色が変化するので、2色間でのスイッチしかできません(図2a)。複数の異なる色を発するMCL(マルチカラーMCL)材料を作り出すことができれば、材料自体が感じる微細な状態変化を可視化でき、より高次で複雑なセンシングが可能になると期待できます。しかし、そのためには相互変換可能な複数の準安定状態を生み出す必要があります(図2b)。固体状態における分子構造、集合状態の予測や制御は容易ではないことから、現在のところ、複数色に変化するMCL材料の例は少なく、明確な分子設計指針も確立されていません。

一方、これまでに同研究グループは、独自に開発した“ジベンゾフェナジン”と呼ばれる電子アクセプターと、平面性が高く剛直な電子ドナーから構成されるドナー・アクセプター・ドナー分子が、新機構を経るTADFを示すことを明らかにしてきました(図3a, Angew. Chem., Int. Ed.2016,55, 5739–5744:平成28年4月7日大阪大学Press Release「〜従来の3倍の効率を達成!軽量・柔軟・高コントラストな照明に光〜新しい熱活性化遅延蛍光材料の開発に初めて成功!」)。TADF機能を損なうことなく、マルチカラーMCL機能を付与できれば、両者の異なるモードに基づく高次なセンシングが可能なセンサー材料や多機能性発光デバイスの開発が期待できます。しかし、これまで2色間でMCL特性を示すTADF材料の報告は数例報告されているものの、複数色変化を示すTADF材料の報告例はありませんでした。

図2 MCL材料の発光色変化のイメージ図

研究の内容

以上の背景に基づき、同研究グループは、相互変換可能な2種類のコンフォメーションとして存在する“適度に構造が柔軟な”電子ドナーを、電子アクセプター(ジベンゾフェナジン)に2つ連結した分子を設計し、合成しました(図3b)。コンフォメーション変換可能なドナーを2つ導入したことにより、原理的には4種類のコンフォメーションが存在します(図3b)。理論計算からは、i)これら4種類のコンフォメーションが十分相互変換しうること、およびii)電子構造が大きく異なることが予測されました。実際、合成した化合物にさまざまな外部刺激(「こする」「加熱する」「溶剤蒸気にさらす」)を与えると、発光色が3色に変化するマルチカラーMCLを示すことが明らかとなりました(図3b)。X線構造解析や発光スペクトルなど種々の測定結果から、発光色の異なる固体サンプルにおいては、分子はそれぞれの相に固有のコンフォメーションをとり、そのコンフォメーションが分子内電荷移動(Intramolecular Charge Transfer: ICT)※8 型の発光特性を決定づけていることが示唆されました。また、動的発光スペクトル解析からは、開発した分子材料が、以前開発したもの(図3a)と同様の機構で効率的なTADFを示すことも明らかになりました。さらに、今回開発した発光材料を用いて作製した有機ELデバイスの最高外部量子効率(EQE)は、従来の蛍光材料を用いた場合の限界値である5%をはるかに上回る16.8%を達成しました。

図3 a)以前報告した材料とb)今回開発した分子材料の比較

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

これまでに報告例のない、高効率TADFを示すマルチカラーMCL材料の開発に成功したことにより、建築物・工場施設・乗り物などに使われている材料や生体内の細胞が置かれている複雑な状態(圧力・温度・酸素濃度など)の変化を、目視で簡単にモニターできる表示デバイスや化学センサー・生体プローブの研究が躍進することが期待されます。

特記事項

本研究成果は、平成29年1月11日(水)(英国時間)に英国王立化学会の科学誌「Chemical Science」(オンライン速報版)に掲載されました。本論文はオープンアクセスとなっており、どなたでも本文をご覧いただけます。

