生命科学・医学系

2020年3月6日

研究成果のポイント

・漢方薬の作用点としてオートファジー※1に着目し、医療用漢方薬全種を網羅的にスクリーニング
・四逆散※2が、栄養欠乏時カルシウムが上昇することを抑え、オートファジーを抑制する作用機序を解明
・四逆散がオートファジー関連病の治療に応用されることを期待

概要

大阪大学大学院歯学研究科・生命機能研究科(兼任)の野田健司教授らの研究グループは、日本薬局方※3に収載されている漢方薬の一つ、四逆散が、オートファジーの活性を抑えることを見出し、その機構を明らかにしました。

漢方薬は、西洋医学の発達とは長年離れて置かれていましたが、近年、その効果が再認識され、処方薬および市販薬として、様々な病気の治療や健康管理に利用されてきています。漢方薬は、中国および日本において、過去何百―千年に渡り、私達の健康に効果がある生薬の組み合わせとして、選ばれ体系化されてきました。しかし、漢方薬がどのようにして私達の体に効果を及ぼすのか、ほとんどの場合よくわかっておりません。

今回、大学院生の碇純子さん(生命機能研究科博士課程)をはじめとする研究グループでは、細胞内の分解機構であるオートファジーと漢方薬の関係を探索しました。ヒト由来の細胞を培養し医療用漢方薬128種類で処理すると、そのなかの一つ、四逆散がオートファジーの活動を抑えることを見出しました。TFEB※4と呼ばれるタンパク質はオートファジーを誘導するときに重要な役割を担う転写因子です。細胞を栄養が豊富な培地から栄養欠乏した培地に移すとオートファジーが誘導されますが、その時TFEBは細胞質から核の内部に移行し、オートファジーに関連する遺伝子の誘導を行います。TFEBは栄養が豊富なとき、mTORC1によりリン酸化されており、栄養欠乏ではカルシニューリンにより脱リン酸化され、そのことにより核内へ移行します。カルシニューリンはカルシウムによって活性化しますが、栄養が欠乏すると小胞体からカルシウムが流出し、四逆散はこの過程を抑制することがわかりました。

本研究成果は、米国科学誌「PLOS One」に、3月6日(金)4時(日本時間)に公開されました。

図1

図2

研究の背景

私達ヒトは数十兆個の細胞から成り立っておりますが、その細胞一つ一つは、栄養源の供給が途絶えたとき、みずからを作っているタンパク質などの構成成分を自分の中の特殊な空間、リソソームで分解して、栄養として利用します。この現象はオートファジーとよばれ、その基本的な仕組みを解明したことにより大隅良典博士がノーベル生理学医学賞を受賞したことでも知られています。オートファジーが正常におこることで私達ヒトの体は健康を維持しておりますが、何らかの原因でオートファジーの活動が落ちたり、または過剰になると、さまざまな病気(がんアルツハイマー病など)の発症や進行に影響することが明らかになりつつあります。オートファジー阻害効果を及ぼす薬剤、クロロキンが、膵臓がんの腫瘍細胞の増殖を抑えることが報告され、現在米国では、それを用いた膵臓がんの治療薬としての臨床試験が進行しておりますが、さまざまな副作用もしられています。オートファジー関連病を克服する目的で、世界中の製薬会社や大学などの研究機関において、オートファジーの活性を人為的に調節する薬剤の開発が、盛んに行われていますが、安全でかつ有効な薬剤の確立には至っていません。

本研究成果の意義

今回、研究グループは、四逆散が飢餓誘導性のオートファジーを阻害することを解明しました。四逆散は、胃潰瘍、胆嚢炎、胆石症、神経症などの疾病に効能があるとされており、特に膵炎とオートファジーの関係などは報告されております。四逆散の効能がオートファジーの抑制効果にある可能性が示唆され、今後薬効成分等の分析が進むことにより、よりよい治療法の確立が期待されます。また、既知の病気の薬効とは別の病気に対する薬効を見出し利用する、ドラッグ・リポジショニングという考え方が注目されております。四逆散をはじめとする漢方薬は、処方薬として認可されており、安全性が担保されております。これにより、がんを始めとするオートファジー関連病の治療に、ドラッグ・リポジショニングとして漢方薬が活用される事が期待されます。

研究者のコメント

漢方薬は実際の薬効があることで長い歴史の間伝承されてきたことが、最大の特徴ですので、細胞の基本的な仕組みであるオートファジーに効く漢方があることは、むしろ驚くに値しないのかもしれません。また今回、もう一つの漢方の特徴である生薬の組み合わせが重要であることもわかりました。今後その効能とオートファジーのより詳細な関係を明らかにし、私達の先人達が残した大いなる遺産を、より一層、我々の健康増進に活かしていく道を探っていきたいと考えています。

特記事項

本研究成果は、2020年3月6日(金)4時(日本時間)に米国科学誌「PLOS One」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Starvation-induced autophagy via calcium-dependent TFEB dephosphorylation is suppressed by Shigyakusan”
著者名:Sumiko Ikari, Shiou-Ling Lu, Feike Hao, Kenta Imai, Yasuhiro Araki, Yo-hei Yamamoto, Chao-Yuan Tsai, Yumi Nishiyama, Nobukazu Shitan, Tamotsu Yoshimori, Takanobu Otomo and Takeshi Noda.

用語説明

※1 オートファジー
細胞の基本的な機能の一つであり、自分の構成成分を分解し、栄養分として再利用します。本文でさらに説明されています。

※2 四逆散
医療用漢方薬の一つ。柴胡、芍薬、枳実、甘草の混合物。効能・効果は胃炎、胃潰瘍、胆嚢炎、胆石気管支炎、神経質の治癒。

※3 日本薬局方
厚生労働省が定めた、日本国内でよく利用される医薬品の規格基準書。

※4 TFEB
Transcription factor EB.転写因子の一種で、リソソームの生合成やオートファジーの調節に関わる遺伝子の転写を担う。その活性は、栄養源の有無等によりセリンスレオニンキナーゼであるmTORC1により制御されています。

参考URL

大阪大学 大学院歯学研究科 口腔科学フロンティアセンター
https://web.dent.osaka-u.ac.jp/cfos/index.html

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