生命科学・医学系

2018年4月27日

研究成果のポイント

・細胞が、アミノ酸の一種であるグルタミンに依存して細胞成長を活性化する仕組みを発見
・これまで、グルタミンが細胞にどのように感知されるかの詳細は分かっていなかった
・アミノ酸の栄養学への応用により、ガンをはじめとする病気の克服や寿命の延長に期待

概要

細胞はグルタミンをどのように感知し、オートファジーや細胞の活性化をコントロールしている?

大阪大学大学院歯学研究科の野田健司教授(生命機能研究科兼任)、荒木保弘助教及び東京工業大学の研究グループは、アミノ酸※1の一種であるグルタミン※2がオートファジーや細胞の活性化をコントロールする仕組みを発見しました。

細胞が成長するためのキーとなる栄養素の一つがタンパク質を作り上げる部品ともいえるアミノ酸です。細胞はアミノ酸が豊富な時には活性化し成長しますが、欠乏すると成長が停止しオートファジーにより自己の分解がはじまります。しかし、細胞がどのようにアミノ酸を感知しているのか、詳細は分かっていませんでした。

今回、本研究グループでは、酵母細胞※3において、Pib2複合体※4がグルタミンに直接結合して、オートファジーを停止して細胞を成長させる経路を活性化していることを明らかにしました(図1)

この研究は、細胞がどのようにアミノ酸を感知し、オートファジーや細胞成長をコントロールしているのか、という生命の根源的な現象の解明だけでなく、アミノ酸が大きく関わるガンや生活習慣病に対する新規治療法の開発などにもつながる可能性を持ちます。

本研究成果は、米国科学雑誌「PLoS Genetics」に4月27日(金)午前4時(日本時間)に掲載されました。

図1 グルタミンがPib2複合体に結合することによるTOR複合の活性化機構
グルタミンが栄養として存在すると細胞が成長を開始し、枯渇するとオートファジーを誘導する。その制御を担うTOR複合体の活性をグルタミンがPib2複合体に結合することで調整する。

研究の背景

アミノ酸がどのように細胞成長を促すのか不明な点が多かった

生物の身体は栄養状態に応じてその成長をコントロールしています。私達ヒトの身体は約35兆個の細胞が積み重なってできており、身体の成長は一つ一つの細胞の成長の結果であるということがいえます。身体の成長や維持を理解するには、細胞がどのように成長をコントロールしているか、を知ることが大切です。

細胞にとって重要な栄養素の一つが三大栄養素の一つタンパク質の部品であるアミノ酸です。細胞はアミノ酸の有無によって成長を厳密にコントロールしています。

TOR複合体※5は、細胞の成長において中心的な役割を担う酵素です。この仕組みは、原始的な真核生物である酵母からヒトまで全ての生物が共通でもっています。アミノ酸の栄養状態はTOR複合体へと伝達され、TOR複合体はその情報に基づいて、成長を促進します。野田教授は一昨年ノーベル生理学医学賞を授賞した大隅良典栄誉教授の最初の大学院生および助手としての十余年を皮切りに、28年間オートファジーの研究に携わり、その中でTOR複合体が、オートファジーを制御することを発見してきました。

TOR複合体はアミノ酸の栄養状態を直接感知することはできません。しかしながら、アミノ酸の情報がどのようにTOR複合体に伝えられているのか、どの種類のアミノ酸が感知されているのかに関しての詳細は不明な部分が多く残されていました。

研究の成果

グルタミンに直接結合してTOR複合体を活性化する仕組みを発見

本研究グループは、オートファジー制御機構の一連の研究の中で、当時ほぼ研究がされていなかったPib2がTOR複合体に関係することに気づき、それぞれの分子の細胞内でのあり方を調べる細胞生物学、様々な変異体を作成する遺伝学、放射性同位元素で目印をつけたグルタミンとの結合を調べる生化学などの手法を駆使して、その詳細な仕組みを調べました。例えばPib2複合体とTOR複合体は共に細胞中の液胞上に存在し、グルタミンの有無に応じて離合集散しました(図2)。これらにより、今回、Pib2複合体がグルタミンに直接結合し、TOR複合体を活性化し、細胞の成長やオートファジーをコントロールしていることを発見しました。

図2 Pib2複合体とTOR複合体の細胞内分布
Pib2複合体に緑色蛍光タンパク質、TOR複合体に赤色蛍光タンパク質を連結させて、それぞれ細胞内での分布を蛍光顕微鏡を用いて観察した。両社は共にグルタミン存在時には液胞膜状に分散し、アミノ酸飢餓時には一点に集合して存在した。図1も参照。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

TOR複合体やオートファジーの破綻は、生活習慣病をはじめとする様々な疾病の原因となることが分かっています。TOR複合体の活性化はガンの成長を促し、またその活性化を抑えることで寿命が延長する可能性がわかってきました。グルタミンを感知する経路は、ヒトにも存在することが予想されることから、様々な疾病や寿命の理解にもつながることが期待されます。さらには、細胞が成長するために、どの種類のアミノ酸が重要なのかを知ることは、より効率的な栄養補給法の開発にもつながる可能性が期待されます。

研究者のコメント

筆頭著者である鵜飼洋史は今春大阪大学大学院生命機能研究科博士課程を修了しましたが、その間、大学院副プログラムの超域イノベーションの活動で西アフリカのガーナを訪問し、発展途上国における乳幼児のアミノ酸(リジン、スレオニン)欠乏による低成長の実情を知りました。帰国後、その経験から20種類のうちどの種類のアミノ酸が細胞の成長に必要なのか?という疑問を持ちながら研究を進め、アミノ酸の中でもグルタミンの重要性を証明することにつながりました。

特記事項

本研究成果は、米科学誌「PLoS Genetics」に4月27日(金)午前4時(日本時間)に掲載されました。

論文タイトル:Gtr/Ego-independent TORC1 activation is achieved through a glutamine-sensitive interaction with Pib2 on the vacuolar membrane
著者:Hirofumi Ukai, *Yasuhiro Araki, Shintaro Kira, Yu Oikawa, Alexander I. May, *Takeshi Noda
(*:責任著者)
URL:http://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1007334

なお、本研究は科研費16H01202 16K07347の一環として行われました。

用語説明

※1 アミノ酸
生物のタンパク質を構成する素。20種類のアミノ酸が、様々な並び方で鎖状につながることにより、多彩な機能をもつ多様なタンパク質が作られる。

※2 グルタミン
20種類のアミノ酸のうちの一つ。ヒトでは必須アミノ酸ではないが、ストレス時には不足することも多く、準必須アミノ酸とされる。消化機能や免疫機能と深く関わっている。

※3 酵母細胞
身近なところではパンづくりやお酒づくりに利用されている。ヒトと比べて単純な生物種であるが、ヒトと多くの共通の機能を持っているため生命科学の研究にモデル生物として用いられる。大隅博士のノーベル賞の研究は酵母細胞を用いて行われた。

※4 Pib2複合体
Pib2という名前のタンパク質、およびそれに結合する因子(現在その成分の解析中)の複合体。

※5 TOR(Target Of Rapamycin)複合体
細胞の成長を司る役割を担っているタンパク質。細胞のアミノ酸の栄養状況によって細胞の成長を促進したり、停止したりする。TORの働きを抑制する化合物はガンに対する治療薬として臨床の場でも使用されている。

参考URL

大阪大学 大学院歯学研究科 口腔科学フロンティアセンター
http://web.dent.osaka-u.ac.jp/~cfos/

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