2018年4月17日

成果のポイント

・樹木セルロースナノファイバー由来の「透明な紙」とセルロースパルプ繊維由来の「白い紙」を用いて、電気で表示する電子ペーパーを作製。
・従来絶縁性であった紙に導電性高分子またはイオン液体を複合化することにより、透明性に優れた電極と視認性に優れた白い電解質を作製することに成功。それらを組み合わせてフレキシブルな電子ペーパーを実現。
・手書きや印刷で表示してきた従来の紙に、電気で表示するディスプレイとしての新たな価値を生み出す成果。

概要

大阪大学産業科学研究所の古賀大尚特任助教、能木雅也教授らの研究グループは、紙を用いてフレキシブルな電子ペーパーを作製することに成功しました。

我々人類は、約2000年もの間、手書きや印刷で紙に情報を表示してきました。

しかし近年では、電子ペーパー端末等の普及により、情報表示媒体としての紙の価値が低下しつつあります。現在の電子ペーパーは、ガラスやプラスチックの透明基材を用いて作製されていますが、従来の紙は透明性を持たないため、電子ペーパーへの応用は困難でした。

今回、古賀特任助教らの研究グループは、樹木セルロースナノファイバーからなる新しい「透明な紙」※1とセルロースパルプ繊維からなる従来の「白い紙」を併用することで、電子ペーパーの一種であるエレクトロクロミック(EC)ディスプレイ※2を開発しました(図1)

ポイントは、透明な紙に導電性高分子、白い紙にイオン液体※3を複合化する技術を開発し、紙ベースの高透明性EC電極と高視認性白色電解質の作製に成功したことです。これらを重ね合わせることで、全て紙ベースのフレキシブルECディスプレイを実現しました。

これにより、紙に手書きや印刷だけでなく電気で情報を表示することも可能になります。本研究成果はペーパーレス化に待ったをかけるものであり、デジタル社会における「紙」に新たな価値を生み出すことに繋がると期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に、2017年11月7日付で掲載されました。

図1 紙で作製した電子ペーパー

研究の背景

エレクトロクロミック(EC)ディスプレイでは、透明電極に電圧を印加することによって、液体電解質を介したEC層へのイオンや電子の受け渡しを行い、着色と消色を実現します(図2左)。しかし、従来のEC素子には、液体電解質の漏れを防ぐ封止が必要、薄膜加工が困難、電解質の揮発による性能劣化が避けられないといった課題がありました。

古賀特任助教らの研究グループでは、不揮発性のイオン液体電解質(1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([Bmim]BF4))を水素結合によってセルロース繊維の表面に固定化することで、「紙の電解質」を調製することに成功しました。さらに、セルロースナノファイバーを用いて作製した透明な紙の表面に、エレクトロクロミック機能を有する導電性高分子ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸)(PEDOT:PSS)を均質にコーティングすることにより、「紙の透明EC電極」を作製しました。最後に、これらを重ね合わせることによって、新しいEC素子を作製することに成功しました(図2右)。このEC素子は、上述の課題を解決するだけでなく、全て紙ベースであるため、折り曲げも可能な優れたフレキシブル性を有しています。また、白くて反射率の高い紙の電解質は、EC表示層の視認性向上に寄与します。本研究で作製した新しいEC素子は、紙でつくる真のフレキシブル電子ペーパーとして期待されます。

図2 従来のエレクトロクロミック素子(左)と紙でつくる新しいエレクトロクロミック素子(右)の概要図

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、電気で情報を表示する紙の新たな未来を切り拓くものです。また本研究グループは、これまでに、紙ベースのメモリ、トランジスタ、アンテナ、スーパーキャパシタといった様々な電子デバイス素子を開発することにも成功しています。これらの技術を統合すれば、将来、紙の電子書籍も実現すると期待されます。

特記事項

本研究成果は、2017年11月7日に米国科学誌「ACS Applied Materials &Interfaces」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Ionic Liquid Mediated Dispersion and Support of Functional Molecules on Cellulose Fibers for Stimuli-Responsive Chromic Paper Devices”
著者名:Hirotaka Koga, Masaya Nogi, and Akira Isogai

なお、本研究は、科研費・若手研究A(15H05627)、および、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究「COREラボ」(20166008)の一環として行われ、東京大学大学院農学生命科学研究科磯貝明教授の協力を得て行われました。

用語解説

※1 透明な紙
幅数10 μmの木材パルプを解繊して得られる幅3-15 nmのセルロースナノファイバーを用いて作られた紙。セルロースナノファイバー由来の緻密なナノ構造によって光の反射や散乱が抑えられるため、可視光透過率90%にも達する高い透明性を示す。

※2 エレクトロクロミックディスプレイ
電子ペーパーの一種であり、電気的に色が変化するディスプレイ。

※3 イオン液体
常温常圧で液体の塩。不揮発性・不燃性であるため、環境に優しく安全性の高い電解質として期待されている。

研究者のコメント

紙は、人にも環境にも優しいこれからの社会に不可欠な特長を持っています。また、紙は歴史の古い材料ですが、最新の科学技術を駆使して材料と構造を再設計すれば、先端機能材料として生まれ変わることができます。本研究成果は、紙の新しい可能性の一端に過ぎません。今後も、紙によるグリーンイノベーションを目指した研究開発に取り組んでいきたいと考えています。

参考URL

大阪大学 産業科学研究所 セルロースナノファイバー材料研究分野
http://kogahirotaka.com/

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