2017年9月30日

ポイント

・従来の技術では達成が困難であった様々なサイズの物質を1つの計測部で検出する新しい検出システムを開発した
・本システムを用いれば様々な大きさの微粒子・微生物・DNA分子の検出が可能となる
・本技術の活用により、超微量のPM2.5、バイオエアロゾル、細菌、ウイルス、DNA分子等を簡便に検出することができ、環境測定、生命科学、個別化医療などの分野で、安全・安心を見守る計測システムへの展開が期待される

概要

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の宮田プログラム・マネージャーの研究開発プログラムの一環として、名古屋大学大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)生命分子工学専攻の馬場嘉信(ばばよしのぶ)教授、安井隆雄(やすいたかお)助教、矢崎啓寿(やさきひろとし)研究員らが、九州大学先導物質化学研究所柳田剛(やなぎだたけし)教授、大阪大学産業科学研究所川合知二(かわいともじ)特任教授との共同研究により、世界最高感度の電気計測システムを開発し、微粒子や微生物、DNA分子の高感度電流計測を可能としました。

電流計測システムは、電気シグナルに応じたサイズ検出機能があるため、様々な分野において、効率良く物質のサイズ計測を実現する小型の計測システムとして期待されています。しかし、従来の電流計測システムには、計測したい物質の大きさに合わせて計測部の大きさを変更する必要があり、サイズ検出範囲が狭く、様々なサイズの微粒子・微生物・DNA分子を1つの計測部で検出するのが困難であるという問題が生じていました。

そこで、本研究では、内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の取り組みにおいて、ブリッジ回路※1を用いたバックグラウンド電流※2抑制技術(µA(マイクロアンペア)からpA(ピコアンペア)まで)と、これまでに開発したマイクロ流体技術※3を用いて、従来の電流計測システムの計測部より、格段に大きい計測部でナノ粒子の検出に成功し、次世代の電流計測システムの基盤技術を確立しました。環境測定デバイス、生命科学研究、個別化医療など幅広い分野への貢献が期待できます。

今回の研究成果は、2017年9月30日発行の米国国際学術誌『Journal of the AmericanChemical Society』誌(電子版)に掲載されました。

研究の背景と経緯

環境測定デバイス、生命科学研究、個別化医療などの分野で、効率良く物質のサイズ計測を実現する計測システムとして、最近、電流計測システムが注目されています。計測部には、計測したい物質の大きさに合わせて計測部の大きさ(nm〜µm)が広く使われています。しかし、実サンプルは動作検証用の理想サンプルとは異なり、様々なサイズの物質が含まれるため、サンプルの分析や検出が正しく行えない欠点があります。

そこで、本研究チームは、大きな計測部を有する電流計測システムにおいて、高電圧を印加することに着目しました。高電圧印加は、サンプルによるシグナルの強度を増加させます。しかし、高電圧印加は、従来の電流計測システムでは、バックグラウンド電流も同時に大きくなるため使用できませんでした。そのため、高電圧印加とバックグラウンド電流の抑制を同時に実現するためには、新たな計測技術の開発が必要でした。

研究の内容

今回の研究では、ブリッジ回路を搭載した電流計測システムを開発し、この計測システムに高電圧を印加した際に生じるバックグラウンド電流をµAからpAまで抑制できることを実証しました。また、この計測システムを用いることで、単一の大きさを持つ計測部で、微粒子・微生物・DNA分子を検出することに成功し、さらに、大きな計測部(数µm)を用いた場合でも、ナノ粒子を計測することに成功しました(図1)

今後の展開

本技術を展開することによって、超微量のPM2.5やバイオエアロゾル、病原菌や病原性ウイルス、DNA分子を簡便に検出することが可能となり、環境測定デバイス、生命科学研究、個別化医療などの分野で、我々の安全・安心を見守る計測システムへと発展することが期待されます。また、本技術を基礎医学や分子生物学へと展開することによって、それら学問のさらなる飛躍へと貢献することが期待されます。

特記事項

本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。
内閣府革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラム・マネージャー:宮田令子
研究開発プログラム:進化を超える極微量物質の超迅速多項目センシングシステム
研究開発課題:大気中からの物質捕捉・濃縮の研究開発
研究開発責任者:馬場嘉信
研究期間:平成26年度~平成30年度

本プログラムでは、誰もが健やかで快適な生活を実現するために、ウイルスや細菌、揮発性有害物質、PM2.5などの身の回りに存在する有害・危険物質から身を守る簡便で効果的な方法の開発に取り組んでいます。

論文名

タイトル:“Substantial Expansion of Detectable Size Range in Ionic Current Sensingthrough Pores by Using a Microfluidic Bridge Circuit”
著者名:Yasaki, Hirotoshi; Yasui, Takao; Yanagida, Takeshi; Kaji, Noritada; Kanai,Masaki; Nagashima, Kazuki; Kawai, Tomoji; Baba, Yoshinobu
掲載誌:Journal of the American Chemical Society, 2017, in press
DOI: 10.1021/jacs.7b06440

参考図

図1 ブリッジ回路を搭載した電流計測システムの概念図とその計測システムを用いたポリスチレン粒子、細菌細胞、がん細胞、DNA分子の検出結果

用語解説

※1 ブリッジ回路
2つの直列回路が交差するように橋渡し回路を持つ回路。

※2 バックグラウンド電流
電圧を印加した際に必ず生じる電流。電圧を大きくすると、この電流値も大きくなる。

※3 マイクロ流体技術
微量な溶液や生体試料の混合、反応、分離、精製、検出など、様々な化学、生物操作をミクロ化する技術。半導体製造技術を用いて作製される。

宮田プログラム・マネージャーのコメント

本プログラムでは、迫り来る脅威、危険の予兆を検知できるセンシングシステムeInSECT(本プログラムにより商標登録)を開発しています。検知対象物質は、粒子状のものとしては、感染症の原因となる細菌、ウイルス、これらの大気中浮遊物であるバイオエアロゾルです。今回、名古屋大学の研究グループにより、ブリッジ回路を搭載した新しい電流計測システムが開発されました。これまでの計測技術では、高電圧を印加した際に生じるバックグラウンド電流の影響により、微粒子の波形がバックグラウンドに埋もれてしまうという問題がありましたが、本研究で開発されたブリッジ回路技術により、微粒子が流路を通過する際に生じる極小さな波形を正確に計測できることが可能となりました。この成果は、本プログラムの研究開発課題、「濃縮・輸送」「検出」「パターン認識」「原理実証」の中の「検出」において大きな進歩と言えます。本検出技術をeInSECTに搭載することで、バイオ研究をはじめ個別化医療や環境計測分野の発展へ貢献する新しい計測デバイスの提供が可能となります。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所
http://www-kawai.sanken.osaka-u.ac.jp/

この組織の他の研究を見る

Tag Cloud

back to top