論文タイトル:Thermally Activated Delayed Fluorescent Phenothiazine-Dibenzo[a,j]phenazine-Phenothiazine Triads Exhibiting Tricolor-Changing Mechanochromic Luminescnece
著者名:Masato Okazaki, Youhei Takeda, Przemyslaw Data, Piotr Pander, Heather Higginbotham, Andrew P. Monkman, andSatoshi Minakata
DOI:10.1039/C6SC04863C
ジャーナルHP:http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2017/SC/C6SC04863C#!divAbstract

なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会の二国間交流事業オープンパートナーシップ共同研究、新学術領域「π造形科学:電子と構造のダイナミズム制御による新機能創出」、および国際科学技術財団による支援を受けて行われました。

用語解説

※1 発光メカノクロミズム(Mechanochromic Luminescence: MCL)
「すりつぶす」「引っ張る」「圧力をかける」、などの外部からの機械的刺激に応答して物質の発光色が変化する現象のこと。また、広義には機械的刺激だけでなく、温度変化や溶媒蒸気などさまざまな外部刺激に応答して発光色が可逆的に変化する現象も含む。

※2 熱活性化遅延蛍光(Thermally Activated Delayed Fluorescence: TADF)
通常、光励起された有機分子は基底状態から励起一重項状態へ遷移し、蛍光を放射することにより再び基底状態へと戻る。この過程はナノ秒スケールという短時間で完了するが、スピンが平行にそろった励起三重項状態(T1)が、スピンが反平行である励起一重項状態(S1)とエネルギー的に極めて近い場合に、本来禁制であるこれらの状態間の相互変換(項間交差)が熱的エネルギーにより可能になる。比較的寿命の長い(マイクロ〜ミリ秒スケール)励起三重項から一重項へ逆の項間交差を経て基底状態に戻る場合に、通常の蛍光よりも寿命の長い発光(遅延蛍光)として放射される。これが熱活性化遅延蛍光である。

※3 コンフォメーション
立体配座ともいう。ある定まった立体配置を持つ分子でも、一つの結合軸に関する回転または反転によりさまざまな原子配列が存在しうる。このような分子内の原子や基の相対的な空間配列をコンフォメーションという。

※4 電子ドナー、電子アクセプター
電子供与体のこと。相対的な電子の授受のしやすさによって、他の分子(または原子団)へ電子を供与しやすい分子(または一部)を電子ドナー(または電子供与体)と呼ぶ。逆に電子を受け取りやすいものを電子アクセプター(または電子受容体)と呼ぶ。

※5 ジベンゾフェナジン
正式名称ジベンゾ[a,j]フェナジン。同研究グループが2014年に見いだした合成反応(Chemical Communications, 2014, 50, 10291–10294)で効率よく合成できるU字型に屈曲した含窒素複素芳香族化合物(環構造に炭素以外の元素として窒素元素を含む芳香族性化合物のこと)。高い電子受容性と励起三重項エネルギーが特徴的で、TADFの発現において重要な役割を果たしている。

※6 準安定状態
真の安定状態ではないが、大きな乱れが与えられなければ安定に存在できる、寿命の長い非平衡状態のこと。

※7 最高外部量子効率(External Quantum Efficiency: EQE)
有機EL素子に注入されたキャリア数に対する素子から取り出された光子数の割合または百分率。外部量子効率=内部量子効率×外部取出効率で表され、通常の素子だと外部取出効率が20%程度のため、理論的な最大外部量子効率は、従来の蛍光材料を用いた場合(25%×20%=)5%、リン光材料の場合(100%×20%=)20%とされている。

※8 分子内電荷移動(Intramolecular Charge Transfer: ICT)
分子内の電荷分布が変化する過程のこと。ICT型発光の場合、吸収と発光スペクトルのエネルギー差(ストークスシフト)が大きく、発光色が溶媒の極性に大きく依存することが特徴。

参考URL

ジャーナルHP
http://pubs.rsc.org/en/Content/ArticleLanding/2017/SC/C6SC04863C#!divAbstract

大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 南方研究室HP
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~komaken/

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