2017年3月2日

本研究成果のポイント

・難病、特発性間質性肺炎の新しい血清マーカーを発見
・本血清マーカーで、特発性間質性肺炎のサブグループ化の実現や、外科的肺生検ではなく血清検査で診断できるようになり、患者の侵襲・負担が軽減
・今後診断の進歩で、特発性間質性肺炎の原因解明につながる期待

概要

大阪大学の濱野芳匡特任研究員、木田博助教、熊ノ郷淳教授(大学院医学系研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学)らの研究グループは、難病、特発性間質性肺炎※1 のサブグループを認識する血清マーカーを発見しました。

現在、特発性間質性肺炎は、外科的肺生検※2 という検査方法で幾つかの疾患に分類されています。ただし、原因不明の難病であるため、その検査方法も課題を抱えています。その一つは、侵襲が高く患者さんの負担が大きいことで、全身麻酔を伴うため、検査を受けられないケースもあります。もう一つは、分類されたそれぞれの疾患の中にも、患者さんにより病気の進行や薬剤に対する反応のバラツキがあることです。特発性間質性肺炎には、病気の成り立ちが違う幾つかのサブグループが混在していると考えられますが、特発性間質性肺炎の原因はいまだ明らかにされておらず、今のところ根治的な治療法はありません。

今回、熊ノ郷教授らの研究グループは、特発性間質性肺炎患者血清自己抗体を、タンパク質アレイ法という網羅的手法で調べることにより、MX1(ミクソウイルス耐性タンパク質)※3 に対する自己抗体※4 (抗MX1抗体)が陽性となる一群の患者が存在することを解明しました。これにより原因不明の難病、特発性間質性肺炎の診断が進歩し、将来的には特発性間質性肺炎の原因が解明されることが期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、2月23日(木)19時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

特発性間質性肺炎は国の指定難病です。進行性に悪化し、場合によっては死に至る疾患であることが知られています。特発性間質性肺炎の中に存在する幾つかの疾患へ分類診断するため、外科的肺生検が必要ですが、外科的肺生検は全身麻酔を必要とする手術であり、術後、一部の患者さんで致死的な急性増悪を引き起こす課題がありました。またこの方法で診断された疾患の中でも、病気の進行や薬剤感受性にはバラツキがあり、そもそも病気の成り立ちが異なるいくつかのサブグループが混在している可能性について示唆されてきました。

図1 特発性間質性肺炎において、抗MX1 抗体陽性は予後良好因子。

本研究の成果

研究グループは、患者血清中の自己抗体を約8,000種の自己抗体から網羅的に測定する方法で、特発性間質性肺炎の患者さんの約17%で、MX1という抗ウイルス作用を有するタンパク質に対する自己抗体の存在を発見しました。この自己抗体を持つ患者さんは、症状や検査所見が似ていて、これまでの方法では区別できない、抗MX1抗体を持たない他の特発性間質性肺炎の患者さんと比べて予後が良いことが分かりました。この研究により、これまでの方法により診断した場合と比べて、より明確な特発性間質性肺炎診断を行うことが可能となります。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

現在の侵襲的な外科的肺生検を必要とする特発性間質性肺炎の診断を、今後は血清検査で行うことが可能となります。特発性間質性肺炎の研究は、成り立ちが違う複数の疾患が混在した対象であったため、解明が遅れていました。自己抗体を発見したことで、今後の特発性間質性肺炎の原因究明に進展が期待されます。

本研究成果で、将来的に特発性間質性肺炎の原因解明が進めば、新たな創薬ターゲットが生まれ、新薬開発が進みます。また病状が悪く医学的理由で外科的肺生検が不可能な患者さんや、外科的肺生検を回避したいと希望する患者さんに対して本血清マーカーを測定することで、一部の特発性間質性肺炎の診断を明確に行うことができます。

特記事項

本研究成果は、2017年2月23日(木)19 時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“ Classification of idiopathic interstitial pneumonias using anti-myxovirus resistance-protein 1 autoantibody ”
著者名:Yoshimasa Hamano, Hiroshi Kida, Shoichi Ihara, Akihiro Murakami, Masahiro Yanagawa, Ken Ueda, Osamu Honda, Lokesh P. Tripathi, Toru Arai, Masaki Hirose, Toshimitsu Hamasaki, Yukihiro Yano, Tetsuya Kimura, Yasuhiro Kato, Hyota Takamatsu, Tomoyuki Otsuka, Toshiyuki Minami, Haruhiko Hirata, Koji Inoue, Izumi Nagatomo, Yoshito Takeda, Masahide Mori, Hiroyoshi Nishikawa, Kenji Mizuguchi, Takashi Kijima, Masanori Kitaichi, Noriyuki Tomiyama, Yoshikazu Inoue & Atsushi Kumanogoh.

なお、本研究は、国立病院機構近畿中央胸部疾患センター、井上義一臨床研究センター長の協力を得て行われました。

用語解説

※1 特発性間質性肺炎
肺の奥にある肺胞の壁に炎症や損傷が起こり、慢性経過で線維化が進行し、ガス交換がうまくできなくなる病気。有病率は人口10万人あたり10-20人であるが、診断されるに至っていない早期病変の患者さんはその10倍以上存在すると言われている。外科的肺生検を含めた診断により6つの疾患に分類される。特発性肺線維症(IPF)の場合、平均生存期間は日本では61-69カ月と報告されている。国の指定難病である(指定難病85)。

※2 外科的肺生検
びまん性(広範囲の)肺疾患を診断する目的で、開胸手術あるいは胸腔鏡下肺生検により、肺の一部を検体として切り出す検査。術後、元々の肺疾患が急性に悪化し死亡するケースもあることが問題である。

※3 MX1:myxovirus resistance-protein 1
ウイルス感染時などインターフェロンにより体内の産生が誘導される抗ウイルスタンパク質。近年は、血清MX1タンパク質を測定することにより小児ウイルス感染症診断する研究がなされている。

※4 自己抗体
抗体は、細菌やウイルスなどの病原体に抵抗する物質。自己抗体は自己のタンパク質、細胞、組織と反応する抗体。疾患の原因になる。

研究者のコメント

特発性間質性肺炎はいまだ原因不明の難病です。本疾患の中に存在するサブグループが今後一つ一つ明らかになり、将来的に、病気の原因や治療薬が開発できるよう研究を継続していきたいと考えています。

参考URL

大学院医学系研究科 呼吸器・免疫アレルギー内科学
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/imed3/lab_8/index.html

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