2016年12月20日

概要

大阪大学産業科学研究所の古賀大尚特任助教(常勤)、岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授らの研究グループは、紙を使って、化成品を高効率合成することに成功しました。

我々の豊かな暮らしを支える医薬品のような有用化成品は、すべて触媒反応によって合成されており、高効率な触媒反応器(リアクター)の開発は、資源・環境・エネルギーのあらゆる面で重要な課題です。今回、本研究グループは、あらかじめ触媒を固定化した植物繊維を紙抄きすることにより、「紙の触媒リアクター:ペーパーリアクター」を開発しました。このとき、紙の内部に、植物繊維に由来するマイクロ~ナノスケールの極微小な階層流路を設計することにより、従来の触媒リアクターと比べて2倍以上も高い効率で、医薬中間体を連続フロー合成することに成功しました(図) 。また、ペーパーリアクターは、紙と同じように簡単に作製でき、使用後はリサイクルも可能で、高い性能を保持したまま再生することもできました。

これらの成果により、様々な化成品の高効率合成が可能になると期待されます。また、省資源・環境調和といった昨今の社会的要請にも応えるものであり、グリーン・サステイナブルケミストリー※1 の実現に大きく貢献します。

図 ペーパーリアクターによる有用化成品の高効率・連続フロー合成

研究の背景

全ての化学産業は触媒反応によって支えられており、高性能な触媒反応器(リアクター)の開発は、資源・環境・エネルギーのあらゆる面で重要な課題です。近年、従来のフラスコ撹拌式・バッチリアクターに代わり、高反応効率・低環境負荷の連続フロー式・固定化触媒フローリアクター※2 に大きな期待が集まっています。しかし、フローリアクターの作製には、ガラス等の比較的高価な基材に加えて、微細流路をつくるために、リソグラフィのような工程が煩雑で消費エネルギーの高いプロセスが必要でした。

本研究グループは、安価な植物繊維に高活性な金属ナノ粒子触媒を固定化した後、シンプル・低消費エネルギーの紙抄きプロセスで成型することにより、紙ベースの固定化触媒フローリアクター「ペーパ-リアクター」を開発しました。ペーパーリアクターをフィルターのように使って原料溶液を通すと、内部で触媒と接触し、有用化成品に変換されて出てくる仕組みです。このとき、高い変換効率を達成するためには、原料が触媒によく行き渡る微小流路構造を設計することが重要でした。すなわち、ペーパーリアクターの内部に、植物繊維ネットワークに由来するマイクロ~ナノスケールの微小階層流路をつくることにより、ガラスや合成高分子ベースの従来の固定化触媒フローリアクターと比べて2倍以上の高い反応効率で、医薬中間体(4-アミノフェノール)の連続フロー合成を実現しました。またペーパーリアクターは、少なくとも10回以上、性能を損なうことなく繰り返し使用可能でした。使用後には、紙と同じようにリサイクルすることができ、高性能なペーパーリアクターとして再生することにも成功しました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、広範な触媒反応に応用可能であり、様々な有用化成品合成プロセスの高効率化に貢献します。また、高活性である一方で枯渇性資源であることがネックであった金属触媒のリサイクル・再生利用も可能にするため、グリーン・サステイナブルケミストリーの実現に大きく寄与すると期待されます。

特記事項

本研究は、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究「COREラボ」の一環として行われました。本COREラボプロジェクトは、大阪大学産業科学研究所の古賀大尚助教(常勤)、岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太准教授、九州大学先導物質化学研究所の長島一樹助教のメンバー構成で推進しています。

用語解説

※1 グリーン・サステイナブルケミストリー
生態系に与える影響を考慮し、持続成長可能な化学産業の在り方を提言する環境運動です。触媒プロセスにおいては、特に、省資源・リサイクル・廃棄物を可能な限り排出しない、といったことが求められています。

※2 固定化触媒フローリアクター
微小流路(特にマイクロ流路)を持つ構造担体に触媒を固定化した連続フロー反応用のリアクターのことです。①微小流路による高速拡散効果で反応物と触媒の接触効率が向上する、②生成物に触媒が混入しないため精製分離が不要で反応溶媒の再利用も可能、といった特長を持っていて、高効率でグリーンな有用化成品合成を実現する次世代プラットフォームとして大きな期待を集めています。

研究者のコメント

2000年の歴史を持つ紙は、最早古いものとして、時代の流れの中に埋もれつつあります。しかし、最先端の科学技術をもって材料と構造を再設計すれば、魅力的な機能をもつ「新しい紙」として生まれ変わる可能性を大いに秘めています。本研究で開発した「高効率な有用化成品合成を実現する紙:ペーパーリアクター」はその一端を示すものです。この成果が、紙の価値を改めて見直すことに繋がれば、大変うれしく思います。

参考URL

産業科学研究所 セルロースナノファイバー材料研究分野 古賀大尚
http://kogahirotaka.com/

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